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「事故物件、浄化いたします。」第11話

☆11☆

「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
 黒いローブを着たままテーブルに伏せて寝ていた真理亜を、夏樹が揺さぶって起こしている。
「あ……夏樹?」
「こんなところで寝たら風邪ひくよ」
「うん、ありがとう。起きるね」
 真理亜は右手を机に置いて、上体をはがすように起こした。左手は机の上にある水晶玉に乗せていたので、手首が少し痛い。
「今、お風呂から上がったの?」
「うん。じゃあ僕もう寝るから。おやすみ」
「おやすみなさい」
 夏樹の頭にぽん、と右手を置いて真理亜は微笑んだ。
 夏樹と入れ替わりに百合亜がやってきて、隣に腰を下ろした。
「無事に帰って来られて、よかったわ。迷わなかった?」
「行いは迷わなかったよ。帰りは、夏樹が迎えにきたみたい」
「まあ、夏樹ったら…無意識にそれをするから、困るのよ。独り立ちのお祝いができないじゃない」
「でも、夏樹のおかげで、私は迷子にならなくなったよ。あの子、本当に灯台みたい」
 石の中の魂を癒してくれる銀髪の男がいる所まで、百合亜と真理亜は、眠ることで行くことができる。そこは実体のない世界で、意識はあって視覚もあるのに、目的地に着くまでの道中は暗闇で、道らしいものはない。男の所へ行きたいときは、毎回たどり着けるように願いながら自らの魂だけで行くしかなかった。その道中は体は眠っている。魂が体を離れているときは、他の良くないものに体を乗っ取られてしまう危険があった。儀式のときに着用する黒いローブは、無防備な体を守るための鎧みたいなものだ。ローブの生地には、実体のないものから見えなくなる仕掛けがあり、外敵はもちろん、自分が自分の身体に戻るときも、注意深く探さないと見つけられない。
 そんな状況の百合亜と真理亜にとって、夏樹はありがたい能力を持っていた。夏樹の体のある場所が、暗闇の中で輝く灯台のように明るく光って見えるからだ。夏樹本人は、そんなことにはまだ気づいていないが、百合亜と真理亜には、夏樹の生命力の強さが輝いているのだとわかる。
「さっき、あの人に夏樹は自分の仲間だったと言われたよ」
「そうね、あの子が生まれるときにも言われたわ」
「初めて聞いたよ。なんで教えてくれなかったの?」
「だって、今は私たちの子どもで、あなたの弟として生きるのでしょう?前世が何だって遠慮したくないわ。ただ子どもとして愛したいの。前世が何だろうと関係ないわ」
「ふうん」
 言われてみれば、確かに今は弟だ。前世が誰であったとしても、可愛い弟であることに近いはない。神様みたいな存在が、どうして人として生きたいのかは知らない。おおかた暇に飽きて地上へ遊びに来たのではないかとも思う。夏樹は毎日、朝起きてから眠るまで、遊ぶことを心から楽しんでいるから、全くの見当違いではなさそうだ。
「夏樹のせいで、あなたはまた独り立ちの試験に合格できなかったわね」
「夏樹のおかげかもね」
 真理亜は、鼻に皺を寄せて笑うと、
「もうしばらく、一緒に暮らせるね」
と言った。
「仕方がないわね」
百合亜はそう言うと、真理亜の肩を抱き寄せて、こめかみにキスをした。

第12話へ続く:https://note.com/brainy_clover264/n/nf633079d4237


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