世界はパレットだと気づいた少年
小学生も六年にもなると、男子も女子もそわそわし始める。
クラスのイケてる男女グループに気づいたら紛れ込んでいたトモキは、なおさらそのくすぐったい空気を肌で感じていた。
しかし、トモキ自身は、そわそわの渦中にいなかった。つまり、恋はしていなかった。でも、男の子と女の子たちと大勢でワチャワチャしているだけでじゅうぶん楽しかった。
しかも、彼は人知れずトキメいてもいた。
周りの女の子たちの着ている洋服やペンケースや下敷きなどの持ち物をこっそり眺めては。
そう彼女たちの、
ポニーテールにつけたリボン
フリルのついた丸襟のシャツ
タータンチェックのスカート
ふわふわのパステルブルーのセーター
ニャニィニュニェニョンのペンケース
キャラメルフレーバーのねり消し
りぼんコミックスの表紙
そんな、まるでパレットの上の絵の具みたいなカラフルな世界に、トモキのハートは、ズッキュンと撃ち抜かれ、ずっとロマンティックが止まらなかった。
男子たちにバレたら大変だから、必死に裏腹な態度を取っていたけど。
「なに、ぶりっ子してんのさ!」
「このキャラキモいんだけど…。」
でも、今、振り返ると、彼女たちは全てお見通しだったかもしれない。
「このシール、トモキにあげるよ」
なんて女子から言われた男子メンバーは彼だけだったから。
別に男の子が好きだったわけじゃない。
年上のお姉さんに淡い恋心を抱いたこともある。
でも、気づいたら、女の子たちの世界を彩る可愛いモノたちを目で追いかけたり、女性アイドルの歌にひどく感情移入している自分がいた。
(絶対に誰にも言えないけれど、北斗の拳やキン肉マンよりも、俺は、断然、こっち派だな)
「トモキ、こっちにパスー!」
「どりゃー!」
金木犀の香りがほのかに漂う放課後の校庭で、坊主頭で白いアディダスのキャップを被った12歳のトモキが左足を思い切り振り切った。
地平線がオレンジに染まり始めた空に、白いボールが大きな弧を描いて舞い上がった。
※向田民子さんの新曲PVにインスパイアされて書きました。
