その人が犯人とは限らない‐取調べを受けているということの意味と黙秘権
こんにちは、弁護士の髙野です。
逮捕されている。取調べを受けている。起訴をされた。このような報道を目にした時、多くの人が「もうこの人は犯人だ。」「この人は罪を犯したのだろう。」と考えてしまいます。しかし、取調べを受けている時点では、その人が罪を犯したことは確定していませんし、取調べは有罪を決める場でもありません。捜査のための情報収集のプロセスに過ぎません。
それにもかかわらず、「取調べを受けている=犯人」という誤解が強く、その人の取調べに対する姿勢が批判の対象になることも少なくありません。
取調べを受けている時点ではあくまで「疑われている」だけ
刑事手続では、被疑者という立場は「疑いの段階」を意味します。ここに「罪と犯した人」というラベルが付くのは、裁判で有罪が確定した後です。この区別が曖昧になると、取調べ対応が一気に危うくなります。被疑者の家族ですら「警察から取調べを受けているのだから罪犯したのだろう。早く認めて償って欲しい。」と考えてしまうからです。最愛の家族にそのように思われれば、たとえ無実でもその姿勢を貫くのは非常に辛くなるでしょう。
黙秘はやましい人が取る選択肢ではない
取調べを行った警察官は、話した内容を供述調書という書類として残そうとします。取調べ中の発言は「将来の裁判の材料」になるのです。ここを軽視すると、真実とは違う方向に事件が進むことがあります。本人が「犯人扱いされている」と感じるほど、早く疑いを解きたい一心で、曖昧な説明や大げさに盛った発言をしてしまうからです。
これを防ぐための手段が黙秘権の行使です。
自分の説明がうまく伝わらない不安、誘導的な質問で言葉尻を取られる恐れ、あるいは記憶が曖昧な部分を不用意に断定してしまうリスク。そうした状況では、黙秘という選択は合理的な防御になります。しかも、黙秘している間に弁護人と相談して方針を整えることで、必要な説明を必要な範囲で行うことも可能になります。
ここで重要なのは、黙秘に対する誤解です。黙秘は「何か隠しているから」「やましいから」と見られがちですが、それは法的には誤った理解です。犯人だと決まっているわけではないのだから、黙秘することを批判することはおかしい。黙秘権は、疑われた人が自分を守るために認められた正当な権利であり、「話さない=悪いこと」という道徳的非難で押し潰してよいものではありません。
なお、仮に本当に罪を犯している人だとしても、黙秘をすることはなんら責められることではありません。自分の説明がうまく伝わらない不安、誘導的な質問で言葉尻を取られる恐れ、あるいは記憶が曖昧な部分を不用意に断定してしまうリスクというのは、罪を認めている人にでも生じます。これにより、本来負うべきではないほどに重い責任を負わされることは避けなければなりません。
まとめ
「取調べを受けている人は犯人とは限らない」。
これがきちんと理解される社会でなければ、一度なんらかの理由で捜査機関に疑われれば、そのまま有罪になってしまうような社会になりかねません。本人を励ますつもりで家族が「全部話したほうがいい」と言ってしまうと、本人は心理的に追い込まれ、適切な判断を失います。「黙秘するなんて怪しい」と責めることも同じです。黙秘は正当な権利であり、批判の対象ではありません。支える側が「取調べ=犯人ではない」「黙秘は正当」という理解を持つことが、被疑者本人を守ることに繋がります。
取調べは、対話の場であると同時に、証拠が作られる場でもあります。だからこそ、無罪推定を前提にした行動が必要です。もし身近な人が取調べを受けているなら、最初にすべきは「弁護士に相談すること」です。誤解を正し、戦略的に判断することが、最終的に本人を守ります。黙秘を含めた適切な対応は、逃げでも甘えでもなく、刑事手続における当然の選択肢です。早期相談が、結果を左右します。
FAQ
Q. 取調べを受けている人は、犯人と考えてよいのですか?
いいえ。取調べを受けている段階では、その人はあくまで「疑われている人」です。犯人だと決まったわけではありません。
刑事裁判では、犯罪の証明がないときは無罪の言渡しをしなければなりません(刑事訴訟法第336条)。だからこそ、取調べを受けているというだけで本人を犯人扱いすることは誤りです。
Q. 黙秘すると、やましいことがあると思われませんか?
そう見られることがありますが、その見方自体が誤解です。黙秘は、疑われた人が自分を守るための正当な権利です。
日本国憲法第38条第1項は、何人も自己に不利益な供述を強要されないと定めています。刑事訴訟法第198条第2項も、取調べに先立って、被疑者に対し、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げることを求めています。黙秘は例外的な裏技ではなく、刑事手続に組み込まれた権利です。
Q. 本当に罪を犯している人でも、黙秘してよいのですか?
はい。実際に罪を犯しているかどうかと、黙秘できるかどうかは別の問題です。
罪を認める場合でも、取調べで不用意に断定したり、記憶が曖昧なことまで話したりすると、本来より重い責任を負わされる危険があります。何を、どの範囲で、どの方法で説明するかは、弁護人と相談して決めるべきです。
Q. 家族が「全部話したほうがいい」と言うのは、なぜ危ないのですか?
本人を励ますつもりでも、その言葉が本人を追い込むことがあるからです。
取調べで話した内容は、供述調書として記録され、将来の裁判で使われる可能性があります(刑事訴訟法第198条第3項)。家族がまず伝えるべきなのは、「早く認めて」ではなく、「弁護士と相談して決めよう」ということです。
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「黙秘します」と言えば取調べは終わる。そう思っているかもしれません。しかし日本では、被疑者が黙秘を宣言しても、警察官は2時間でも3時間でも一方的に話しかけ続けることができます。… pic.twitter.com/OwpK22HMnT
— 髙野傑|弁護士 (@su_takano) May 7, 2026
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