将来世代を守るのは俺たちだ
春ですね。
気候でも、そう感じるのですが、私は通勤時「真新しいスーツ姿」の人を見ると、特に春を感じます。
良いですよね、希望に満ちている感じがして。
なので、春はなんだかポジティブな気持ちになります。
一方で、春から秋にかけて降雨とともに増えるのが山地災害です。
私たち公務員治山技術者は、山地災害が発生すると、今後の被害を防ぐため、すぐに現地調査を行い、応急工事の発注や、復旧対策の計画を立てる必要があります。
そのため、毎年春になると、防災体制を確認したり、山地災害への注意喚起を行います。
ただ「毎年やる」ということは、どうしても部分的に形骸化してしまうんですよね。
ですが、最近は雨の降り方が変わり、被害規模が大きな災害が増えているので、それらに対応した防災体制の確立や注意喚起が必要です。
そこで今回は、
近年の豪雨災害の発生形態
について、改めて考えていきます。
激しく降る雨が増えている
これから、気温が上昇してくると、ゲリラ豪雨や線状降水帯という言葉が、ニュースから聞こえてくる時期になります。
局所的な豪雨や、長時間降り続く豪雨は、みなさんの身近でも発生していることでしょう。
1時間当たりに50㎜という降水量は、バケツをひっくり返したような雨と表現され、傘が役に立たないような雨です。
こういった短時間豪雨の発生回数や降水量が、データ上でも増加しています。
そして、このような豪雨が増えている原因が「地球温暖化」です。
人間活動によって、温室効果ガス濃度が増加することで、太陽により暖められた熱が、地球内に留まります。
こうして気温が上昇することで、陸や海からの蒸散が進み、水蒸気量が増えるので、降水量も増えるという仕組みです。
地球温暖化は、布団に例えらることがありますが、布団や厚手の毛布で寝ると汗をかきますが、薄手のタオルケットだけなら汗をかかないことをイメージするとわかりやすいですね。
ただ、雨の降り方というのは、そう単純なものでもありません。
日本のように雨が多く降る地域では、地球温暖化により降水量が増えますが、砂漠地帯のような地域では、逆に降水量が減るようです。
以前、パリ協定に関する記事を書きましたが、私たち個人の行動の積み重ねにより、地球温暖化を防ぐことができます。
それは、私たちの子供や世界の将来世代を救うことにもなるのです。
近年の豪雨災害の発生形態
とはいえ、すぐに地球温暖化が収まるわけではありません。
あらゆる対策をしても、産業革命以前に比べて、平均気温2℃の上昇までにしか抑えられないだろうと考えられています。
そして、2℃上昇すると、降水量は1.1倍、洪水発生頻度は2倍になると予測されています。
なので、地球温暖化防止に向けた行動と並行して、降水量が増加することで生じる事象に対応しなければなりません。
治山事業における具体的な対応については、令和林野庁が設置した「豪雨災害に関する今後の治山対策の在り方検討会」により、令和3年3月に方向性がされています。
このうち、森林の土砂流出防止機能を維持・向上させるための対策として、
表層よりもやや深い層からの崩壊が発生していることへの対応
流量増による渓流の縦横侵食が激化していることへの対応
線状降水帯の形成等により山地災害が同時多発化していることへの対応
が示されており、これらを重点的に対応することにより、今後さらに激甚化する山地災害から、国民の生命・財産を守ろうという考えです。
表層よりやや深い層からの崩壊への対応
多量の雨水が短時間で降ると、森林土壌の深い層まで雨水が浸透し、飽和状態になります。
この状態になると、樹木の根系による杭効果、緊縛効果(土砂災害防止機能)は十分に発揮できず、根系の及ぶ範囲よりも深いところ、つまり、表層よりやや深い層から崩壊が発生します。
特に近年は、森林土壌の水分量が飽和状態になりにくい、尾根部付近からの崩壊が多くみられます。
これにより、土石流発生区における土砂供給量が多くなり、規模の大きな山地災害が発生しやすくなります。
これらへの対応として、浸透能の高い森林土壌を保持する観点から、筋工や柵工の施工を進めることとしています。
