魔急精神病院〜ココロ〜 第7話
オンラインミーティングが終わった後、紗良は3人にこうお礼を言った。
「お疲れ様です。あと、休日の暑い中、駆くんたちとのお茶会とオンラインミーティングに参加してくれて、ありがとうございます」
しかし、3人は笑顔で首を横に振った。
「いえいえ、荒井さんのためなら、休日でも深夜でも付き合いますよ」
鈴木はこう言った後、顔が赤面した。彼は「しまった、言い過ぎた!」と内心、恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。そんな鈴木を見て、田中と千夏はニヤニヤ笑いを堪えるのに必死だった。
「本当にありがとう。この計画、鈴木くんたちは参加しなくて良かったのに…危ないことに巻き込んで本当に申し訳ないです」
紗良は申し訳なさそうに言った。すると、鈴木がブンブンと首を横に振った。
「何を言うんですか?3ヶ月前に荒井さんが俺に内緒で魔急精神病院に行かれたときは、本気で心配したんですよ?俺が移動中や山小屋でどれだけ無事を祈ったか。本音を言えば、荒井さんにはもうあの病院には行ってほしくありませんが、荒井さんは一度決めたらそれを覆さない人です。だから、これからは絶対に、魔急精神病院に荒井さんを1人で行かせません!」
鈴木は真っ直ぐな瞳で紗良を見つめ、強い語気で言った。そんな鈴木に紗良は笑顔でこう言った。
「ありがとう、私を気遣ってくれて。鈴木くんは優しいね」
すると、鈴木はまた顔を赤く染めた。
「ねぇ、荒井さんって、鈴木さんの気持ちに気づいてないのかしら?」
千夏は耳打ちで田中に聞いた。
「さぁ…」
田中は首を傾げていた。
その後、4人は解散し、紗良はその足で伊達メガネを購入した。その伊達メガネを自宅の洗面台でかけながら、独り言でこう呟いた。
「田中さんと佐藤さんもだけど、私の顔は病院に知られている。髪型も変えたし、これにマスクをすれば、バレる可能性は低いでしょう…
「博治さん、もし、貴方の遺品が見つかったら、私が譲り受けても良いかしら?来週、貴方の所に行ってそこから救い出すから、もう少し待っててね」
紗良の目からは大量に涙が溢れていた。
それから6日後の黄昏時、紗良は鈴木の車で魔急精神病院のある山の麓の町に向かっていた。
「仕事後の疲れている時に車の運転、本当にありがとう」
紗良は後部座席で鈴木にこうお礼を言った。
「荒井さんのためなら、運転なんて苦じゃないです」
鈴木は顔を赤らめながら、こう言った。
「あの、鈴木くん、私ね…まだ前を向けないの」
紗良はビルの間に沈んでいく夕日を見ながら、ポツリと言った。
「白石さんのことですか?」
鈴木は「脈がないのでは?」と内心心配しながら、こう聞いた。
「…うん。博治さんは本当に素晴らしい人だった」
紗良は涙ぐんでいた。そんな紗良をバックミラー越しに見た鈴木は、心が沈み、内臓が持ち上げられているような変な感覚を覚えていた。
「でも、博治さんはもういない。分かってるけど、なかなか前に進めないの」
紗良は俯いていた。鈴木もしばらく黙っていたが、勇気を振り絞り、こう口火を切った。
「お、俺、白石さんみたいに賢くありませんが…荒井さんへの気持ちは人一倍あります!荒井さんが前を向けるようになるまで、いつまでも待ちます!」
そう言った後、鈴木は心臓が脈打ち、全身が火照っているのを感じた。そんな鈴木を紗良は頬を赤らめ、目を丸くしながら見つめた。
「それって、まさか…?」
紗良は口を両手で押さえた。
「荒井さん…好きです!」
鈴木は顔から火を吹きそうな様子で、紗良に告白した。紗良は、窓に頭をぶつけそうになるくらいに驚いていた。
「え、えっと…どうしよ…」
紗良は頭が混乱していた。まさか鈴木が自分を好いているとは、これっぽっちも気づいていなかった。一方、鈴木は紗良がなかなか返事を返さないため、不安になっていた。
「鈴木くん、ありがとう。嬉しいよ。でも、ちょっと時間が欲しいな。このプロジェクトが成功したら、答えを出すね」
紗良は少し照れながら答えた。
「分かりましたよ」
鈴木は左手で頭を掻きながら言った。
その後、麓の町に着いた2人は、町の旅館で田中、千夏と合流し、男女に分かれて宿泊した。その夜、男部屋で、鈴木は田中とお茶と茶菓子をつまみながら、今日のことを話した。
「それは可能性アリですよ!良かったですね〜」
田中は上機嫌に言った。
「そうなんですね」
鈴木は少しホッとしていた。
「だって、好きじゃないなら、そこで『ごめんなさい』とか『友だちとしてお付き合いしたいです』って言いますもん。あくまで俺の予想ですが、荒井さんはこのプロジェクトが無事に成功したら、鈴木さんとお付き合いしたいと思っているんじゃないですかね」
田中はおまんじゅうを頬張りながら言った。それを聞いて、鈴木はフワフワと宙に浮いているような幸せな気持ちになっていた。
「ただし、成功しないとですね。俺、全力で荒井さんを守ります!」
鈴木は右腕に力こぶを作りながら言った。
「そうですね」
田中は笑顔で頷いた。
