魔急精神病院〜ココロ〜 第6話
日本で最も悪名高い精神病院と言われる魔急精神病院に入院している患者は、その殆どが身寄りのない人や家族がいても交流のない人、ホームレスや犯罪を犯した人、介護施設等で見切りをつけられた人だった。それ故に、病院内で死亡しても誰も気にせず、虐待があっても表沙汰にならなかった。そして、病院内で息を引き取った患者の遺体の大半は、臓器移植用に解体されたり、検体にされた。そんな病院であるため、遺品が遺族に返却されることはまずなかった。
しかし、今回犠牲になった5人には、家族や仲間がいた。首藤と不動の遺族には遺骨だけ返されたが、あとの3人には遺族がいなかったためか、遺骨さえ返却されなかった。患者ではなかったものの、病院に命を奪われた白石は養子だったが、養父母は亡くなっていた。それから、秋原は一人っ子で、早くに両親を亡くしていた。そして、2人とも配偶者も子どももいなかった。また、木野も一人っ子で、両親は既に他界し、妻子はいたが木野との縁を切っていた。
その代わり、5人にはかけがえのない仲間がいた。このような患者は今までの魔急精神病院にはいなかったので、病院側にとっては想定外だった。
しかし、病院は特に対応せず、何ヶ月経っても5人の遺品は返って来なかった。そこで、5人の魂と、遺族や残された仲間の無念を晴らすべく、紗良たちは病院職員の仙石と東方とともに、病院から遺品を取り戻す計画を立てたのだった。なお、先述の通り、遺体白石と木野、秋原の遺骨は引き取りが見込めないため、遺品だけにターゲットを絞ったのだった。
「荒井さんたちが魔急精神病院に潜入する日ですが、来週の16日はいかがでしょう?この日はお盆で土曜日です。休暇中の病院職員がいつもより多いです」
東方が卓上カレンダーを画面に映しながら、こう提案した。
「う〜ん…職員が少なくなっている所に私たちのような部外者がいたら、逆に目立つのでは?」
紗良が首を傾げながら言った。
「確かに。ただ、それを見越して、私は予め手を打っておきました」
東方が言った。
「手…と言いますと?」
紗良はキョトンとしていた。
「社員旅行を計画しました。自慢に聞こえたら申し訳ありませんが、実は私の家は資産家で、代々開業医をやってきたため、お金ならあります。3週間前に初めてこの計画を立てた時、多くの職員を一時的にでも減らすにはどうすれば良いか考えました。そこで、私は自分の財産と、足りない分は父に頼んで旅費を工面し、沖縄でホテルを経営する叔父に連絡し、宿泊先を確保しました」
東方のその発言を聞いたとき、鈴木は腸が煮えくり返っていた。それと同時に、収入や資産、社会的地位が自分よりも圧倒的に高い東方に、男として負けたような気持ちになっていた。
「沢山の患者を虐げる奴らが、何を遊びに行こうとしてんだよ!しかも、東方の実家は資産家かよ!コイツ、何か腹立つわ」
鈴木はそんなことを考えていた。
「しかし、さすがに病院を空っぽにする訳にはいきませんよね?普通の会社とは違いますし。しかも、私が懸念していることへの対処は出来ていない気が…」
紗良は眉根を寄せながら言った。
「それはご心配なく。お盆の時期は休暇に入る職員が多いため、毎年、臨時職員が採用されるんです。皆様にはこの臨時職員として、魔急精神病院に潜入して頂きます
「また、患者さんの人数に応じて、必ず配置しなければいけない医療従事者の数が法律で決まっています。ただ、魔急精神病院の医療従事者は、法定の2倍以上の人員がいます。なので、全体の半分程度に減らすべく、社員旅行は2回に分けて行います」
東方がそう言うと、鈴木はテーブルの下で拳を強く握りしめ、こう思っていた。
「あんなクズ病院に職員が集まるのは、単に高い報酬目当てだろ!クソが!」
「分かりました。ご協力ありがとうございます」
紗良はこうお礼しつつも、「お金持ちのやることはスゴイわね」と内心苦笑いしていた。
「ちなみに、魔急一の猛獣、横島は16日当日はおらん。社員旅行に参加するようだ。奴がいないだけでも、格段に危険性が下がるだろう」
仙石がそう付け加えた。鈴木は憮然とした様子だった。
「肝心の遺品は、何処に行けばありますか?」
紗良が仙石に尋ねた。
「地下の倉庫だ。大型百貨店の1階分の広さはあるだろう」
仙石からそう言われ、週刊EXPOSEの4人は頭が真っ白になった。
「心配しないでくれ。わしは魔急精神病院の構造を誰よりも熟知しているし、遺品のスペースは把握している。ただ、それでも、遺品の量は膨大だから、この6人で手分けして探そう」
仙石はこうフォローした。
「分かりました。では、もう一度計画をおさらいしますね
「私たち4人は、朝7時頃に猟師さんの宿舎の駐車場に車を停めます。病院から脱出した時に助けていただいた山小屋の場所は、横島にバレてしまったため、山小屋よりも少し離れた所を使わせていただきます。勿論、猟師さんたちは了承を得ました。ちなみに、車は2台で行きます
「そして、そこから歩き、魔急精神病院の営業時間前の8時頃、従業員用出入口から少し離れた所で仙石さんが待ってくださっているので、仙石さんと合流してから中に入ります。それから、従業員宿舎で職員の制服に着替えた後、仙石さん、東方先生と一緒に正面玄関から病棟に入ります」
紗良がここまで説明すると、仙石がこう補足した。
「荒井さんと佐藤さんは清掃員になり、わしと行動を共にしよう。鈴木さんと田中さんは看護師になり、東方先生と行動するように。実は土曜日はわしらは非番なんだが、臨時職員に扮した君たちに病院を案内するという体で病院内に潜入する」
その仙石の言葉を聞いた時、鈴木は嫌いな東方と一緒に行動することに不満な様子だった。
「補足ありがとうございます。その後、病院の地下倉庫に行き、5人分の遺品を持ったら、行きと同じく、正面玄関から外に出ます。その後、職員用の駐車場にある仙石さんの2トントラックに乗り、病院の外に出て、猟師さんの宿舎で各々の車に乗り換え、脱出します。なお、仙石さん以外の5人は荷台に乗ってもらいますが、短い間なので辛抱してください。
「以上、これが今回の計画です。何かご質問はありますか?」
紗良がこう尋ねると、5人は首を横に振った。
「では、来週土曜日にまたお会いしましょう。必ず成功させましょうね!」
紗良がこう鼓舞すると、5人は力強く頷いた。
