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第58話 入金伝票・出金伝票・振替伝票を読もう伝票から仕訳を考える

青葉製作所の事務所。

午前中の仕事が一段落したころ、美咲さんが一冊のファイルを机の上へ置いた。

表紙には、大きく「伝票」と書かれている。

山田くんがファイルを開くと、中には色の異なる伝票が何枚も綴じられていた。

入金伝票。
出金伝票。
振替伝票。

みおちゃんが、三種類の伝票を見比べる。

「色も名前も違いますね。でも、全部取引を記録するものなんですよね?」

「そうやね」

美咲さんは、三種類の伝票をホワイトボードへ貼った。

「今日は、伝票を見て仕訳を考える練習をしよう」

山田くんが、入金伝票を手に取った。

「伝票会計というものですか?」

「そう。会社では、取引を仕訳帳へ直接書く代わりに、伝票を使って記録することがある。簿記3級では、伝票から取引内容を読み取ったり、仕訳を考えたりする問題が出ることがあるよ」

みおちゃんは、少し不安そうに言った。

「また新しい用紙が出てきました……」

美咲さんは笑った。

「でも考え方は、これまでの仕訳と同じ。伝票の名前が、取引を考えるヒントになるんよ」

そこへ高橋さんが、現場で使う作業伝票を手に戻ってきた。

「今日は伝票の話か」

「はい。入金伝票、出金伝票、振替伝票を学びます」

高橋さんは三枚を見ながら言った。

「現場の移動票と似てるな。どこからどこへ動いたのか、何が増えたのかを記録する。大事なのは用紙の色より、中身やな」

美咲さんがうなずく。

「その通りです。まずは大きな違いから見ていこう」

ホワイトボードに、美咲さんは書いた。

入金伝票
現金が入ってくる取引

出金伝票
現金が出ていく取引

振替伝票
現金が直接動かない取引

みおちゃんが、ゆっくり読み上げる。

「現金が入る、現金が出る、現金が動かない……」

「この三つが基本やね」

1 入金伝票は、現金が増える取引

美咲さんは、まず入金伝票を見せた。

入金伝票には、次のように書かれている。

科目 売掛金
金額 80,000円
摘要 売掛金の回収

「この伝票から、どんな取引が分かる?」

山田くんが答える。

「売掛金80,000円を現金で回収した取引です」

「そう。入金伝票は、現金が入ってきた取引に使う。だから仕訳では、原則として現金が借方にくる」

美咲さんは仕訳を書いた。

借方 現金 80,000円
貸方 売掛金 80,000円

みおちゃんが、伝票を見ながら言った。

「入金伝票には、現金の相手になる科目が書かれているんですね」

「そうやね。この例では、売掛金が減って現金が増えた。伝票に書かれている“売掛金”は、現金の相手科目になる」

高橋さんが補足する。

「現場で言うたら、入庫票を見たら、何が入ってきたかだけでなく、どこから来たかも確認する。それと同じやな」

美咲さんは、別の入金伝票を示した。

科目 売上
金額 50,000円
摘要 商品の現金販売

この場合の仕訳は、

借方 現金 50,000円
貸方 売上 50,000円

となる。

山田くんが言った。

「同じ入金伝票でも、売掛金の回収と現金売上では、貸方の科目が違いますね」

「そう。入金伝票だから、現金が借方に入ることは共通。でも、相手科目は取引内容によって変わる」

美咲さんは、ホワイトボードにまとめた。

入金伝票

現金が増える
現金は借方
相手科目は伝票の内容から判断する

2 出金伝票は、現金が減る取引

次に、美咲さんは出金伝票を示した。

科目 仕入
金額 40,000円
