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魔急精神病院〜ココロ〜 第4話

 その時、店員が注文の品を持って個室に入ってきたため、紗良は一旦話を中断した。飲み物やデザートが9人全員に行き渡り、店員が「ごゆっくりどうぞ」と言いながら、会釈で個室を退出すると、再び紗良が口を開いた。
「では、気を取り直して、話を進めましょう。まず、駆くんに伝えないといけないことがあります」
 そう言いながら紗良が駆を見ると、他の9人の視線も一斉に彼に向けられた。駆はバツの悪い顔をしていた。
「駆くん、真実を知る準備は出来ていますか?」
 紗良にそう聞かれた瞬間、駆は心臓が高鳴るのを感じた。悪い話であることは明らかだった。駆は「スゥ〜、ハァ〜」と深く深呼吸すると、静かに頷いた。
「不動先生と木野さん、秋原さんは…亡くなりました」
 紗良が項垂れながら、駆にこう告げた。駆は、心にポッカリ穴が開くのを感じた。他の10人も暗い顔で押し黙り、駆と鈴木の頼んだコーラと眞子の頼んだクリー厶ソーダの「シュワシュワ…」という音だけが個室に響いていた。そんなお葬式のような重たい沈黙を破ったのは、仙石だった。
「君たちが逃げた後、3人は横島たち看護師と精神科医たちに拷問された。逃げた君の行方を吐かせるためにね。でも、3人とも口を割らんかった。3人は漢だった
「悍ましすぎてあまり詳しくは言わないが、最後は皆、横島に殺された。…お悔やみ申し上げます」
 仙石は涙ながらにそう言うと、両手で頭を抱え、冷や汗をかきながらガクガク震えた。そんな仙石の背中を東方が優しく擦った。駆は目から熱いものが溢れ出てくるのを止められなかった。
「魔急精神病院、本当に許せない!勿論、私はすぐに魔急精神病院について記事を書きました。しかし、私の記事が…世に出ることはありませんでした」
 紗良はギリギリと歯軋りをし、怒りを滲ませていた。彼女のその発言に、鈴木以外の全員が目を丸くし、口をあんぐりと開けた。
「横浜湘南新聞の上層部が寝返ったんです。恐らく、魔急精神病院の経営陣や、さらにその上からの圧力があったのでしょう。荒井さんの記事は、証拠に欠けるとしてお蔵入りになりました」
 鈴木も米噛みに血管を浮かせ、怒りを顕にしていた。
「私は、何度も録音データやスマホで撮った写真や動画を上に見せました。しかし、結果は覆りませんでした」
 紗良も怒り心頭だった。
「ただ、週刊EXPOSEは魔急精神病院についての記事を6月2日号に掲載しました。勿論、『精神病院の職員に失礼だ』とか『頭のおかしい患者の言う事を鵜呑みにするのはどうかと思う』など、多数のクレー厶はありましたが、『精神病院は不要』『こんなに人権侵害の甚だしい場所は他にない』など、少数ですが、肯定して頂ける読者様もいらっしゃいました。なので、私たちの声に耳を傾けて頂ける方も一定数いらっしゃることは確かです」
 田中が紗良たちを落ち着かせるべく、こう伝えた。すると、紗良と鈴木の顔から怒りの色が消えた。
「さすが、週刊EXPOSE!本当、昔から権力に屈しない素晴らしいメディアですよね!それに比べ、権力に屈し掌を返した横浜湘南新聞を、私と荒井さんは退職し、週刊EXPOSEの出版社、ユースティティア株式会社に転職しました」
 鈴木は、やれやれと首を横に振りながらこう言った。
「そうだったんすね!」
 駆は紗良と鈴木を見ながら、驚いた様子で言った。
「私たちの話はこの位にしましょうか。では、ここから先は週刊EXPOSEのメンバーと仙石さん、東方先生で話し合います。我々はこのカフェから鈴木くんの自宅に移動します。勝手なことを言い、申し訳ありませんが、皆様はこちらでお寛ぎ下さい。ちなみに、会計はもう済ませてあります」
 紗良はそう言うと、オンラインミーティングを一時退出し、ノートパソコンの電源を切った。それを聞いた駆は動揺した。
「え?もう解散すか?」
 駆は少し不満気に紗良に尋ねた。
「ごめんなさい。私も駆くんともっと話したいんだけど、ここから先は本当に申し訳ありません。ただ、連絡は何時でもしてきて良いですからね」
 紗良は頭を下げながら、こう言った。
 その後、紗良たち週刊EXPOSEの面々は退席し、残った5人は飲み物やデザートを堪能しながら、互いのことをたっぷり話した。駆は「精神医療被害者」という共通点のある、世代を超えた新しい仲間ができ、とても満足していた。


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