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【短編】来世、飛行機に乗って

物心ついたときから背が低かった。生まれ変わったら、とりあえず平均身長はほしい。
歳の離れたお兄ちゃんたちは、ぼくを名前で呼ばず、チビ、チビ、とからかった。
体も弱くて、外へ出ると体温が上がりすぎ、ぼくは沸騰してしまう。それで死んだのかも?

お母さんのくれるごはん食べたいな。
生まれ変わるにはあの飛行機へ乗らなきゃいけない。大きくて、尾翼にレインボーのかっこいいライン。
でもぼくはなぜだか、保安検査場を通れません。金属探知機ならぬ、テキセイ探知機。
あいつがぼくを阻んで転生させないのです。


「来世のあなたはスポーツマンタイプ。陸上など個人競技に適性があります!」
「あなたは地味なコツコツ系。研究職や、案外左官もいけそうです!」

ぼくだけブザー。ブブー!
「お帰りはこちらですー」でバゲッジゲートから外へポイ!  

どうして……?
もう何年も、起きたらここへ来て並ぶ毎日。
ぼくは前回を子どもで終わったらしく、知識が少なめ。テキセイの作り方がわからないや。

検査員は左右に一人ずつで、合格すれば正面のおじさんがぴかぴかのチケットをくれる。その日の天気図のプリント付き。

ピンポーン。
「あなたは内向的でひとり遊びが得意。創作系もやる気次第です!」

ぼくの前の大きな体の男のひとは、ふわっとしたテキセイでクリアした。なんだよーそれ。ひとり遊びでいいんだ……それなら余裕なのに。

足はいつも右足から。最初の5年くらいは左でダメだったから。つま先で、メタル板の上へそろりっと──乗る。
ブブー!
「あなたはなにも向いている職種が見当たりません!ブブー!」

水なしウォータースライダーは背中が痛い。
みんな手ぶらで飛行機に乗るから、不適正者は空いた手荷物レーンへ流される。
……お腹空いたなぁ。

あ!チョウチョだ、おっきいやつ!
入り口が開け放たれた空港には昆虫も多い。
無意識に追っかけた蝶はぴょいんと、チョウチョばっかりゲートへ逃げ込んだ。
ピンポーン!

「あなたは優雅で飛行距離に秀でてます。オオモンキチョウあたりがおすすめです!」
チョウチョのくせしてぼくより先に飛行機乗れていいな……
けど慣れっこだ。明日も並んでやる。ほかに行くとこも思いつかない。
空港を出ればキンメダイ色の夕焼けがきれー。

きれいはひとりじめしても心がしんみりする。
お兄ちゃんとベランダから眺めた月にはウサギがいた。カップラーメンはスープの匂いが強烈だった。今は、ウサギのいないニセモノの月がぽかん。
ぼくもニセモノだ。テキセイを永遠にもらえない子ども。

よっぽど悪いことをしたのかも……許されないことをして、なのに地獄からもつまみ出された大悪人なのかも……
せぃせぃ、せぃせぃ、息をつきながら丸くなって眠った。
明日にそなえなきゃ。


寝坊した日は、ソファーの下で列が短くなるのを待つ。
売店の貝柱パウチやフィレオフィッシュの匂いが美味しそう。パンのとこはお腹がいっぱいになるから、お兄ちゃんがいつも代わりに食べてくれた。よーし、今日こそ!

意を決し、目をらんらんと決死の覚悟で、やや空いてきた列へと加わる。
ぼくの前は女の子だ。子どもは珍しい──黒いリボンがいくつもついたスカートの後ろ姿へ目が吸い寄せられる。

ピンポーン。
「適性はまだ特に見つからないけれど、あなたはすごく優しい!それだけで十分ですどうぞー!」
ええええ!

ぼくは呆気にとられ、足を動かすのも忘れた。
テキセイがなくても飛行機に乗れるなんて。
ずるい!子どもだから?でもずるい!ここにも子どもいますよ!
「次のかたお進みくださいー」

後ろから押し出され、両足でボードを踏んじゃった。答えを待ち構える暇もなく、聴きなれたあの濁ったブザー。
ブブー!
「あなたには人間の適性がありません!……毎日お伝えしてるんですが」
ぐいんぐいんと4回カーブして、ローラーコンベアで吐き出される。痛い!
得意の着地に失敗しておしりを強打するとこだった。

立てないけど立たなきゃ。迷惑客と思われスプレーの人が来たら、とうぶん目と喉がゴロゴロするんだ……


優しくなれたら、ぼくもテキセイをもらえる?体が進まない。
涙も止まらないや。グーの手で顔をこする。
何か探そうにも悲しみで力が出ない。

「つくね?」

体が勝手に振り向いた。
「うっそつくねじゃんか、空港にずっといたのおまえ?10年くらい?だよねうーわーつくねだ!さわらして。吸わせて」

声の方へ、顔が向くより早く、全部の足が走り出した。
うわああ元カノ!
お兄ちゃんが浮気して殴られて捨てられた、優しくてきれいな元カノみゆちゃああん!さわって!さわって!吸うのはお腹の毛がくすぐったい!
「どしたのーつくね、こっち並んでも通れないよおいで。今なら一緒のやつ乗れるかもだ」

みゆちゃんはぼくを抱き上げ、わしゃわしゃ撫でまわしながら狭い通路を進む。
「おまえは誰にでもついてっちゃう子だったもんね!思い出した。あのクズのことは忘れた!」
ずんずん歩き、カーブしてしゃがみ、ぼくを列の最後へ降ろした。
どこーなにーなにこのニャオニャオゲートやだー!
「はい。通路で待ってて。いっしょ座ろ」
……なに?
「行っていって、ホラ」

低いゲートがある。両サイドにとがった耳と鋭い目の猫。
トコトコトコ……   
ピンポーン!
「いたずらっ子で粘り強い!うっかりさんでもあるあなたは雑種適性がありまくり!どうぞー!」

うわあああ──え、通れた。通れたとおれた初めて!

正面で空色のニボシをくわえさせてもらう。ニョオオオ!
みゆちゃんみゆちゃん!早く早く!どこー?

「あーいた!待った?ちょっとお聞いて、ダメ男引き寄せ適性にご注意をだって勘弁して」
ニャ!
「おいで抱っこしたげる、席となりかな?」
ミァー!
「機内食どっちする?つくねはやっぱフィッシュ?だよねえ。ふふ」



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