第33話 仕訳を元帳へ転記してみよう。試算表までの流れ
青葉製作所の事務所では、朝から机の上に大きな紙が広げられていた。
紙の左側には、いくつかの仕訳。
中央には、勘定科目ごとの箱。
右側には、空欄の試算表。
中村みおは、それを見て少し目を丸くした。
「山田さん、今日はかなり実技っぽいですね」
山田くんはうなずいた。
「うん。今日は、仕訳を総勘定元帳に転記して、最後に試算表まで作る練習みたい」
そこへ、佐藤先輩がホワイトボードの前に立った。
「今日は手を動かして、流れを確認しようか」
ホワイトボードには、前回の流れが書かれている。
仕訳
↓ 転記
総勘定元帳
↓ 集計
試算表
みおはノートを開いた。
「前回は、総勘定元帳が“勘定科目ごとの部屋”って話でしたよね」
「そう。今日は、その部屋に実際に金額を入れていくよ」
そのとき、現場から高橋さんが入ってきた。
「お、今日は実習か!座学だけやと眠なるからな!」
みおが笑った。
「高橋さん、今日は現場感が強いですね」
「手を動かして覚えるのが一番や!」
佐藤先輩は、まず今日使う取引をホワイトボードに書いた。
1. 商品50,000円を掛けで売った
2. 商品30,000円を掛けで仕入れた
3. 給料20,000円を普通預金から支払った
4. 借入金100,000円が普通預金に入金された
5. 借入金の利息3,000円を普通預金から支払った
山田くんは言った。
「まずは、これを仕訳にするんですね」
「そう。では、1つずつやってみよう」
1つ目の取引
商品50,000円を掛けで売った。
みおが手を挙げた。
「商品を売ったので、売上が増えます。売上は収益だから貸方・右」
山田くんが続けた。
「代金はあとで受け取るので、売掛金が増えます。売掛金は資産だから借方・左」
佐藤先輩は仕訳を書いた。
借方 売掛金 50,000 / 貸方 売上 50,000
「正解。では、この仕訳を元帳に転記します」
ホワイトボードに二つの部屋が書かれた。
売掛金の部屋
売上の部屋
佐藤先輩は説明した。
「仕訳で売掛金は借方にあるので、売掛金の元帳の借方へ50,000円」
「仕訳で売上は貸方にあるので、売上の元帳の貸方へ50,000円」
みおはノートに書いた。
仕訳の位置を、そのまま科目ごとの部屋へ移す。
「これが転記ですね」
「そう」
2つ目の取引
商品30,000円を掛けで仕入れた。
山田くんが答えた。
「商品を仕入れたので、仕入が増えます。仕入は費用だから借方・左」
みおが続けた。
「代金はあとで払うので、買掛金が増えます。買掛金は負債だから貸方・右」
佐藤先輩は仕訳を書いた。
借方 仕入 30,000 / 貸方 買掛金 30,000
「では、転記は?」
みおが言った。
「仕入の元帳の借方に30,000円。買掛金の元帳の貸方に30,000円」
「正解」
高橋さんが腕を組んでうなずいた。
「部品を品番ごとの棚に入れるみたいな感じやな。仕入は仕入の棚、買掛金は買掛金の棚や!」
佐藤先輩は笑った。
「かなりいいです。間違った棚に入れると、あとで集計がズレます」
3つ目の取引
給料20,000円を普通預金から支払った。
みおは少し自信ありげに言った。
「給料は費用だから、借方・左」
山田くんが続けた。
「普通預金は資産だけど、支払って減るので貸方・右」
仕訳はこうなった。
借方 給料 20,000 / 貸方 普通預金 20,000
佐藤先輩は確認した。
「では、元帳に転記すると?」
山田くんが答えた。
「給料の元帳の借方に20,000円。普通預金の元帳の貸方に20,000円」
「正解」
みおは、少しずつ流れがつかめてきた。
仕訳を見る。
勘定科目を探す。
借方か貸方かを見る。
その科目の元帳へ写す。
転記は、思っていたより地味だけど、会社の数字を整える大事な作業だった。
4つ目の取引
借入金100,000円が普通預金に入金された。
