平凡男子と七福神#5
昼休み。
グラウンドからはサッカー部の掛け声が響き、校舎内は購買に並ぶ生徒たちのざわめきで満ちていた。
その喧騒から逃れるように、〇〇は校舎裏の古びたベンチに腰を下ろしていた。
日陰に入り、冷えた風を感じながら、パンの袋を静かに開ける。ここは、他の誰も来ない、数少ない避難所だった。
袋を半分ほど破ったところで背後から、やけに落ち着いた声が響いた。
賀:……ここにいた

振り返ると、遥香が立っていた。
制服の襟はきちんと整えられ、腕を組んだまま、真っ直ぐこちらを見据えている。
その表情には笑顔がなく、目だけが妙に鋭い。
〇〇:……何か用?
賀:用っていうか、聞きたいことがあって
〇〇:俺に?
賀:この前、図書館でさくちゃんに話してたよね
彼女の声は低く、周囲に誰もいないことを確認しているようだった。
〇〇:……ああ
賀:なんで?
その問いは、単なる好奇心というより、詰問に近かった。
〇〇:別に?彼女から声かけられただけだけど?
賀:……それだけ?
〇〇:それだけ
賀:でもさ、あの子、人見知りなんだよ。知らない人に話しかけられると、本当に困るの

遥香の言葉には、さくらを守ろうとする意思がはっきりと滲んでいた。だが、その一方で、まるで〇〇が危険な存在であるかのような響きも混じっている。
〇〇:困ってるようには見えなかったけど
賀:それはあの子が優しいから。我慢してるだけ
彼女の声色が、わずかに棘を帯びる。
賀喜:正直言って、あなたがあの子と関わる理由が分からない。クラスも違うし、友達でもないよね?
〇〇:偶然会っただけそれ以上でも以下でも無い
賀:偶然でも、こういうのは誤解を生む
〇〇:……誤解?
賀:あなたがどういう人か分からないから言ってるの。下手に近づかれると、さくちゃんが困る
胸の奥に、じわりと熱がこもるのを感じた。
それは反論よりも先に、言葉を押し殺すような息苦しさをもたらす。
〇〇:……俺がそんなに信用できない?
賀:うん
〇〇:はっきり言うな
賀:だって、あの子を守るためなら、嫌われてもいいから
冷たい響きの奥に、揺るぎない確信がある。
賀:あなたがどんな過去を持ってても関係ない。さくちゃんを巻き込むようなことはやめて

その瞬間、「過去」という一言が胸を抉った。
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中学二年の春。
クラスで起きた、たった一つの誤解。
机の中から見つかった、誰かが勝手に入れた悪口の落書き。
担任は「犯人探しはしない」と言ったが、クラスの視線はなぜか自分に集まった。
一人が笑いながら「〇〇がやったんじゃね?」と言っただけで、全てが変わった。
友達だったはずのやつらは口を閉ざし、休み時間には机が孤島のようになった。
靴箱には無言の落書き、LINEのグループからはいつの間にか削除されていた。
何もしていないのに、声を上げれば「言い訳するな」と笑われた。
あの日、悟った。
目立てば叩かれる。波風を立てれば孤立する。
だから、高校では静かに、目立たず、ただ日々をやり過ごすと決めた。
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〇〇:……あんたに俺の何が分かる
賀:分からないよ。でも……
次の瞬間、〇〇は勢いよく立ち上がった。
ベンチが軋む音が響き、ほんの数歩で遥香との距離を詰める。
〇〇:なら黙ってろよ!?
賀:!?
その声は今まで聞いたことがないほど低く、怒気がこもっていた。
遥香は驚きに目を見開き、しかし後ずさりはしない。
〇〇:俺がどんな思いでここにいるかも知らないくせに、守るだの困るだの、勝手なことばっかり言いやがって……
賀:わ、私は……
〇〇:あんたに俺の人生を語る資格はない!?
言葉が鋭く空気を裂き、二人の間に重苦しい沈黙が落ちた。
遥香の唇がかすかに震え、その目が一瞬だけ揺らぐ。
〇〇:……俺はただ、静かに生きたいだけだ。それすら許さないっていうのか
その一言は、怒りよりも深い疲れを含んでいた。
〇〇は背を向け、歩き出す。
しかし、数歩進んだところで……
賀:……待って
〇〇は何も言わず、背を向けたまま歩き出す。
背後で、小さく吐き出される遥香のため息が、妙に耳に残った。
To be continued…