摘要 商品の現金仕入れ

「出金伝票は、現金を支払った取引に使う」

みおちゃんが答える。

「仕入が増えて、現金が減ります」

借方 仕入 40,000円
貸方 現金 40,000円

「その通り。出金伝票では、原則として現金が貸方にくる」

次の出金伝票には、こう書かれていた。

科目 買掛金
金額 60,000円
摘要 買掛金の支払い

仕訳は、

借方 買掛金 60,000円
貸方 現金 60,000円

となる。

みおちゃんが確認する。

「商品の仕入時に、すでに仕入と買掛金を記録しています。今回は買掛金を払っただけなので、もう一度仕入にはしないんですね」

「そう。前回学んだ問題文の読み方と同じやね。“買掛金の支払い”という言葉を見て、何が減るのかを考える」

山田くんが、入金伝票と出金伝票を並べた。

「入金伝票では現金が借方。出金伝票では現金が貸方ですね」

美咲さんはうなずく。

「まずは、この形を押さえよう」

入金伝票
借方 現金

出金伝票
貸方 現金

3 振替伝票は、現金が直接動かない取引

美咲さんは、最後に振替伝票を見せた。

振替伝票には、借方科目と貸方科目の両方を書く欄がある。

借方科目 仕入
貸方科目 買掛金
金額 100,000円
摘要 商品の掛け仕入れ

「この取引では、現金は動いているかな?」

山田くんが答える。

「掛けで仕入れているので、現金はまだ支払っていません」

「そう。現金が直接動かない取引なので、振替伝票を使う」

仕訳は、

借方 仕入 100,000円
貸方 買掛金 100,000円

となる。

次の振替伝票は、

借方科目 売掛金
貸方科目 売上
金額 150,000円
摘要 商品の掛け売上

仕訳は、

借方 売掛金 150,000円
貸方 売上 150,000円

みおちゃんが言った。

「掛け売上も現金が動かないから、振替伝票なんですね」

「そう。ほかにも、減価償却や決算整理仕訳のように、現金が直接動かない取引は振替伝票で記録できる」

美咲さんは、別の例を書いた。

借方 減価償却費 20,000円
貸方 備品減価償却累計額 20,000円

「この仕訳でも現金は動いていない。だから振替伝票を使う」

高橋さんが言った。

「実際のお金が入ったり出たりしていなくても、数字の調整は必要になる。そういう取引を記録するのが振替伝票やな」

4 現金で一部払い、残りを掛けにしたら?

美咲さんは、少し難しい取引を出した。

商品100,000円を仕入れ、代金のうち30,000円は現金で支払い、残りは掛けとした。

みおちゃんが問題文を見つめる。

「現金が出ていく部分と、買掛金になる部分がありますね」

「そう。このような取引では、一つの取引に現金取引と掛け取引が含まれている」

仕訳は、

借方 仕入 100,000円
貸方 現金 30,000円
貸方 買掛金 70,000円

となる。

山田くんが聞いた。

「この場合は、どの伝票を使うんですか?」

美咲さんは答えた。

「伝票の記入方法には、会社や問題の条件によって違いがあるけれど、簿記3級の問題では、取引を分けて考えることがある」

現金で支払った部分は出金伝票。

借方 仕入 30,000円
貸方 現金 30,000円

掛けにした部分は振替伝票。

借方 仕入 70,000円
貸方 買掛金 70,000円

みおちゃんが、二枚の伝票を並べた。

「一つの取引を、現金が動いた部分と、現金が動いていない部分に分けるんですね」

「そう。問題文に“一部を現金で、残りは掛け”とあったら、分けて考えると整理しやすいよ」

5 普通預金は、入金伝票や出金伝票になる?

