自分より先に「居場所」を疑え 神楽智【思索スケッチ】
「私はダメだ」
そう思ったとき、少しだけ主語を小さくしてみる。
「私は、ここではダメだった」
それだけなのかもしれない。
日当たりの悪い場所で元気をなくした植物を見て、「この植物は能力がない」とは言わない。窓辺へ移したり、水の量を変えたり、土を替えたりする。
ところが人間は、うまくいかない原因を、すぐに自分の能力や性格のせいにしてしまう。
けれど、場所が変われば評価軸も変わる。
ここでは扱いにくい人が、別の場所では「独創的な人」になる。
ここでは時代遅れとされた経験が、別の場所では誰にも真似できない知恵になる。
「今までの人生で、一番調子が良かったのはいつだろう」
一度、思い出してみるといい。
そのとき、どこにいたのか。
周りにはどんな人がいたのか。
どんな役割を与えられていたのか。
誰が自分を信頼してくれていたのか。
どんな一日のリズムで暮らしていたのか。
そこでの自分が輝いていたのなら、能力がなかったわけではない。その能力が自然に出てくる「条件」がそろっていたのだ。
もちろん、過去と同じ場所へ戻る必要はない。再現すべきなのは場所そのものではなく、そこで成立していた条件である。
少人数の環境だった。
自分で決められる余白があった。
経験を必要としてくれる人がいた。
競争より協力が多かった。
静かに考える時間があった。
そうした条件を、今の生活に一つずつ取り戻してみる。
「無意識が今をつくっている」と言われる。
「自分はダメだ」と思っていると、無意識はダメな証拠ばかりを集める。反対に、少し機嫌よく過ごしていると、人とのつながりや小さな可能性に気づきやすくなる。
だから「ご機嫌でいよう」とは、無理に笑うことではない。
よく眠る。
好きな音楽を聴く。
安心できる人と話す。
そして、必要なら場所を変える。
それは逃げではなく、自分の感覚を調整する作業である。
今の居場所で何をしてもうまくいかないなら、自分を壊して作り直す前に、かつての自分が最もよく動いていた条件を再現してみる。
あなたがダメなのではない。
今いる場所が、あなたの良さをまだ必要としていないだけかもしれない。
神楽智【思索スケッチ】