高橋さんが先に言った。
「銀行から金を借りたやつやな!」
佐藤先輩はうなずいた。
「そうです。では仕訳は?」
山田くんが答えた。
「普通預金が増えます。普通預金は資産なので借方・左」
みおが続けた。
「借入金が増えます。借入金は負債なので貸方・右」
借方 普通預金 100,000 / 貸方 借入金 100,000
佐藤先輩は言った。
「ここで普通預金がまた出てきましたね」
みおは気づいた。
「あ、普通預金の元帳には、さっき給料の支払いで貸方20,000円が入りました。今回は借方100,000円を追加するんですね」
「その通り」
高橋さんが笑った。
「同じ普通預金の部屋に、増えた分と減った分が集まるんやな」
「そうです。だから元帳を見ると、その科目の動きが分かります」
5つ目の取引
借入金の利息3,000円を普通預金から支払った。
山田くんは少し考えた。
「利息を払ったので、支払利息が増えます。支払利息は費用だから借方・左」
みおが続けた。
「普通預金は支払って減るので、貸方・右」
借方 支払利息 3,000 / 貸方 普通預金 3,000
「正解」
佐藤先輩は、ここまでの仕訳をホワイトボードにまとめた。
借方 売掛金 50,000 / 貸方 売上 50,000
借方 仕入 30,000 / 貸方 買掛金 30,000
借方 給料 20,000 / 貸方 普通預金 20,000
借方 普通預金 100,000 / 貸方 借入金 100,000
借方 支払利息 3,000 / 貸方 普通預金 3,000
みおは言った。
「これを全部、科目ごとの元帳に分けるんですね」
「そう。では、集めてみよう」
総勘定元帳へ転記
佐藤先輩は、勘定科目ごとの表をホワイトボードに書いた。
売掛金
借方貸方50,000
売上
借方貸方50,000
仕入
借方貸方30,000
買掛金
借方貸方30,000
給料
借方貸方20,000
普通預金
借方貸方100,00020,0003,000
借入金
借方貸方100,000
支払利息
借方貸方3,000
みおは、普通預金の元帳を見て言った。
「普通預金は借方に100,000円、貸方に23,000円。差し引きで77,000円増えていますね」
山田くんもうなずいた。
「元帳に集めると、科目ごとの動きが見えるのが分かります」
佐藤先輩はにっこり笑った。
「それが今日の大事な感覚です」
元帳から試算表へ
「では、次は試算表に集計します」
みおは少し緊張した顔をした。
「いよいよ前回の試算表ですね」
「そう。元帳の金額を集めて、借方合計と貸方合計が一致するか確認します」
佐藤先輩は試算表を書いた。
勘定科目借方貸方売掛金50,000売上50,000仕入30,000買掛金30,000給料20,000普通預金77,000借入金100,000支払利息3,000合計180,000180,000
みおは電卓を打った。
「借方合計は、50,000+30,000+20,000+77,000+3,000で180,000円」
山田くんが続けた。
「貸方合計は、50,000+30,000+100,000で180,000円」
高橋さんが大きく言った。
「左右一致や!」
佐藤先輩はうなずいた。
「はい。今回の試算表では、借方合計と貸方合計が一致しました」
みおはほっとした顔をした。
「なんか気持ちいいですね」
「分かります。左右が合うと、ひとまず安心できます」
ただし、佐藤先輩はすぐに付け加えた。
「でも、前に話した通り、試算表で左右が一致しても、全部正しいとは限りません」
山田くんが答えた。
「勘定科目を間違えていても、左右の金額は一致することがあるからですね」
「その通り」
社長が事務所に入ってきて、ホワイトボードを見た。
「今日はかなり実践的やな」
「はい。仕訳から元帳、試算表までつなげています」
社長はうなずいた。
