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柔らかな風を感じて#35      『神様、ありがとうございます』

─覚えていない雪のぬくもり─



さらさらした雪が3日続けて降った朝。


炬燵を囲みすぎて

みかんが足りなくなった。



顔まで黄色くなるかも知れないよと

笑われながら、今日は荷物持ち。


キュッキュッと踏みしめる足元。

駐車場がいつもより遠くに感じる。


箱みかんの箱は年々小さくなっているけれど、

呼び方は変わらないものだ。



乗り込んだ車内は冷えていて。

ヒーターのレベルを最強にしても、

音だけがやる気で。


だけど、

すぐには融けないフロントの雪。



前を見たまま、白いひと息。


手袋を外しながら、

今では笑い話だけどと母が話し始めた。




2才の誕生日を過ぎる頃になると、

子供も少し重くなって。


ボーナスで買う予定だった父のマフラーを諦めて、

奮発してソリを買ったそう。


サンタさんが乗りそうな木製の赤い子供用。


背当てが付いていて、

座面の下には長いスキー板のような足が二本。


押すことが出来るから、

お散歩がずっと楽になったと。



確かに手編みのマフラーでぐるぐる巻きにされ、

足元を毛布ごと紐でソリに括られて。

多分、カサカサの頬は真っ赤だろうと思われる

モノクロの写真が残っている。


当時の私も雪が好きで、

吹雪の中でも喜んで出掛けた。




半年近く続く冬。


室内だけではやり切れなくて、

買い物だ散歩だと外出を増やした。



その日も同じスタイルでお買い物へ。



魚屋や肉屋、洗濯洗剤は箱で。

帰ろうと思ったけど、最後に八百屋も。


意外にも、大安売りの箱みかん。


これは買うしかないと喜んだ母。

困ったのはお金を払った後だった。


どうやって、持って帰ろう。


仕方なくみかん箱と洗濯洗剤の箱を

紐でソリに縛り付け、

私を背当てと荷物の間に跨がらせた。


ちょうど雪も止み、

スムーズな歩き出し。


少し重いのは美味しいのと引き換えに。


いつものように前を見ながら歌をうたい。

時折、大丈夫と声だけ掛けてソリを引いた。




力を込めて歩けば、なおさら弾む気持ち。


調子が出てきたのか今日は軽いなと思いながら、

ずんずん歩いてたそう。



ふっと、なんとはなし。

変だわ、と。




振り返ると、ソリには荷物だけ。



ポツンと遠くに、

マフラーの塊が落ちていたらしい。


慌てて、戻ろうとした瞬間。





雪煙を立てて。


トラックが──その上を横切った。





目の前は真っ暗。

倒れた顔についた雪が冷たくて、

正気に戻った母。


腰が抜けて歩けないのを

匍匐前進のように引きずって。




必死で私の名前を呼んだ時。



マフラーを雪だらけにしながら、

ゴロンとひっくり返って笑い声を立てたそうだ





ごめんなさい、

ごめんなさい。


神様、ごめんなさい。




何度も、何度も謝りながら。


強く強く抱きしめた私が泣いても。


恐くて離せなくて、離せなくて。





神様、ありがとうございます。



母は欲張らないことを

深く胸に刻んだ。





だから今日も

一緒にみかんが食べられるんだよと。




さあ、帰ろうかと。


サイドブレーキを外した。




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