小説「熾火」全三部(リライト版)を公開します。
人はいつでも、何度でも「生き直せる」——。
三年前に完成したはずの自作小説「熾火」の完全リライト版をお届けします。このnoteでは、その冒頭の一部を公開し、先行価格にてPDFダウンロードをしていただけるようにいたしました。どうぞご検討ください。ご意見をいただけますと幸いです。
熾火Ⅰ
Prelude
携帯電話が鳴ったその時、男は自分が何者かであることを拒絶した。今が何時で、ここはどこで、自分は誰なのか。ましてや電話の相手が誰であるかはどうでもよかった。ただ、目が覚めてしまったことに後悔していた。手を伸ばすと、携帯電話の電源ばかりか固定電話のモジュラー線まで引き抜いてしまった。
それから何日経ったのだろうか。男の家族の元を訪ねて来た者があった。「ご子息にはお世話になっています。上司の谷津と申します。息子さんのお加減はいかがでしょうか」
谷津の来訪は、母の谷中峰子には突然のものであった。まさか一週間も無断欠勤してるだなんて。峰子は夫の義和とともに、谷津の話に耳を傾けた。「息子さんはもう、一週間も出社されていません。私どもとしては、ここは休職として扱いたいと思っております。ついては」と言って、谷津は産業医にかかって診断書を提出してほしいと告げた。二〇〇〇年七月のことだった。家族でベーカリーを営む峰子の胸に、また一つ大きな棘がささった。谷中昌行、三十六歳の夏のことであった。
Scene 01
昌行は上司の谷津が勧めるまま、産業医を受診するために一人駅へと向かっていた。いつの間に見知らぬ街になっていたのだろう。路地へと入る角にあった果物屋も、その向かいのうなぎ屋も既になく、コンビニやコインパーキングに姿を変えていた。もはや「まーちゃん」と、親しく声をかけてくる店主もいない。どこなんだ、ここはいったい……。
(以下はPDF版をご覧ください)
【商品説明】
A5ヨコレイアウトで本文は縦書きです。ちょうど文庫本の見開きのようにご覧いただけるものと考えています。表紙・中扉込みで115ページ、約5万4千字です。

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