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魔急精神病院〜ココロ〜 第2話

 医療保護入院で魔急精神病院に入院させられた17歳の高校2年生、結城駆(ゆうきかける)が病院を脱走してから3ヶ月後の2025年8月、駆は屋内サッカー場でサッカー部の練習に参加していた。
「駆、ナイスアシスト!」
 チームメイトが駆に爽やかな笑顔でそう言うと、駆も笑顔で応えた。しかし、その笑顔とは裏腹に、駆の心には3ヶ月前から消えることのない蟠りが残っていた。
 練習を終え、帰路に就いた駆は、友人たちと「カナカナカナ…」とヒグラシの鳴き声がノスタルジックに響く夏の夕日に照らされながら、並んで歩いていた。友人たちが他愛もない話で盛り上がるのを横目に、駆は精神病院から脱走したあの日のことを思い出していた。
 猟師のお爺さんに助けられ、山小屋から横浜湘南新聞の記者、荒井紗良(あらいさら)の車で下山した駆は、そのまま母親の実家に送ってもらった。精神病院から2時間以上もかかったため、時刻は23時近くになっていたが、母親と妹は彼を優しく出迎えてくれた。
「本当に本当に良かった。ありがとう、皆様」
 母親は大粒の涙を流し、駆を小さな子どものように力強く抱擁しながら、紗良たちに何度も頭を下げた。
 翌日、看護師をしている母親の勤務先の総合病院で検査を受け、特に異常はなかったため、さらにその翌日から学校に復帰した。2日間しか休まなかったため、先生やクラスメイトたちから特に心配されることなく、駆は再び日常生活へと戻った。 
 しかし、駆の心は晴れることはなかった。駆を必死に守ってくれた恩人たちの安否や、紗良との連絡がつきにくくなったこと等、彼にはあまりに気がかりなことが多過ぎたのだった。
「おい、ボーっとしてるけど、大丈夫か?」
 友人の一人が唐突に言った。駆は慌てて、首を縦に振った。精神病院に入院し、脱走したことは母親と妹以外には秘密にしていた。
「何か悩みがあるなら、俺らに相談しろよ」
 別の友人が駆の肩をポンッと叩きながら、こう言った。
「うん、ありがとな」
 駆は笑顔でこう答えた。
 友人たちと別れ、自宅アパートに入ると、母の眞子(まこ)から意外なことを告げられた。眞子は小太りでキャラメルベージュの茶髪を頭頂部で団子ヘアにし、大きな垂れ目が特徴的な40代半ばのシングルマザーだった。
「記者の荒井さんからさっきRINEが来て、私とかっくんと会って話したいって。かっくんのスマホにも連絡来てたでしょ?」
 その言葉に駆はひどく驚いた。そして、リュックのポケットから自分のスマホを取り出すと、やはり紗良から連絡が来ていた。
「本当だ。勿論、俺も話したいことがいっぱいあるよ」
 駆はそう言いながら、少し表情が和らいでいた。
「近日中だと、今度の土曜日が1日空いてるって。その日でいいかしら?」
 眞子がカレンダーを見ながら言った。
「うん、土曜日は自主練だけだから、午後なら行けるよ。少し気分が晴れたよ」
 駆は、一緒に修羅場をくぐり抜けた恩人たちに久しぶりに会える喜びをヒシヒシと感じていた。


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