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季節の名前⑥小さな種

「この前話していた本、読みました?」

いつもの喫茶店で、本の話をしていた。

話が一段落したところで、その人がふと聞いた。

「友達って、います?」
私は少し考えて、
「いないですね。」と答えた。

「……そうなんだ。」

驚いたような、納得したような顔。

「知り合いはいるんですけど。友達って聞かれると、いないって答えます。」

「オトナになると、難しいよね。」

その人は静かに笑った。

私は窓の外を見る。
木々は少しずつ秋の色を濃くしている。

昔は、「友達」という言葉だけでよかった。
学生の頃なら、友達と呼んでいた人たち。
けれど、大人になるにつれて、 「信頼している同僚」
「仕事仲間」 「昔からの知人」そんなふうに、関係に名前をつけるようになった。

どうしてだろう。

「友達」と呼ばなくなったのは、 友達ではなくなったからなのだろうか。
それとも、名前をつけることが少し怖くなったのだろうか。

「友達って、何なんでしょうね。」

思わず口にすると、その人は少し考えてから言った。

「名前をつけた途端、難しくなることもありますからね。」
私は笑った。

帰り道、街路樹の葉が一枚、足元に落ちた。

名前がなくても、大切なものは大切なのに。

そんな言葉が、心の中に小さく残った。


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