また、土石流発生区や尾根部付近において、小規模治山ダム等を配置し、崩壊発生源となる渓流の安定化や、斜面の崩壊自体を防ぐため土中に補強材を挿入し、地山斜面の安定を図る補強土工などの対策を行うこととしています。
渓流の縦横侵食量の激化への対応
降水量が増加することで、渓流における流量や流水エネルギーが増加。
これにより、渓流の縦横侵食量も増加するおそれがあります。
渓流の縦横侵食が多くなれば、それに伴う流出土砂量が増加しますので、こちらも同様に、規模の大きな山地災害が発生しやすいということです。
また、侵食が進行すれば、渓流沿い斜面の崩壊を助長するので、さらに流出土砂量が増します。
問題はそれだけではありません。
渓流沿い斜面が崩壊することで、森林が消失しますから、森林が持つ多面的機能が失われますし、流木災害となり被害を甚大なものとするおそれがあります。
なので、流量が増加したとしても、流水エネルギーを緩和するような対策が必要になります。
具体的には、土石流流下区において、階段状に治山ダムを配置し、渓床勾配を緩和する対策が有効です。
また、近年土石流災害が多く発生し、人家人命に被害を及ぼす事例も増えているので、土石流堆積区において、土石流の衝撃力に耐えうる治山ダムの配置も検討する必要があります。
山地災害の同時多発化への対応
近年、線状降水帯が形成された地域において、山地災害が多発しています。
一つの渓流で土砂流出する場合に比べて、複数の渓流で土砂災害が同時多発すれば、その被害が大きくなります。
人家・人命に被害を及ぼすリスクが高いということです。
なので、災害が起きやすい渓流、災害が起きた際に多くの被害を及ぼすおそれのある渓流において、治山対策を進める必要があります。
しかし、国土の2/3を占める森林において、これらのリスクが高い渓流全てを一斉に対策はできません。
予算や人員を考えても現実的ではありませんよね。
なので、まずは対策が必要な箇所を効率的に抽出することが重要です。
そこで活用するのが、リモートセンシングです。
航空レーザ計測などを用いて、要対策箇所を効率的に抽出し、優先度を設定して事業を進めることで、より多くの人家・人命を保全することができます。
また、保全対象の状況に応じて、施設配置の濃淡を設ける(整備率100%にこだわらない)ことも治山事業着手率向上に有効です。
さらに、災害リスクが高い渓流の情報を用いて、警戒避難体制を構築することで、減災対策を進める考えも必要です。
もう一歩深く考えてみる
ここまでが、近年の豪雨災害の発生形態とその対策についての考え方です。
私たち公務員治山技術者は、この考え方に基づいて、事業計画を策定し、事業を実行していくことになります。
いわば、大きな指針のようなものです。
でも、これだけで十分なのでしょうか。
豪雨災害が増えるので、治山対策をこれまで以上に実施していく必要があります。
治山工事の事業量が増えたとしても、生産年齢人口の減少により労働力が低下していますから、工事が実施できないおそれがあります。
このため、ICT建設機械の活用や資材の軽量化など、施工省力化をこれまで以上に進める必要があります。
また、降雨形態の変化の要因が、地球温暖化によるものであれば、工事に伴う二酸化炭素の排出にも配慮が必要です。
このため、荒廃状況に応じて建設資材に木材を活用し、炭素の長期固定を図るほか、森林資源の循環利用を促し、森林の機能を維持していく必要があります。
さらに、尾根部付近の工事などにおいて、外来緑化植物を用いた緑化を行えば、在来種の遺伝的撹乱を生じさせたり、シカの餌場となり獣害を招くおそれもあります。
このため、外来種を用いない、もしくは播種量を低減するなど配慮した緑化を進めていく必要もあります。
なんだか技術士二次試験で問われる「新リスク・懸念事項」のようですね。
このような、もう一歩踏み込んで考えてみることが、技術者にとって大切なことです。
私たちは今後の生活で、地球温暖化による様々な影響を受けて生きていくことになるでしょう。
特に、将来世代は、今よりも過酷な状況に置かれることが想定されます。
これを、カーボンニュートラルの実現や、効果的な治山事業により、少しでも緩和する。
希望に満ちた将来世代のためにも、本気で、そして真剣に、より深く考えて取り組む。
それができる者こそが、本当の治山技術者なのかも知れません。
