【小説】メンズエステのめぐみさん⑬
童貞社会人編は⑩からの続きです。
13話 童貞社会人(4/5)
次の日、教室に行くと僕の机には誹謗中傷がマジックで書き込まれていた。
もちろん誰も僕を助けてくれない。
だが、誹謗中傷は序の口だった。
僕が授業で発表をすると、クラス全員が鼻と耳をふさぐようになった。
プリントを回すとキャーと悲鳴を上げた。
体育の二人組には誰もなってくれなくなった。
給食を配膳するとみんなが食べるのをやめた。
グループ学習で班の人の机に近づけようとすると嗚咽が聞こえた。
だんだんとこの波は他のクラスにも普及していった。
廊下を歩くとみんなが避けた。
トイレに入ると下腹部をスマホで写真を撮られた。
逃げるように個室トイレに入ってもみんなで上から写真を撮った。
雑巾を絞った水をかけられることもあった。
細かいことを言い出したらまだまだ尽きないが、卒業までの3ヶ月間はこんな日々が続いた。
3ヶ月。それだけ我慢をすればもうこれから先は何とかなる。
そう思い受験勉強をひたすら頑張った。
そして念願の第一希望の高校に合格した。
合格を知った時涙が出た。これで全てが終わる。
受験に合格した喜びではなく、この生活から抜け出せる喜びが涙を誘ったのだ。
でも、現実はそんなに甘くなかった。
高校でも生活は変わらなかった。
なぜなら、吉川の仲間の一人が同じ高校だったのだ。
入学してすぐにデマを流したのだ。
しかし、さすがに、進学校の高校生だ。
素性もわからない男を集団でいじめるような人はいなかった。
しかし、特に女性からは煙たがられる存在として認識されていた。
それもそうだ、素性も知らない、部活にも入っていない、悪い噂が流れている。
そんなやつに誰がわざわざ関わるのか。
僕だってそんな奴と関わらない。
仲良くしようもんなら自分がそっちにされるかもしれないから、、、
僕の高校三年間は、予備校生活のように、ただ黙々と勉強だけをして過ぎ去った。
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「でもね、そのおかげで山口のド田舎から東京のしかも誰もがうらやむ〇✕大学の経済部に入ることがです。」
「そうだったんだね。渡辺さん本当に頑張ったんだね。」
「でも、大学になってからの方が、今の自分に近づけたのかもしれない。」
めぐみは、渡辺のふくらはぎのあたりを揉んでいたが手を止めて話を聞いた。
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僕のことを知らない全く街。
マンションの隣の人も、駅ですれ違う人も近くのコンビニの店員も、みんな僕のことを知らない。
僕が約3年間受けてきた苦しみを知らないんだ。
大学デビューほどではないが、、、このタイミングで自分を変えるしかない。
まずは髪の毛を染めて、今までとは違った奇抜なファッションをして、、なーんてそんな大学デビューはさすがにしない。
ただ、1人でもいい。仲がいい人を作る。1人でもいい、本当に好きな人と恋愛をする。
そんな大学デビューがしたい。
そう心に秘めて大学に上京をした。
緊張や不安とは裏腹に、なんと、大学生活は想像以上の滑り出しを見せた。
高校時代、友達がいなかったおかげで読書が趣味になっていた。
その流れで、読書サークルに入った。
読書サークルは同じ学年は10人ほどと少なかったが、男女比がちょうど同じで、ケンカもなく、凄く充実した日々を送っていた。
みんなで飲みに行ったり、テスト前に僕の家で、みんなで勉強をしたり、二日酔いで学校をずる休みしたり。
本当に思い描いたような楽しい大学生活ができた。
そんな楽しい大学生活も、あっという間に3年が過ぎた。
いや、楽しいからあっという間だったのかもしれない。
そして、サークルは3年で終了になる。
「お疲れさまー!」
僕たち読書サークルは、3年生の夏休みの合宿をもって活動が終了になる。
合宿とは名ばかりで、3年生の卒業旅行みたいなものだ。
合宿先は毎年、3年生が好きな小説の中で舞台になっているところに、聖地巡礼するという、一応読書サークルっぽい条件がある。
そして、最終日はみんなで大ホールを借り、みんなで宴会をする。
そんな伝統があった。
「三年間なんてあっと言う間だね~」
「先輩たちがいなくなるの寂しいっす。」
「でも学校にはあと1年いるからたまには顔出すよ!」
「それはちょっと、、、」
「おいいい!」
ケラケラと笑いが絶えることがなく、とても楽しく会が進んでいく。
「じゃあ、これで宴会は終了。ここからは3年生だけ残って2次会だから!」
えーという下級生が声を上げる。でも、これもまた伝統だ。
僕たちも去年までは残念に思っていたが、今になってわかる。
どれだけ後輩と仲良くなっても同級生同士の長年の絆には勝てない。
そして、この合宿を最後にみんな就活を始めていく。
もう卒業まで全員が集まることもないかもしれないのだ。
それも踏まえるとやはり最後に苦楽をともにした同じ学年のメンバーだけで語りたいという気持ちは当然のことだった。
結局2次会は、朝まで続いた。
次の日、僕は、ある女子と2人になっていた。
「渡辺君は、どういった業種狙っていくの?」
みんなこの時期にもなるとだんだんと就職活動を考え始めている。
「まだ自分でもわかっていないんだ。でも、営業とかは向かない気がしててさ。」
「うん。渡辺君って優しいし、営業ってキャラじゃないと思う!」
「やっぱりキャラじゃないよね?そうするとどういう業種がいいかとかを色々調べてて、、、結局まだ本格的に動けてないかな。洋子さんはどういう系を考えているの?やっぱり教師?」
彼女は教育課程を受けていた。
「うん。ただ、教育免許が取れたからと言って就職が保証されるわけじゃないから。そこが難しいところ。だから普通に就職活動もする予定なんだ。」
「そっか。地元で就職するの?それともこっち?」
「こっちの予定。渡辺君は?」
「僕も関東かな。地元には戻りたくない。」
そっか。彼女はそう言うとぐっと太陽を掴むかのように大きく伸びをする。
「ねえ、渡辺君は好きな人いる?」
急な質問にドキッとする。
君が好きなんだ。
そう簡単に言えたらどれだけ楽になれるか。実は3年間いいなとは思っていたのだ。
しかし、女性の免疫ができてきたとはいえ、今までのトラウマから、ある領域以上に踏み込むのは躊躇してしまうのだ。
「まあまあまあ。そう言う洋子さんは?」
「えー教えてくれないのに私には聞くの?」
洋子はくすっと笑う。
僕はこの笑顔に3年間恋してきたのだ。
「目の前にいるよ。」
洋子は笑顔でそういった。
「え、どういうこと?」
「私、渡辺君のことが好きだったの。ずっと、ずっとアピールしてきたんだよ?」
「ぼ、僕も好きでした!後出しみたいですみません!りょ、両想いだったんですね。」
「うん、そうだったみたいだね。凄く嬉しい。もしよかったら付き合わない?」
「いいんですか?是非お願いします!」
「でも、サークルのみんなには言うのやめよう?特に野田君とか茶化してきそうだし。」
「野田は茶化しそうだね。」
二人とも目を合わせて笑う。
「わかったお互い秘密にしよう!」
指きりをしてみんながいる方へ戻った。
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「渡辺さん、とってもいい大学生活じゃないですか。」
「はい。合宿までは本当に夢に描いた通りの生活ができました。」
本当に、合宿までは、、そうしみじみと念押しをした。
14話に続く(7月13日18:00に公開予定です。次回で童貞社会人編が完結です!)
