【ホラー短編】霊柩車

景気のせいか、最近はめっきり見なくなったが──かつて郊外の道には、時おり「乗り捨てられた車」が転がっていた。
大きなゴミみたいなそれを、俺と友人の吉崎は見つけては家に持ち帰り、売って金に換えていた。
ナンバープレートが外され、エンジンはかろうじてかかる程度。動く車に限って、そうやって夜中に拾ってきたのだ。
俺も吉崎も実家暮らし。庭の広い家で、保管場所には困らなかった。

その晩、俺たちは珍しい獲物に出くわした。
街灯の下、黒光りするボディ。
外車──それも霊柩車だった。
ゾクリと背筋が冷えたが、
「これ、相当金になるぞ」と吉崎が笑い、
俺もつられて車体を覗き込む。

後部の扉は開いていた。
中には、棺桶。
蓋を押し上げると、冷えきった男が眠っていた。
紙片が貼られており、そこには
「須藤広治」とだけ書かれていた。

さすがに引くべきだ、と思った。
だが吉崎が呟いた。
「……これ、仏さんだけ処理できたら、相当稼げるよな」
その一言で、俺の中の欲が膨らんだ。
結局、吉崎の車と霊柩車に分かれて、俺たちは自宅へ向かった。

到着すると、吉崎が先に駆け寄って棺桶を覗き込み悲鳴を上げた。
「うわあっ!」
覗くと、中は空だった。
貼られている紙片には、見覚えのある名前
──「吉崎直斗」。
それは、友人の名前だった。

吉崎は真っ青になり、踵を返して走り去った。
俺はひとり霊柩車を前に立ち尽くす。
気味の悪さと恐怖で指先が冷え、何もできないまま夜を越した。

翌朝、霊柩車は煙のように消えていた。
吉崎も、実家には戻っていなかった。
親御さんは心配していたが、俺は心のどこかで
「高く売れて逃げたのかもな」とも思った。

……半年近く経った、ある晩。
癖で、不法放置車両が多い裏道を流していた俺は、ふと息を呑んだ。
街灯の下に、あの霊柩車が止まっている。

間違いない。

車を降り、駆け寄る。
後部の扉を開けると、棺桶があった。
貼られた紙片には
──「吉崎直斗」。

蓋を押し上げる。
冷たくなった吉崎が、静かに横たわっていた。

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