「この流れが分かると、数字の見方が変わる。試算表の数字を見て、どの科目が大きいか、どこに違和感があるかも確認できるようになる」
高橋さんが言った。
「現場でも、日報を集めて月の実績を見るのと同じやな。1件ずつの記録が、最後は全体の数字になる」
「まさにそうです」
みおはノートの端にこう書いた。
仕訳は取引ごと。
元帳は科目ごと。
試算表は全体チェック。
佐藤先輩はそれを見て言った。
「今日のまとめとして、完璧やね」
山田くんは、今日の流れをもう一度見直した。
仕訳で取引を記録する。
総勘定元帳へ転記して、科目ごとに集める。
元帳を集計して、試算表を作る。
借方と貸方の合計を確認する。
日々の小さな仕訳が、会社全体の数字へとつながっていく。
青葉製作所の帳簿は、今日も一つひとつの取引を積み重ねながら、会社の姿を少しずつ形にしていた。
今日の簿記ポイント
今回は、仕訳から総勘定元帳、試算表までの流れを確認しました。
仕訳
↓ 転記
総勘定元帳
↓ 集計
試算表
仕訳は取引ごとの記録です。
総勘定元帳は勘定科目ごとの記録です。
試算表は、元帳を集計して借方と貸方の合計を確認する表です。
今日の取引と仕訳
1. 商品50,000円を掛けで売った
借方 売掛金 50,000 / 貸方 売上 50,000
2. 商品30,000円を掛けで仕入れた
借方 仕入 30,000 / 貸方 買掛金 30,000
3. 給料20,000円を普通預金から支払った
借方 給料 20,000 / 貸方 普通預金 20,000
4. 借入金100,000円が普通預金に入金された
借方 普通預金 100,000 / 貸方 借入金 100,000
5. 借入金の利息3,000円を普通預金から支払った
借方 支払利息 3,000 / 貸方 普通預金 3,000
試算表の完成例
勘定科目借方貸方売掛金50,000売上50,000仕入30,000買掛金30,000給料20,000普通預金77,000借入金100,000支払利息3,000合計180,000180,000
普通預金の考え方
普通預金は、複数の仕訳に出てきました。
借方 普通預金 100,000
貸方 普通預金 20,000
貸方 普通預金 3,000
差し引きすると、
100,000 − 20,000 − 3,000 = 77,000
普通預金は、借方残高77,000円になります。
覚え方
仕訳は取引ごと
元帳は科目ごと
試算表は全体チェック
もう少し流れで覚えるなら、
取引を仕訳する
仕訳を元帳へ転記する
元帳を集計して試算表を作る
左右の合計を確認する
ミニ問題
問題1
次の仕訳を、総勘定元帳に転記すると、売掛金は借方・貸方のどちらに記録されますか?
借方 売掛金 40,000 / 貸方 売上 40,000
問題2
次の仕訳を、総勘定元帳に転記すると、買掛金は借方・貸方のどちらに記録されますか?
借方 仕入 25,000 / 貸方 買掛金 25,000
問題3
普通預金について、次の動きがありました。
借方 普通預金 80,000
貸方 普通預金 30,000
貸方 普通預金 10,000
普通預金の残高は借方・貸方のどちらに、いくら残りますか?
問題4
試算表で確認する大事なことは何でしょうか?
答え
問題1
売掛金は借方に記録されます。
問題2
買掛金は貸方に記録されます。
問題3
80,000 − 30,000 − 10,000 = 40,000
普通預金は借方残高40,000円です。
問題4
借方合計と貸方合計が一致しているかを確認します。
次回予告
今回は、仕訳から元帳へ転記し、試算表まで集計する流れを学びました。
次回は、決算整理仕訳の入口に進みます。
第34話
「決算整理仕訳って何?帳簿を正しい状態に整える」
山田くんたちは、前TBから後TBへ進むために必要な、決算整理仕訳の考え方を学んでいきます。
