【詩小説】約束の井戸で。
《 なにかこまったことはないかい?》
娘がひとり跪き
大きな井戸に呼びかける。
「あのね・・・あのね古井戸さま、
お母様からもらった簪、
なくしちゃったの。」
「御庭の奧の池の横、
小さな祠の影にあるよ。」
「古井戸様 ありがとう。」
娘は笑顔で去って行く────────
ああ・・・良かった。
これであの娘が綻んだ。
《 なにかこまったことはないかい? 》
その昔────────
ワタシを作ってくれたヒト、
生みだしたヒトが
いつもこう言っていた。
だから・・・
ワタシもこの「ことば」
しっかり心に刻みつけ
通るみんなに問いかける。
《 なにかこまったことはないかい? 》
ワタシは────────
器物から生まれた「妖怪」
モノの化身の「付喪神」
それは────────
ワタシを作ったヒト
愛でたヒトとの「約束」で
「100人のヒトを笑顔にするように。 100の幸せ生みだすように。」
それが
私とあのヒトの強い「約束」
固い絆の「約束」で────────
《 なにかこまったことはないかい? 》
「約束」を果たせば
きっといつか人間になる
きっと人間になれるんだ。
笑ってあなたはそう言った。
《 なにかこまったことはないかい? 》
今の娘で98人目。
残すはふたり。
ワタシはきっとやり遂げる。
人になり
やがては散って
きっとあなたの元に行く。
それまでもう少しだけ
待ってて下さい。
もう少し。
《 なにかこまったことはないかい? 》

★片桐みかん様、マガジンに掲載していただき誠にありがとうございます。
★片桐みかん様
この「お題」もとっても楽しく紡がせて頂きました。
いつも素敵な「世界」をプレゼントして頂き
ありがとうございます。
