大切な想いと言葉なきメッセージ

お題:「赤」「カクテル」「Jazz」
カランコロン。
扉が開く音とともに、僕は入店した。
ここは行きつけのBARだ。
初めて父に連れられて来て以来、何かあると父とふたりで来るようになった。二十歳のお祝いや大学の卒業祝い、結婚の報告をした日、父の節目の誕生日など、シチュエーションは様々だ。
「マスター、いつもの」
「かしこまりました。今日はおひとりなのですね」
「あぁ、父は先月亡くなってな」
「あら、そうでしたか。最後に一緒に来られたのはお父様の誕生日のときでしたね」
「そうだね。ぽっくり逝ったよ」
「そうでしたか。それは安心致しました。苦しまずお亡くなりになったようで。――お待たせしました」
目の前に出されたのは、いつも父が頼んでくれる赤いカクテルだった。
「全く、男手ひとつで俺を育ててくれて、まだまだこれから恩返しをしていくつもりだったのによ。中学高校はヤンチャして迷惑ばっかかけちゃってさ。叱られたりしたけど、最後は一緒に謝ってくれたんだよな」
「それは初耳ですね」
「それはそうだろ。父もこんな出来損ないに近い息子の話はしたくないだろうからな」
「いえ、貴方様にそんなヤンチャしてた時代があったことに驚きです。お父様はいつもここに来る度に、自慢してらっしゃいましたよ。『うちの息子はすげぇんだ! 喧嘩しても負けたことがねぇ! 喧嘩の時も必ず理由がある!あいつなりに義を通してるんだ、そこは誇れる!』……酔うと、そのような事ばかり話されていましたからヤンチャというより義理に厚い息子様かと。」
「一緒に来た時は、そんなこと一言も……」
「本人の前でしたから言えなかったのでしょうね。しかし、私からは常に、貴方様にお父様からの『愛しているよ』というメッセージが送られ続けているように見えましたから」
「え? どういうことだ?」
「そのカクテルの名前はご存じですよね?」
「あぁ、キールだな。白ワインが苦手だった俺に、飲みやすいようにってことで勧めてくれたカクテルだろ」
「ええ、そうですね。実はカクテルにはそれぞれ『カクテル言葉』というものがありまして、赤いカクテルは基本的には情熱的な言葉が多いんです。しかし、そのカクテルはちょっと毛色が違うのです。」
「へぇ〜。その言葉は?」
「――”あなたに出会えてよかった”」
俺はハッとした。そんな意味が、このカクテルに込められていたとは。
「お父様は必ずこのカクテルを頼まれる度に、あなたの話をしていました。『うちの息子に出会えてよかった。苦労もあるがそれも含めて楽しい! なんて素晴らしい世界なんだ』と、大袈裟な言葉を並べながらですけどね。……せっかくだから、リクエストをしましょう。ここはJazz BARなので、お父様が貴方様と来られる前によく聴いていた、あの曲を」
「あの曲?」
すると、父の部屋からよく聞こえてきていたあの音色が、店内に響き渡った。
「”この素晴らしき世界(What a Wonderful World)”――ジャズの名曲です」
「この曲、そんなタイトルだったんだ。父がよく部屋で聴きながら酒を嗜んでたな……」
全く、父はロマンチストだなと俺は思った。そして俺は、あの父にちゃんと愛されていたんだと改めて認識した。
確かに、この世界は素晴らしいことで満ちているな。
1曲聴き終えると、俺は口を開いた。
「マスター、お会計。ちょっと買うものができた。また来るよ!」
「今回のお代は結構ですよ。お父様からいただいています。『生前、私が亡くなったら息子はここに来るだろうから、1杯分は俺のにつけといてくれ』と言われていましたので」
どこまでも親バカな父だな。
「そうか。わかった。――そのうち、うちの息子を連れてくることにするよ。よろしく、マスター」
「ええ。お待ちしております」
よし、レコードを買って帰ろう。確か押し入れにレコードプレーヤーがあったはずだ。
Jazzでも聴きながら、1杯部屋でやろう。
”この素晴らしき世界”に、感謝しながらね。

あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございました。
逢坂梟(おうさかきょう)です。
第2作目となる今回は、リクエストから採用させていただきました。お題「赤」「Jazz」「カクテル」です。大人な感じのものがたりを自分では書いたつもりです。
前回のあとがきで、「リクエスト募集しています」としていました。来るかどうか正直心配でした。だからこそ、早速コメントでお題のリクエストがきた時は本当に嬉しかったです。Jazzの要素が活かしきれているか心配ではありますが……
さて、私の物語には相変わらず挿絵はありません。Jazzの音楽に関しては実際に調べて聴いてみるのもありかもです。皆さんの中で想像を広げてください。

引き続き、コメント欄で皆さんからの「3つの言葉(お題)」を募集しています。※採用するかどうかは別ですが……!
それでは、次の物語でお会いしましょう。

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