みおちゃんが質問した。

「普通預金に入金された場合も、入金伝票を使うんですか?」

美咲さんは首を横に振った。

「ここは注意が必要やね。入金伝票と出金伝票でいう“入金・出金”は、基本的に現金の増減を表している」

「普通預金は現金とは別の勘定科目ですよね」

山田くんが言った。

「そう。たとえば、売掛金80,000円が普通預金へ入金された場合、現金は動いていない」

仕訳は、

借方 普通預金 80,000円
貸方 売掛金 80,000円

となる。

「この取引は、現金の増減ではないため、振替伝票で記録する」

みおちゃんが驚く。

「言葉としては“入金”されているのに、入金伝票ではないんですね」

「そう。問題文の“入金”という言葉と、伝票名の“入金伝票”を同じ意味だと思わないことが大事」

美咲さんは、ホワイトボードに書いた。

入金伝票・出金伝票
現金の増減

普通預金の増減
振替伝票で記録することがある

高橋さんが言った。

「現金と銀行預金を、同じ財布だと思わないことやな。簿記では別々の置き場所として考える」

6 伝票から省略されている科目を補う

美咲さんは、入金伝票を一枚示した。

科目 受取手数料
金額 25,000円

「入金伝票では、現金が増えることが分かっている。そのため、現金という科目が伝票上で省略されていると考えられる」

完成する仕訳は、

借方 現金 25,000円
貸方 受取手数料 25,000円

となる。

次の出金伝票は、

科目 通信費
金額 8,000円

出金伝票なので、現金が減ったと考える。

借方 通信費 8,000円
貸方 現金 8,000円

「伝票問題では、書かれていない科目を自分で補う必要があることがある」

山田くんが整理する。

「入金伝票なら、借方の現金を補う。出金伝票なら、貸方の現金を補う」

「その通り」

みおちゃんは、ノートに大きく書いた。

入金伝票
現金を借方に補う

出金伝票
現金を貸方に補う

振替伝票
借方と貸方を両方読む

7 伝票の摘要も読む

美咲さんは、同じ科目が書かれた二枚の伝票を出した。

入金伝票

科目 売掛金
金額 70,000円
摘要 A商店から売掛金を回収

入金伝票

科目 売上
金額 70,000円
摘要 商品を現金で販売

「どちらも現金70,000円が入っているけれど、取引の内容は違う」

山田くんが答える。

「一枚目は売掛金の回収。二枚目は現金売上です」

仕訳はそれぞれ、

借方 現金 70,000円
貸方 売掛金 70,000円

借方 現金 70,000円
貸方 売上 70,000円

となる。

「科目欄だけでなく、摘要も読むと、取引の内容を確認しやすい」

高橋さんが言った。

「現場の伝票でも、品番だけやなく、工程や移動理由を見る。似た伝票を取り違えないためやな」

8 伝票を選ぶ手順

山田くんが質問した。

「取引を見て、どの伝票を使うか判断するときは、何から考えればいいですか?」

美咲さんは、ホワイトボードに判断手順を書いた。

伝票を選ぶ手順

1.現金が増えるか確認する
2.現金が減るか確認する
3.現金が動かなければ振替伝票
4.一部だけ現金なら、取引を分ける
5.普通預金と現金を区別する

「まず、現金が動いたかを見る。これだけで、かなり判断しやすくなるよ」

みおちゃんが、三種類の伝票を指差した。

「現金が入ったら入金伝票。現金が出たら出金伝票。現金が動かなければ振替伝票」

「そう。ただし、一つのキーワードだけで決めず、取引全体を読むことも忘れないでね」

9 みおちゃんが伝票を選ぶ

美咲さんは、いくつかの取引を読み上げた。

取引1

商品40,000円を現金で売り上げた。

みおちゃんが答える。

「現金が増えるので、入金伝票です」

借方 現金 40,000円
貸方 売上 40,000円

取引2

水道光熱費10,000円を現金で支払った。

「現金が減るので、出金伝票です」

借方 水道光熱費 10,000円
貸方 現金 10,000円

取引3

商品90,000円を掛けで仕入れた。

「現金が動かないので、振替伝票です」

借方 仕入 90,000円
貸方 買掛金 90,000円

取引4

売掛金50,000円が普通預金へ入金された。

みおちゃんは、一瞬考えてから答えた。

「普通預金は増えていますが、現金は動いていません。だから振替伝票です」

借方 普通預金 50,000円
貸方 売掛金 50,000円

美咲さんは笑顔でうなずいた。

「よくできたね」

そこへ社長が事務所へ入ってきた。

「今日は、伝票から仕訳を考えているのか」

美咲さんが答える。

「はい。現金の動きから、伝票の種類を判断しています」

社長は、並べられた伝票を見ながら言った。

「伝票は、取引を次の人へ正しく伝えるためのものだ。何が起きたのか、金額はいくらか、どの勘定へ記録するのか。情報が正しくなければ、決算書まで間違ってしまう」

山田くんがうなずく。

「伝票も、数字の流れの入口なんですね」

「そうだ。正しい伝票が、正しい帳簿につながる」

美咲さんは、今日のまとめをホワイトボードに書いた。

入金伝票
現金が増える

出金伝票
現金が減る

振替伝票
現金が直接動かない

普通預金と現金を区別する。
伝票の科目と摘要を読む。
