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取調べでは誠実に説明することが危ない:仕事で求められることとは真逆の正解

こんにちは、弁護士の髙野です。
先日、JILA(日本組織内弁護士協会)の研修に登壇しました。

※こちらのnoteも同じ研修を題材としたものです。併せてお読み頂くと良いかもしれません。

日常生活はもちろん、上司とのやり取りや取引先との連絡では、聞かれたことについて詳細に説明することが誠実な態度と受け止められるでしょう。この感覚はまったく自然なもので、おかしくありません。しかし、捜査という特殊な場では、この自然な感覚が自身や会社の首を絞めることにもなりかねません。

取調べで危ないのは、嘘をつくことだけではありません。記録を確認できないまま誠実に話した内容が、後から客観証拠と食い違い、信用できない人だと評価されることなのです。

誠実であるほど自分や会社を苦しめる

取調べにおいて、普段の感覚で話し始めるとすぐに違和感に気づく場面が訪れると思います。

警察官「3月4日のこの取引のことなんですが。」
あなた「1か月前のことなので、手帳とか打合せのメモを見ながら説明したいのですが。」
警察官「それは出来ません。あなたの記憶で話してくれればいいです。」

誠実である人ほど、このような流れでも必死に記憶を掘り起こしながら、説明をしようとしてしまうでしょう。

警察官「では、あなたの話をまとめた供述調書を作ります。」
あなた「わかりました。」
警察官「あなたが話したとおりになっているはずなので、一緒に読んで確認して下さい。」

こうして、供述調書が作られます。この書類に署名をするということは「私はここに書かれているとおりに間違いなく話しました。」という意思の表明になり、裁判所に提出できる形式的な要件が整ったことを意味します。

しかし、ここに書かれている内容が、客観的に正しいかはこのときにはわからないのです。
残念ながら人間の記憶はさほど正確ではありません。おそらく日常の習慣として行っていることや、業務の一環として行ったことを、すべて正確に覚えていて、それを正しく警察官に伝えられる人は、ごくごく一部に限られるでしょう。
その結果、客観的な事実とは異なる内容をあなたが話したという証拠が、捜査機関の手元に残ることになるのです。

警察官「あなたは前回の取調べで〇〇と言っていましたよね。」
あなた「はい、そうですね。」
警察官「しかし、業務日報を見ると✕✕のようですよ。なぜ本当のことを言わなかったのですか。」

「客観的な事実と矛盾する話をしている人は信用できない。」警察などの捜査機関はそう考えます。そして、その内容次第では裁判官も同様に考えます。取調べに誠実な態度で臨み話をするということは、このリスクを自ら生じさせているということなのです。

「誠実に話せばわかってくれる」という願いはおそらく叶わない

警察官や検察官は取調べで「何がなんでも起訴したいと思っているわけではない。本当にやっていないのなら、補充で調べるから正直に話して欲しい。」などと話すことがあります。
これがすべて嘘とは思いたくありません。しかし、現行犯逮捕でない限り、捜査機関は「これはこういう事件だろう」という予測をたてて(絵を描いて)動いています。よほどのことがない限り、この事前の見立てを覆すことがないというのが私の印象です。

しかも、話せば話すほど、上記不利益は積み重なっていき、あなたの信用性は下がっていく一方。つまりは、捜査機関は裁判になれば自分たちの主張が裁判所に認めてもらえる可能性は高まっていく。

そんな状態で、捜査機関に対して、どんなに誠実に対応し、記憶どおりに正直に話をしたとしても「きっとこの人は本当のことを話しているんだ。」と思ってもらえることは限りなくゼロに近いでしょう。
運良く担当の取調官にそう思ってもらえたとしても、その上司、組織自体の判断を覆すことはほぼほぼ不可能に思えます。

黙秘や署名拒否はやましいからする選択肢ではない

大切なのは、不用意に証拠を増やさないことです。自分の言葉で、捜査機関が組み立てようとしているストーリーを補強しない。そのための実務的な対応として、黙秘や供述調書への署名拒否という選択肢があるのです。
これらはやましいから選ぶ方法ではありません。真実身に覚えがない事件であっても、むしろそうだからこそ、選ぶべき選択肢なのです。
また、これらの方法はきちんと法的に認められたものであり、野蛮で違法な手段では決してありません。

FAQ

Q. 取調べでは、なぜ誠実に説明することが危ないのですか?

記録や資料を確認できないまま記憶だけで話すと、後から客観的な証拠と食い違うことがあるからです。
本人としては正直に話したつもりでも、その内容が供述調書に残ると、「前に違うことを言っていた」と評価される危険があります。

Q. 供述調書への署名は拒否できますか?

できます。刑事訴訟法第198条第5項は、被疑者が調書への署名押印を拒絶できることを前提にしています。
署名を拒否することは、やましいからする行動ではありません。内容に不安がある、記憶だけで話してしまった、表現が違うと感じる場合には、署名しないという選択肢があります。

Q. 身に覚えがない事件でも黙秘した方がよいのですか?

身に覚えがない事件ほど、安易に説明しない方がよい場面があります。
日本国憲法第38条第1項は、自己に不利益な供述を強要されない権利を定めています。黙秘は、嘘を隠すためではなく、不正確な記憶や不用意な言葉で不利益な証拠を作らないための手段です。もちろん事件ごとの判断が必要なので、早い段階で弁護士に相談することが重要です。

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