『 落差 』
『 落差 』
自分のステージが終わる。
まだ鳴り止まぬ熱狂の中、ステージを下り、観客席を突っ切る。
出口へ向かうが、そうすんなりとは通してもらえない。
ステージとは違って、観客席は、スポットライトなしで、結構暗い。
まだ、ステージに意識が集中している人、もう、一緒に来た人と冷めやらぬ思いを分かち合う人、そういう人には、僕は見えてない。ぎゅうぎゅう詰めの中をベースを立てて、身体に密着させ、ヘッドや、ペグで、お客さんを怪我させてしまわないように気をつけながら、満員電車で、目的駅に着いたものの、予想外に当駅で降りる人が少なく、車内奥に置き去りにされ、発車のアナウンスが始まった時の感じだ。
それに加えて、逆に、ステージから降りる僕を串刺しにする視線で追い続けている人のそばにくると、「サイコー!」「ファンキーさん!」などと声をかけられ、抱き締められして、また行手を阻まれる。
やっとの思いで、ドアから出る。もう一枚。もう一枚・・・
フッと、車の行き交う大通りの信号待ちで佇む。
汗ばんだ自分にひんやり夜風が心地いい。
ああ。
横断歩道の向こう側にコンビニ。
人の往来。
車、声、雑踏・・・
今や僕は楽器を持った、ただの通行人だ。
ほんの数分前の「あの人」と、同一人物だと知っているのは、見渡す限りの人、人、人の中に僕だけ。
僕だけが知っている『 落差 』。

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