第59話 伝票から元帳へ転記しよう
取引を科目ごとに集める
青葉製作所の事務所。
机の上には、前回使った三種類の伝票が並べられていた。
入金伝票。
出金伝票。
振替伝票。
みおちゃんは、伝票を一枚ずつ手に取りながら確認していた。
「現金が入ったら入金伝票。現金が出たら出金伝票。現金が直接動かなければ振替伝票でしたね」
山田くんもうなずく。
「普通預金が増えた場合でも、現金が動いていなければ入金伝票ではない、というところが注意点でした」
そこへ、美咲さんが分厚い帳簿を持ってやってきた。
「二人とも、よく覚えてるね。では今日は、記入した伝票をこの帳簿へつなげていこう」
みおちゃんが、分厚い帳簿の表紙を見た。
そこには「総勘定元帳」と書かれていた。
「伝票から元帳へ移すんですか?」
「そう。伝票に記録しただけでは、現金がいくら残っているのか、売掛金がいくらあるのかは分かりにくいよね」
山田くんが言った。
「取引が発生した順番には並んでいても、科目ごとにはまとまっていませんからね」
「その通り」
美咲さんは、ホワイトボードに今日の流れを書いた。
伝票
↓
仕訳を確認する
↓
総勘定元帳へ転記する
↓
科目ごとの残高を求める
↓
試算表へ集める
高橋さんが現場から戻り、その流れを見て言った。
「現場で言うたら、作業伝票を製品別や工程別に集計するようなもんやな」
みおちゃんが聞く。
「伝票を集めるだけでは、全体の数字が分からないんですか?」
「そうや。作業伝票が一枚ずつあっても、今月その製品を合計何個作ったかは、集めて計算せんと分からんやろ」
美咲さんがうなずく。
「簿記でも同じ。伝票に書かれた取引を、現金、売掛金、売上などの科目ごとに集める。そのために総勘定元帳を使うんやね」
1 伝票は取引ごと、元帳は科目ごと
美咲さんは、伝票と元帳の違いをホワイトボードに書いた。
伝票
取引ごとに記録する
総勘定元帳
勘定科目ごとに記録する
山田くんが言った。
「伝票には、いつ、どんな取引が起きたかが書かれる。元帳では、その取引を現金や売上などに分けて集めるんですね」
「そうやね」
たとえば、商品を現金50,000円で売り上げた場合、入金伝票を使う。
仕訳は、
借方 現金 50,000円
貸方 売上 50,000円
となる。
この取引は、元帳では二つの場所へ転記される。
現金勘定の借方へ50,000円。
売上勘定の貸方へ50,000円。
みおちゃんが驚く。
「一枚の伝票から、二つの勘定へ書くんですね」
「そう。仕訳には借方と貸方があるから、それぞれの勘定へ反映する必要がある」
美咲さんは、大きく書いた。
一つの取引
↓
借方の勘定へ転記
+
貸方の勘定へ転記
「片方だけでは、帳簿が完成しないんやね」
2 青葉製作所の伝票を確認する
美咲さんは、今回使う伝票を日付順に並べた。
4月1日 入金伝票
科目 資本金
金額 300,000円
摘要 開業にあたり現金を出資
入金伝票なので、現金が増える。
仕訳は、
借方 現金 300,000円
貸方 資本金 300,000円
4月3日 振替伝票
借方科目 仕入
貸方科目 買掛金
金額 100,000円
摘要 商品を掛けで仕入れ
仕訳は、
借方 仕入 100,000円
貸方 買掛金 100,000円
4月8日 振替伝票
借方科目 売掛金
貸方科目 売上
金額 160,000円
摘要 商品を掛けで売り上げ
仕訳は、
借方 売掛金 160,000円
貸方 売上 160,000円
4月15日 入金伝票
科目 売掛金
金額 100,000円
摘要 売掛金を現金で回収
仕訳は、
借方 現金 100,000円
貸方 売掛金 100,000円
4月20日 出金伝票
科目 買掛金
金額 60,000円
摘要 買掛金を現金で支払い
仕訳は、
借方 買掛金 60,000円
貸方 現金 60,000円
4月25日 出金伝票
科目 給料
金額 30,000円
摘要 給料を現金で支払い
仕訳は、
借方 給料 30,000円
貸方 現金 30,000円
みおちゃんは、六枚の伝票を見渡した。
「これを、科目ごとに分けるんですね」
「そう。まずは現金勘定からやってみよう」
3 現金勘定へ転記する
美咲さんは、元帳の現金勘定を開いた。
現金が増えたときは借方。
現金が減ったときは貸方。
4月1日は、現金300,000円が増えた。
現金勘定の借方へ、
4月1日 資本金 300,000円
と記入する。
4月15日は、売掛金100,000円を現金で回収した。
現金勘定の借方へ、
4月15日 売掛金 100,000円
と記入する。
