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(古賀コン 8)『孤高の天才饅頭』

「天才って本当にいるんだな……」
 ここは俺のバイト先の健康ランド。任されている土産売り場の通路を挟んで向こうが休憩所になっている。そこに置かれたテレビを見て、俺はそう呟いたのだった。
 画面に映っていたのは金髪の少年。この子が大人のプロテニスプレイヤーをばったばったと打ち倒したんだと。天才だと大騒ぎする様子が放送されていた。
 天才……うちの実家、下谷御菓子店の主力商品「天才饅頭」っていうんだけど……うちの売店にも置いてるけど、これが売れない。
 美味いんだけどなぁ。親父が作る饅頭。皮はしっとり薄く中にこしあんがたっぷりで。
 少し前はラスクが売れ筋だった。そのあと人気だったのが温泉食パン(健康ランドなのに)、今は温泉プリン(健康ランドなのに)。いつまで待っても饅頭の番が回ってこない。
 おかしい。健康ランドに来るのはオバサンオジサンばかりだろっ。中高年は和菓子が好物じゃないのか。いや、うちの饅頭が不人気なのには理由があるんだけど……。
 なーんてぼんやりしていたら、
「おい」
と、声をかけられた。
「あ、いらっしゃいま……」
 顔をあげ俺は固まる。だって、目の前に居たのは、ついさっきテレビで見た天才テニス少年!
「何をオモトメでーすかぁ?」
 日本語通じるのかっと考えた結果、おかしなイントネーションになる。そしたら少年が俺だ立つカウンターのこっち側にぴょんと飛び込んできた!
と、同時に、
「ジャーック!」
と、叫びながら知らないオバサンがこっちにかけてくる。
 反射的に足元にしゃがんでいる少年を見ると、眉根を寄せた彼が人差し指を唇にあてで見せてくる。
 オバサンが行ってしまってから、
「はぁー、もう何で隠れたりしたの」
と、俺は少年に聞いた。
 曰く、マスコミにうろつかれたり、スケジュールを自分の意思と関係なく決められたりでムカつくから逃げたのだとか。
 たまたま移動中にこの健康ランドを見かけて行ってみたいってゴネまくってさ。
 深刻そうな少年の顔色に、俺は思わず同情した。同情して、俺は実家の饅頭を少年に渡す。
「これ食べな。この饅頭、天才が食べると、凡人になる。売れっ子アイドルが食べれば忽ち落ちぶれるし、人気サッカー選手はこれをたべたらドリブル激下手になった」
 そう、このジンクスがあるからうちの饅頭は売れないんだよなぁ。とはいえこの効果は天才限定だから、ただのフツーの一般人には何の効力もない。
 果たして、少年は俺の差し出した饅頭を食べた。
 結果どうなったかって?
 今でも彼は天才テニスプレイヤーとしてもてはやされている。
 だから俺はわかった。彼は天才じゃない。天才未満の孤高の努力家だってこと。

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