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魔急精神病院〜カケル〜 第2話

 2025年5月17日の昼下がり、春とは思えないほどの強い陽射しを浴びながら、波野夫妻は八急アイランドの魔急精神病院の前に立っていた。
「遂に来ちゃったね」
 日和は期待に胸を躍らせながら、魔急精神病院をじっと見つめていた。
 魔急精神病院は横幅100m、奥行き50m、高さ10m程度の大規模な病院で、その周りにはテニスコート4面分ほどの庭があり、高さ3mほどの重厚な塀で囲われていた。建物と庭は近代的で清潔感があり、庭木も手入れされており、一見、普通の病院にしか見えない。しかし、その病院を囲む塀はまるで収容所のようであり、さらに塀の上には有刺鉄線が設置されていた。そして、その有刺鉄線には作り物の血や髪の毛、服の切れ端が所々に絡まっており、綺麗な見た目とは裏腹に、この病院が普通の病院ではないことを暗に示していた。
「作り物とはいえ、凄くリアルだな。本物の精神病院もこんな感じなんだろうか?」
 唯史はぼそっと呟いた。
「まさか〜これはお化け屋敷だよ?本物はこんなんじゃないでしょ」
 日和は笑いながら答えた。
 その後、2人は魔急精神病院の前で写真を撮り、銀板に「魔急精神病院正門」と書かれた重厚な門を通って病院の敷地に足を踏み入れた。魔急精神病院はオープンしてからまだ日の浅い注目アトラクションであるが故に、その庭には仕切りのロープが張られ、そこに蛇行するように数十人の来場客が列を作っていた。しかも、魔急精神病院はそのアトラクションの形式から、1日200人までしか来場できないため、既に新規に入場できなくなっていた。しかし、2人は予約済みであるため、列には並ばずに正面玄関へと直接向かった。
「門や塀は不気味だけど、建物はきれいだね」
 唯史はぼそっと呟いた。
「そうね。一見、お化け屋敷には見えないよね」
 日和は病院の玄関口の前にある淡い水色の柱と「魔急精神病院」と白板に藍色の文字で書かれた玄関屋根の上にある看板を見ながら言った。しかし、玄関口に立つ案内係の女性スタッフは皆、吸血鬼のように白塗りで目の下が黒く、紫色の唇から血が垂れているかのような不気味なメイクをしていた。さらに、看護師の設定なのだろう、その白い看護服は点々と赤く染まっていた。
「皆様、魔急精神病院へようこそ。こちらは、20名ずつのご案内となります。恐れ入りますが、今しばらくお待ちください」
 不気味な見た目とは裏腹に、係員は丁寧な口調で列に並んでいる来場客たちに呼びかけていた。
「お待たせしました。では、中にお入りください」
 そう言うと、係員はガラス扉を開き、波野夫妻と長蛇の列の先頭にいた18人を中に入れた。
「うわ〜怖いなぁ…」
 唯史は全身に鳥肌を立て、妻の手を固く握りながら、恐る恐る歩いた。一方、妻は目を輝かせ、意気揚々と魔急精神病院に足を踏み入れていた。


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