4月20日は、買掛金60,000円を現金で支払った。
現金勘定の貸方へ、
4月20日 買掛金 60,000円
と記入する。
4月25日は、給料30,000円を現金で支払った。
現金勘定の貸方へ、
4月25日 給料 30,000円
と記入する。
美咲さんは、現金勘定をまとめた。
現金勘定
借方
資本金 300,000円
売掛金 100,000円
借方合計 400,000円
貸方
買掛金 60,000円
給料 30,000円
貸方合計 90,000円
現金残高は、
400,000円-90,000円
=310,000円
となる。
みおちゃんが電卓を確認する。
「現金は310,000円残っています」
「そう。バラバラだった入金伝票と出金伝票を現金勘定に集めることで、残高が分かったね」
高橋さんが言った。
「入ってきた合計から、出ていった合計を引けば、今ある現金が分かる。倉庫の入庫と出庫と同じやな」
4 売掛金勘定へ転記する
次は、売掛金勘定。
4月8日に、商品160,000円を掛けで売り上げた。
売掛金という資産が増えたため、売掛金勘定の借方へ、
4月8日 売上 160,000円
と記入する。
4月15日に、売掛金100,000円を現金で回収した。
売掛金が減ったため、売掛金勘定の貸方へ、
4月15日 現金 100,000円
と記入する。
売掛金勘定
借方
売上 160,000円
貸方
現金 100,000円
売掛金残高は、
160,000円-100,000円
=60,000円
となる。
山田くんが言った。
「売上160,000円のうち、100,000円を回収したので、まだ60,000円が未回収なんですね」
「その通り。元帳の残高を見ると、回収されていない売掛金が分かる」
みおちゃんは、売掛金残高の横に書いた。
あとでもらう金額 60,000円
5 買掛金勘定へ転記する
次は買掛金勘定。
4月3日に、商品100,000円を掛けで仕入れた。
買掛金という負債が増えたため、貸方へ、
4月3日 仕入 100,000円
と記入する。
4月20日に、買掛金60,000円を現金で支払った。
買掛金が減ったため、借方へ、
4月20日 現金 60,000円
と記入する。
買掛金勘定
借方
現金 60,000円
貸方
仕入 100,000円
買掛金残高は、
100,000円-60,000円
=40,000円
となる。
みおちゃんが言った。
「まだ支払っていない買掛金が40,000円あるんですね」
「そう。売掛金は、あとでもらう金額。買掛金は、あとで払う金額。元帳に集めると、その残高が見える」
6 売上・仕入・給料も転記する
次に、収益と費用の勘定を確認する。
売上勘定
4月8日に商品160,000円を掛けで売り上げた。
売上は収益なので、貸方へ記入する。
売上勘定 貸方
売掛金 160,000円
売上残高は160,000円。
仕入勘定
4月3日に商品100,000円を掛けで仕入れた。
仕入は費用なので、借方へ記入する。
仕入勘定 借方
買掛金 100,000円
仕入残高は100,000円。
給料勘定
4月25日に給料30,000円を現金で支払った。
給料は費用なので、借方へ記入する。
給料勘定 借方
現金 30,000円
給料残高は30,000円。
資本金勘定
4月1日に現金300,000円を出資した。
資本金は純資産なので、貸方へ記入する。
資本金勘定 貸方
現金 300,000円
資本金残高は300,000円。
山田くんは、すべての勘定を並べた。
現金 310,000円
売掛金 60,000円
仕入 100,000円
給料 30,000円
買掛金 40,000円
資本金 300,000円
売上 160,000円
「伝票では日付順に並んでいた取引が、元帳では科目別に整理されました」
美咲さんがうなずく。
「これで、科目ごとの残高が分かったね」
7 相手科目を書く理由
みおちゃんが、元帳を見ながら質問した。
「現金勘定に“資本金”や“売掛金”と書いていますが、どうして相手の科目を書くんですか?」
美咲さんは答えた。
「その現金が、何によって増減したのか分かるようにするためやね」
たとえば、現金勘定の借方に100,000円だけ書かれていても、
商品を現金で売ったのか。
売掛金を回収したのか。
資本金が払い込まれたのか。
分からない。
相手科目として「売掛金」と書かれていれば、売掛金を回収して現金が増えたと分かる。
高橋さんが言った。
「現場の在庫表でも、数量だけやなく、入庫理由や出庫先を書く。それがないと、なぜ増えたか分からんからな」
みおちゃんがうなずく。
