掌編小説「賢者は嘘から餅を作れるか?」
彼はアナーム・ジーナ。
錬金術と占術が好きな精霊街の賢者だ。
精霊街への扉は、世界の至る所に隠されている。
寂れた森の祠の中。
深夜の博物館の、使っていない物置。
あなたが居ない部屋の扉。
廃ビルの屋上や、街路樹の樹の虚。
精霊街での彼の役割は、日夜研究に励むこと。
今日の研究は…。
"世界はどれくらいの嘘でできているか?"
アナーム・ジーナは考えました。
僕が今日嘘をついたら、その嘘は僕が知っている。
同じように世界がぐるりと一周したとき。
それがりんごみたいにまあるいのなら?
半分の人が嘘や冗談を言うか、夢をみるだろう。
残りの半分の、半分は、嘘や冗談や夢が自分から現れたことに気づかない。
最後に残った4分の1の人は、今日は嘘も、冗談も夢もきっと現れなかった。
世界の4分の3は嘘でできているが、それは誰にもわからないんじゃないか?
一日半分のりんごを食べると、お医者さんが褒めてくれる。
りんごは健康に良いが、嘘じゃない。
りんごが嘘じゃないのなら、「りんごが嘘」とは本当の嘘だ。
だからみんなが本当のことを言ったら、嘘はなくなる。
「嘘の存在が、嘘になる」から、嘘はある。
だから構造的に物事の半分は、割合で嘘だ。
そして嘘をつく人と、嘘をつかない人は、割合で半分だ。
だから「本当の本当」は4分の1だけ。
みんなが良い嘘に気づかない、なんでもないような一日が、一日りんご半分くらいの健康をつくる。
アナーム・ジーナは一つだけ嘘をついて、精霊街の屋台で嘘の研究の話をして、お餅をいただき食べました。
むぐむぐ、ごくん。
アナーム・ジーナは嘘でお餅を錬金しました。
お餅は穀物を蒸してついた素朴なものでしたが、アナーム・ジーナはお腹いっぱい。
お餅屋さんはアナーム・ジーナに聞きました。
「お餅は嘘でできているのかい?」
アナーム・ジーナは答えました。
「お餅はお餅でできているよ。でも、揚げればかき餅になる。これは嘘かい? 本当かい?」
お餅屋さんは頷きました。
「本当だとも。」
アナーム・ジーナは頷きました。
「ご名答だよ、お餅屋さん。わるい嘘はよくないからね。お餅は、めでたい食べ物なんだ。僕は神さまにもお供えするからね。いつもよろこんでくれるんだよ。」
アナーム・ジーナとお餅屋さんは楽しそうに過ごしましたとさ。
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