省略された現金を補って仕訳する。

みおちゃんは、今日のノートの最後にこう書いた。

伝票を見たら、まず現金が動いたかを考える。
現金が入れば入金伝票。
現金が出れば出金伝票。
現金が動かなければ振替伝票。
伝票は、仕訳の一部を見せてくれる紙。

今日の簿記ポイント

伝票は、会社で発生した取引を記録するために使います。

簿記3級では、主に次の三種類を学びます。

入金伝票

現金が入ってきた取引を記録します。

入金伝票では、現金が借方に入ります。


売掛金80,000円を現金で回収した。

借方 現金 80,000円
貸方 売掛金 80,000円

出金伝票

現金を支払った取引を記録します。

出金伝票では、現金が貸方に入ります。


通信費10,000円を現金で支払った。

借方 通信費 10,000円
貸方 現金 10,000円

振替伝票

現金が直接動かない取引を記録します。


商品100,000円を掛けで仕入れた。

借方 仕入 100,000円
貸方 買掛金 100,000円

普通預金が増減する取引でも、現金が動いていなければ振替伝票として考えることがあります。


売掛金70,000円が普通預金に入金された。

借方 普通預金 70,000円
貸方 売掛金 70,000円

問題文の「入金」という言葉だけで、入金伝票と判断しないように注意します。

今日の仕訳例

入金伝票

商品50,000円を現金で売り上げた。

借方 現金 50,000円
貸方 売上 50,000円

出金伝票

買掛金40,000円を現金で支払った。

借方 買掛金 40,000円
貸方 現金 40,000円

振替伝票

商品120,000円を掛けで売り上げた。

借方 売掛金 120,000円
貸方 売上 120,000円

一部現金・残り掛け

商品100,000円を仕入れ、30,000円を現金で支払い、残りを掛けとした。

仕訳は、

借方 仕入 100,000円
貸方 現金 30,000円
貸方 買掛金 70,000円

です。

伝票を分ける場合は、

出金伝票

借方 仕入 30,000円
貸方 現金 30,000円

振替伝票

借方 仕入 70,000円
貸方 買掛金 70,000円

と考えます。

練習問題

問題1

次の取引について、使用する伝票の種類と仕訳を答えてください。

1.商品60,000円を現金で売り上げた。
2.給料30,000円を現金で支払った。
3.商品150,000円を掛けで仕入れた。
4.売掛金90,000円が普通預金へ入金された。

問題2

次の伝票から、仕訳を完成させてください。

1.入金伝票
科目 売掛金
金額 50,000円
摘要 売掛金を現金で回収

2.出金伝票
科目 支払家賃
金額 20,000円
摘要 家賃を現金で支払い

3.振替伝票
借方科目 備品
貸方科目 未払金
金額 80,000円
摘要 備品を後払いで購入

考え方と解説

問題1の解説

1.商品60,000円を現金で売り上げた。

現金が増えるため、入金伝票です。

借方 現金 60,000円
貸方 売上 60,000円

2.給料30,000円を現金で支払った。

現金が減るため、出金伝票です。

借方 給料 30,000円
貸方 現金 30,000円

3.商品150,000円を掛けで仕入れた。

現金は動いていないため、振替伝票です。

借方 仕入 150,000円
貸方 買掛金 150,000円

4.売掛金90,000円が普通預金へ入金された。

普通預金は増えていますが、現金は動いていません。

振替伝票です。

借方 普通預金 90,000円
貸方 売掛金 90,000円

問題2の解説

1.入金伝票

入金伝票では、現金が借方に入ります。

借方 現金 50,000円
貸方 売掛金 50,000円

2.出金伝票

出金伝票では、現金が貸方に入ります。

借方 支払家賃 20,000円
貸方 現金 20,000円

3.振替伝票

振替伝票では、書かれている借方科目と貸方科目をそのまま仕訳にします。

借方 備品 80,000円
貸方 未払金 80,000円

覚え方

伝票の種類は、現金の動きで考えます。

現金が入る
入金伝票

現金が出る
出金伝票

現金が動かない
振替伝票

入金伝票では、現金を借方へ補います。

出金伝票では、現金を貸方へ補います。

振替伝票では、借方科目と貸方科目の両方を読みます。

注意するのは、普通預金です。

普通預金へお金が入ったとしても、現金が増えたわけではありません。

「入金された」という言葉だけで、入金伝票と判断しないようにします。

短く覚えるなら、次の一言です。

伝票を見たら、まず現金を見る。

次回予告

次回は、三伝票制で記録された取引を集計し、帳簿へつなげる流れを学びます。

伝票に記録しただけでは、会社全体の残高は分かりません。

入金伝票、出金伝票、振替伝票の内容は、どのように総勘定元帳や試算表へつながるのでしょうか。

第59話
「伝票から元帳へ転記しよう。取引を科目ごとに集める」

バラバラの伝票を整理して、会社の数字を一つにつなげていきましょう。

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