「元帳は金額だけでなく、増減の理由も残しているんですね」
8 伝票からの転記漏れに注意する
美咲さんは、伝票の一枚に印をつけた。
「伝票から元帳へ転記するときに注意したいのが、転記漏れやね」
一つの仕訳は、借方と貸方の両方へ転記する。
たとえば、
借方 売掛金 160,000円
貸方 売上 160,000円
であれば、
売掛金勘定の借方。
売上勘定の貸方。
両方へ記入する。
もし売掛金だけ転記し、売上を転記し忘れると、元帳の借方と貸方の合計が合わなくなる。
山田くんが言った。
「伝票にチェック印をつけると、転記済みか確認できますね」
「そう。実務では、転記した伝票へ印を付けるなどして、同じ取引を二重に転記したり、転記を忘れたりしないようにする」
美咲さんは、ホワイトボードに書いた。
転記時の注意
・借方と貸方の両方を転記する
・金額を正しく写す
・転記先の科目を確認する
・転記済みの印をつける
・同じ伝票を二重に転記しない
9 元帳の残高から試算表を作る
美咲さんは、新しい用紙を机の上に置いた。
「科目ごとの残高が分かったら、最後に試算表へ集めよう」
今回の残高は次の通り。
借方残高
現金 310,000円
売掛金 60,000円
仕入 100,000円
給料 30,000円
貸方残高
買掛金 40,000円
資本金 300,000円
売上 160,000円
借方合計を計算する。
310,000円+60,000円+100,000円+30,000円
=500,000円
貸方合計を計算する。
40,000円+300,000円+160,000円
=500,000円
みおちゃんが、うれしそうに声を上げた。
「借方合計と貸方合計が一致しました!」
残高試算表
借方
現金 310,000円
売掛金 60,000円
仕入 100,000円
給料 30,000円
借方合計 500,000円
貸方
買掛金 40,000円
資本金 300,000円
売上 160,000円
貸方合計 500,000円
山田くんが、伝票から試算表までを見比べた。
「一枚ずつの伝票が、元帳に集まり、最後に試算表になりました」
美咲さんは、ホワイトボードに矢印を書いた。
伝票
↓
仕訳
↓
総勘定元帳
↓
残高
↓
試算表
「これで、バラバラだった取引が、会社全体の数字として見えるようになったね」
10 転記は、数字の置き場所を変える作業
そこへ社長が事務所へ入ってきた。
「今日は、伝票を元帳へ集めているのか」
美咲さんが答える。
「はい。科目ごとの残高を求めて、試算表までつなげています」
社長は、机に並んだ伝票と元帳を見ながら言った。
「一枚の伝票だけでは、会社全体の状態は見えない。すべての取引を正しい勘定へ集めることで、初めて現金や売掛金、負債の残高が分かる」
山田くんが言った。
「伝票は取引の記録で、元帳は科目ごとの集計表なんですね」
「そうだ。記録を残すだけではなく、判断できる形に整理することが大切だ」
高橋さんもうなずく。
「現場も同じやな。作業実績を記録しただけでは改善できん。製品別、設備別、担当別に集めて、初めて問題が見えてくる」
みおちゃんは、今日のノートの最後にこう書いた。
伝票は取引ごとの記録。
総勘定元帳は科目ごとの記録。
一つの取引を、借方と貸方の両方へ転記する。
元帳の残高を集めると、試算表になる。
そして、その下にもう一行書き足した。
転記とは、数字を正しい科目の場所へ集めること。
今日の簿記ポイント
伝票には、取引ごとの内容が記録されています。
しかし、伝票を一枚ずつ見ているだけでは、現金や売掛金の残高は分かりません。
そのため、伝票から仕訳を確認し、総勘定元帳へ転記します。
総勘定元帳は、取引を勘定科目ごとに集める帳簿です。
たとえば、
借方 現金 50,000円
貸方 売上 50,000円
という仕訳があれば、
現金勘定の借方へ50,000円。
売上勘定の貸方へ50,000円。
それぞれ転記します。
一つの仕訳は、借方と貸方の両方へ転記することが大切です。
元帳に取引を集めることで、科目ごとの残高が分かります。
その残高を集めたものが、残高試算表です。
今日の仕訳例・計算例
今回の取引は次の通りです。
1.現金300,000円を出資して開業した。
借方 現金 300,000円
貸方 資本金 300,000円
2.商品100,000円を掛けで仕入れた。
借方 仕入 100,000円
貸方 買掛金 100,000円
3.商品160,000円を掛けで売り上げた。
借方 売掛金 160,000円
貸方 売上 160,000円
