掌編小説「タオルケットだけが知っている」
>或る草臥れた背広姿の男が映画館の椅子に浅く腰掛け、欠伸をしながら白黒のスクリーンを観ていた
傍観者)
人は私のような者を、映画館の傍観者と呼ぶ。
尤も、それは私たちが役割を持っているだけのこと。
>自身を傍観者と呼んだ男はポップコーンの硬い粒を忌々しく噛み砕く
>ステージが反転し、スクリーンを隔てた映画の世界へ
主人公)
あぁ…、今の君はこの庭園の花よりも美しい。
ヒロイン)
いけません旦那さま。晩餐会のご婦人方が居るのに、私のような下女に花を贈るなどあってはなりません。
主人公)
違う、違うのだ。花の君よ。
私は貴女の中に仲の良かった母と乳母の面影を見たのだ!
家の書斎で眠る私に、タオルケットをかけてくれたろう?
ヒロイン)
ええ、ええ。
旦那さまが身体を冷やさないよう、私はタオルケットをかけました。
主人公)
連日の仕事に追われていた私には、貴女の優しさが向日葵のように感じられた!
貴女に心救われたのだ!
今の僕の心は、この庭園に虹が掛かかったようだ。
是非、私の元で添い遂げてほしい…。
>舞台は暗転する。ライトが付くとステージが反転しており、映画館の席でうたた寝している傍観者の姿が
>傍観者にスポットライトが当たり、ステージの天井からタオルケットがかけられる
>起きる傍観者
傍観者)
なんだ……いつのまにか寝てしまっていたか。
……そうか。
水面の月を覗くとき、また月もこちらを覗いている。
……ムーンレイカーとは、確か月光に当てられた愚者たちの集団だったか。
ふふ、こりゃあ良い笑い話だ……。
……だが、待てよ?
このタオルケットは、私のじゃないか?
どうしてこの映画館に、同じタオルケットがある?
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければサポートお願いします。
僕の活動費に使わせていただきます😊!