低予算インディーズの異形の熱量が好き

ハリウッド作品がつまらない、という人がいる。

斜に構えた逆張りポジションを取っているだけなのかもしれないが、金をかけているから投資回収ラインが高いハリウッド作品は、どれもこれも似たような売れ線の構造で、何十年も映画を見ている年寄りにはつまらなく感じられるというのもわからなくはない。

ひるがえって、低予算で制作できるためにしばしば制作者の自己満足に陥りがちなインディーズ作品は、テクニック不足で魅せ方が不十分なものが多いのは確かなのだけど、ターゲットが狭いぶん深く刺さることがあって、はまれば激烈におもしろい。

以下、思いつくままに適当に作品をあげていく。

野球どアホウ未亡人

アマゾンプライムでたまたまおすすめに出てきたので観た映画『野球どアホウ未亡人』は、「なんじゃこりゃあ」とあっけにとられることしきりのアホウ映画だった。

この映画、「未亡人」とタイトルに入っているだけに日活ロマンポルノみたいな艶めかしい雰囲気になっているが、18禁ではない。
レーティングは一般対象だ。
でも、タイトルが水島新司の野球漫画『男どアホウ甲子園』のパロディであることからもわかるように、低予算のB級映画ではある。
主人公の名前は水原夏子。水原勇気と夏子はんをかけ合わせている。
水島新司に怒られそう。

ストーリーの紹介はあえてしない。
15分くらいで止めるつもりで観始めたのに、いきなり意表を突く展開で、結局1時間すべて観てしまった。
この映画にはあなたの知っている俳優は出てこない(たぶん)。
それどころか役者は10人未満しか出てこない。
うち野球をプレイするのは6人だけだ。
主人公の夏子がマウンドからボールを投げるとき、どんなに目をこらしてもバックで守っているはずの選手の姿は見えない。
どうせ運命の対決は三振かホームランだから、守備をする選手など必要ないということか。
しかしバッターとキャッチャーとアンパイアは映るから、野球で絵になるのは、投手の背中を舐めてのバッターボックスにしかないことがよくわかる。

予告編を見返したら、また笑ってしまった。
「私は奥さんがほしい!」「体だけは堪忍して!」のやりとりが、実は野球選手としてのスカウトで、これをやりたかっただけかと笑ってしまう。

昨日、海外版Blu-rayが発売されたらしい。
刺さる人が少ないであろう作品は翻訳してリーチを伸ばすのがよい。

女体化おじさん ※ただし、50歳のまま。

映画の次は小説を紹介しよう。
小説投稿サイトのカクヨムで読んだ『女体化おじさん ※ただし、50歳のまま。』は、地味ながらぐいぐい読ませる。
これも18禁ではない。
エロのいっさいないリアリズム小説だ。

インディーズ小説は数が多いので、タイトルでいかに読者をひきつけるかの勝負になっている。
同じ作者であれば『女子高生二人きりの生徒会室で、スレンダー会長が「おっぱい、もみたい」と口にしてしまい、マシュマロボディな後輩副会長にジト目でにらまれる』という百合小説のほうがずっと人目をひく。
でも『女体化おじさん ※ただし、50歳のまま。』というタイトルもニッチな需要がある。世の中は広い。

この小説は、50歳のおじさんがある朝とつぜん性転換して、背も低くなって、50歳のおばさんになる話だ。
性転換ものというのは、異性になってしまった戸惑いを羞恥混じりで描くのが定番で、この小説もその王道パターンは踏んでいる。

異なるのは「※ただし、50歳のまま。」という部分で、自分の体に見惚れるとか、異性からのセクシーな誘惑に困惑するとかは今のところない。
けれども見た目が明らかに女性らしく変化し、妻よりも胸が大きくなっているので、同居している妻と2人の娘にはすぐにばれる。
仕事でも責任のある立場についているので、会社でどのように言い訳しようかと悩むあたりがリアルで、読みどころになっている。
ドラマ『個人差あります』にも似ているけど、あっちは30歳だったので、まだなまめかしかった。

この小説のポイントは女性ばかりの家族の中での関係性の変化を描いているところだ。
百合小説をたくさん書いている作者だけに、変わった趣向の百合小説と読むこともできる。
あるいは、性転換もののもうひとつのパターンである、S女がM男をかわいがる話にも似ているかもしれない。
とにかく女体化した主人公の内面がかわいいのである。

まだ連載中の作品で、いまは娘に連れられて下着を買いに行くシーンが続いている。
やっぱり王道作品かもしれない。

マナティーと(略)

エロっぽい雰囲気があるのに、ぜんぜんエロくない作品を2つも紹介してしまったので、最後は堂々の18禁作品を掲載しておく。
DSLiteならぬ、DLsiteというインディーズ作品の販売プラットフォームにあった『マナティーとぬちゃぬちゃセックス〜400キロの巨体から繰り出される肉の波があなたを包み込んでいく〜』というボイス作品だ。
ボイス作品というのは、一人称のラジオドラマと思ってくれればいい。

タイトルのマナティーは比喩ではなく、パッケージを見ればわかるように海棲生物のマナティーそのものだ。
古くは人魚と見間違えられたとも言われているように、つるつるのお肌と、しなやかな体躯がなまめかしい(ただし体重は400キログラム)。

先に言っておくと、私は動物とか巨体とかにはあまり興味がない。
でも内容があまりにも気になったので購入してしまった。
声の主は、マナティーはマナティーなんだけど人間の言葉をしゃべる。
本物のマナティーの交尾の声を聴かされるわけではない。

マナティーの声をあてているのは「結音しなん」という声優さんで、ねっとりしたお姉さんの声をしている。
マナティーの年齢は不詳だけど、意外とご年配なのかもしれない(ただし体重は400キログラム)。
もしかすると、パッケージにあるマナティーではなく「自分のことをマナティーと思いこんでいる人間の女性」を想像しながら聴くものかもしれない。でも商品概要欄には次のようにあるから、やっぱりマナティー(メス)の声なのかも。

【各界から絶賛の声!】
マナティー(オス)
「最高の音声です。これで毎日抜いています」

私は最初から最後まで笑いっぱだったけど、そうでない人もいるだろう。
「人のセックスを笑うな」。
そうかもしれない(人じゃなくてマナティーだけど)。

このような作品はインディーズでなければ生まれない。
天才はどこにでもいるのだなと思ったけど、このネタでテレビに出ることはできないから、インディーズでなければ陽の目を浴びない。

ちなみにこの作品の定価は110円だ。
私は半額セール中に55円で買った。
累計販売本数は40本だった。
意外と売れていると思った。


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