4.売掛金100,000円を現金で回収した。
借方 現金 100,000円
貸方 売掛金 100,000円
5.買掛金60,000円を現金で支払った。
借方 買掛金 60,000円
貸方 現金 60,000円
6.給料30,000円を現金で支払った。
借方 給料 30,000円
貸方 現金 30,000円
科目ごとの残高は次の通りです。
現金
300,000円+100,000円-60,000円-30,000円
=310,000円
売掛金
160,000円-100,000円
=60,000円
買掛金
100,000円-60,000円
=40,000円
そのほか、
仕入 100,000円
給料 30,000円
資本金 300,000円
売上 160,000円
です。
残高試算表の合計は、
借方合計
310,000円+60,000円+100,000円+30,000円
=500,000円
貸方合計
40,000円+300,000円+160,000円
=500,000円
となり、一致します。
練習問題
問題1
次の取引を仕訳し、現金勘定の残高を求めてください。
1.資本金200,000円を現金で出資して開業した。
2.商品80,000円を現金で売り上げた。
3.商品50,000円を現金で仕入れた。
4.給料20,000円を現金で支払った。
問題2
次の取引について、売掛金勘定、買掛金勘定、売上勘定、仕入勘定の残高を求めてください。
1.商品120,000円を掛けで売り上げた。
2.売掛金70,000円を現金で回収した。
3.商品90,000円を掛けで仕入れた。
4.買掛金40,000円を現金で支払った。
考え方と解説
問題1の解説
まず、仕訳を行います。
1.開業
借方 現金 200,000円
貸方 資本金 200,000円
2.現金売上
借方 現金 80,000円
貸方 売上 80,000円
3.現金仕入れ
借方 仕入 50,000円
貸方 現金 50,000円
4.給料の支払い
借方 給料 20,000円
貸方 現金 20,000円
現金の増加は、
200,000円+80,000円
=280,000円
現金の減少は、
50,000円+20,000円
=70,000円
したがって、現金残高は、
280,000円-70,000円
=210,000円
です。
答え
現金残高 210,000円
問題2の解説
1.商品120,000円を掛けで売り上げた。
借方 売掛金 120,000円
貸方 売上 120,000円
2.売掛金70,000円を現金で回収した。
借方 現金 70,000円
貸方 売掛金 70,000円
売掛金残高は、
120,000円-70,000円
=50,000円
売上残高は120,000円です。
3.商品90,000円を掛けで仕入れた。
借方 仕入 90,000円
貸方 買掛金 90,000円
4.買掛金40,000円を現金で支払った。
借方 買掛金 40,000円
貸方 現金 40,000円
買掛金残高は、
90,000円-40,000円
=50,000円
仕入残高は90,000円です。
答え
売掛金残高 50,000円
買掛金残高 50,000円
売上残高 120,000円
仕入残高 90,000円
覚え方
伝票と元帳の違いは、次のように覚えます。
伝票
取引ごとに記録する
元帳
科目ごとに集める
一つの仕訳は、借方と貸方の両方へ転記します。
現金が増えた取引は、現金勘定の借方へ。
現金が減った取引は、現金勘定の貸方へ。
売掛金が増えた取引は、売掛金勘定の借方へ。
売掛金を回収したら、売掛金勘定の貸方へ。
買掛金が増えた取引は、買掛金勘定の貸方へ。
買掛金を支払ったら、買掛金勘定の借方へ。
元帳の残高をすべて集めると、試算表になります。
短く覚えるなら、次の一言です。
伝票は一件ずつ。
元帳は科目ごと。
試算表は全部まとめて。
次回予告
次回は、伝票や元帳の数字に間違いがないかを確認します。
借方と貸方の金額を逆にしてしまった。
同じ伝票を二回転記してしまった。
相手科目を間違えた。
数字の桁を間違えて写した。
こうした間違いを、どのように見つければよいのでしょうか。
第60話
「伝票と元帳のミスを見つけよう。転記間違いを確認する方法」
試算表の合計だけでは見つからないミスにも注目していきましょう。
記事タイトル案
第59話 伝票から元帳へ転記しよう。取引を科目ごとに集める
簿記3級を物語で学ぶ 第59話|伝票から総勘定元帳・試算表まで
伝票は取引ごと、元帳は科目ごと。転記の流れをやさしく解説
入金・出金・振替伝票を元帳へつなげる方法
