祈るように押し込む 【ショートショート】
年に一度、正月三が日だけ現れる男を、人は「お餅プロ」と呼んだ。
彼は神社の一角で餅をつき、切り、焼いて、参拝者の喉に詰まらせぬ角度で押し込む!
その所作に無駄はなく、毎年誰一人、事故(死者)を出さない。
だが残りの三百六十二日、彼が何をしているのかを知る者は少ない。
* * *
春の彼はパン屋で生地をこね
夏は介護施設で食事介助をし
秋は山で薪を割っている
* * *
口当たり、相手の噛む力を見抜く眼力、火の癖、押し込む速さ——餅押し込みに必要な感覚を、餅以外で磨く日々だった。
「毎日餅を触らないんですか?」と誰かが聞いたことがある。
彼は首を振り、こう言った。
「餅に触れるのはその時だけでいい。餅のこと、押し込む相手の事を想い続けなきゃいけない」と。
正月の最終日、最後の一切れを押し込み終えると、男は静かに去る。
翌日からまた、餅ではない世界で修行が始まる。
そのすべてが、来年の一瞬のためにあると知りながら。
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