あの頃夢中で読んだ「ドラクエの秘密」を買い直してみた件。
先日、ふとしたきっかけで、懐かしい本の存在を思い出し、ようやく手に入れた一冊があります。
それがこれ。
高円寺ファミコン考察学会・著
「ドラクエの秘密」です。

表紙に描かれた、いかにも「非公式」な絶妙に
なんとも言えないクオリティのイラスト……!
ファミコン直撃世代の方なら、知っている方も
おられるかもしれませんね〜
実家の片付けなどで、いつの間にか失われてしまっていた子どもの頃のバイブル。
それを今、再び買い直してみたことで、
わたしの記憶の扉が開くことになりました。
◾️誰も買った覚えのない我が家の「古文書」
わたしがこの本に初めて出会ったのは、
小学生低学年の頃でした。
当時、すでに「ドラクエ」にどっぷりとハマっていたわたしにとって、この本との出会いは衝撃的でした。
毎日読んでいたのを覚えています。
ただ、子どもながらに不思議だったことがありました。
当時からしても、すでに骨董品というべき、
「古臭さ」を醸し出していたその本。
「なぜか我が家にポツンと置いてあった」のです。
我が家はゲームには非常にうとい家庭でした。
父も母もドラクエなんてやりませんし、
おそらくやったことすらありません。
そして当然、小学生のわたし自身も、お小遣いをはたいてこの本を買った覚えはありません。
一体、誰が、何のために買ってそこに置いていったのか――。
まるでゲームの冒頭で、主人公が「伝説の古文書」を見つけてしまったような、そんな奇妙なミステリー感。
それも含めて、この本はわたしにとって特別な存在なのです。
◾️小学生ながらに紐解いた「本の正体」
出所がまったく分からない謎の本。
わたしはそれを夢中で読み、徐々にこの本自体の正体を紐解いていきました。
この本は主に「ドラクエⅠ・Ⅱ・Ⅲ」の
「ロト三部作」を主体として書かれていることが分かります。
一応「ドラクエⅣ」にも多少は触れてはいるものの、その記述はどこか不安定。開発段階の噂話を詰め込んだかのような書き方でした。
つまりこの本は
「ドラクエⅣが発売前に書かれた本」なのだと察しました。
しかし、わたしがこの本を家で発見したのは、
すでにスーパーファミコンで「ドラクエⅤ」を
プレイした後くらいの時期だったのです。
スーファミのグラフィックや壮大な物語を体験した後の小学生にとって、ファミコン時代の、しかも「Ⅳ」すら出ていない頃の考察本というのは、それだけで「ものすごい大昔の遺物」のように思えました。
わたしはネットもない時に、歴史のタイムラグを感じながら、冒険の裏側に胸を躍らせたのです。
◾️本書が切り込む「ちょっとした疑問」
そもそも、この「ドラクエの秘密」とは
一体どんな本なのか。
一言で言えば、ドラクエをプレイするにあたって、誰もが薄々感じていた「ちょっとした疑問」を、大真面目に考察していく本です。
たとえば、本書には以下のような問いが並んでいます。
① 勇者達は正しい心の持ち主なのに、勝手に他人の部屋中を探したり宝箱を持っていってしまうが、あれは罪にならないのか?
② モンスターたちは、一体どこに、どうやってお金や宝箱を隠し持っているのか?
③ ドラクエの世界とは、現実世界の尺度で言うと、実際にはどのくらいの広さがあるのだろうか?
今の時代なら仕様として片付けられてしまうような謎を、ネットが存在しなかった時代に、筆者は自らの独特の感性で考察し、一定の結論を出しているのです。
これが今読んでも面白い。
さらに驚くのはそのアプローチです。
筆者が参考にしている文献は主に
「小説(小説ドラゴンクエスト)」であり、
そこからの引用がベースになっています。
それだけでなく、
「アイテム物語」
「モンスター物語」
「知られざる伝説」
といった公式副読本からも引用されているのです。
単なる個人の妄想ではなく、当時の限られた資料を繋ぎ合わせて真実へと迫る。
だからこそ、子どもだったわたしにも
圧倒的な納得感を与えてくれました。
◾️辞書を引き、父に尋ねた「物見遊山」
それまでの人生で、教科書以外にこんな
「活字だらけの本」を読むのは、ほぼ初めての体験だったのではないかと思います。
当時のわたしは、まだ考察なんて言葉の意味すらよく分かっていない年代です。
当然、本の中には学校では習わないような、読めない漢字や難しい熟語がたくさん出てきました。
わたしはその度に、自分の部屋で国語辞典をひっくり返して意味を調べていました。
中でも、今でも鮮明に覚えているのが、
「物見遊山(ものみゆさん)」という四字熟語でした。
この言葉だけはどうしても意味がわからず、
わたしは本を抱えてリビングへ行き、
父に「これ、どういう意味?」と尋ねました。
ゲームのことは何も知らない父親が、
ただ言葉の意味だけを教えてくれました。
わたしはその答えを忘れないように、
本へ直接、鉛筆で書き込んだのです。
「ドラクエの秘密」は、学校の教科書以上に
わたしに活字を読む楽しさと新しい言葉を知る刺激を教えてくれたのです。
◾️誤字すら面白い、変わらない独特のリズム
そうして何十年ぶりかに手に入れた新しい本を、いま、改めて読み進めています。
……もの凄く懐かしい。
全編通して、筆者がドラクエをこよなく愛しているのが伝わってきます。
文章全体が保っている独特のテンポとリズムも、昔読んだ時と同じ感覚のまま心地よく楽しむことができました。
そして、読み進めるうちに思い出すのは、
「やたらと誤字・脱字が多い」ということです。
今読めばコミカルな編集ミスなのですが、
不思議なことに、小学生の頃にボロボロになるまで読み返したせいか...
「どの箇所のどんな誤字だったか」までを
正確に記憶していました。
ページをめくり「あ、やっぱここ間違えてる」と当時の記憶の答え合わせをするたびに、なんとも言えない懐かしい気分に浸らせてくれます。
◾️まっさらなページに残る、あの日の記憶
今読めば「それはさすがに深読みしすぎ!」と
ツッコミたくなるような説もありました。
けれど、それも含めてこの本の魅力であり、1本のゲームに対してここまで情熱を注いでいた当時の大人たちの熱量には、改めてリスペクトです。
最後に、わたしはある特定の場所を探すためにページをめくりました。
「物見遊山」という文字が書かれたページです。
新しく買い直した本なので当然、そこには何も書かれていません。
鉛筆の跡などない、きれいな紙面です。
でも、その4文字をじっと見つめていると、
かつて自分が書き込んだはずの「父からの答え」が、確かにそこに重なって見えるような気がしました。
実家の片付けでいつの間にか手元からなくなってしまっていた、子どもの頃の宝物。
大人になってからこうして買い直してみると、
手に入ったのは「本」そのものだけではありませんでした。
初めて活字の世界に触れ、ゲームの裏側に無限の妄想を広げていたあの頃の言いようのない感慨。
買い直して正解でした。
しばらくは、この心地よい余韻に浸っていたいと思います。
