経営会議で感じた、メーカーとの違い
「その数字、根拠は?」——メーカー時代なら当たり前だったその一言を、クリニックの経営会議では誰も口にしなかった。
前回は「スタッフの相談で大切にしていること」について書きました。予告した通り、今回はクリニックの経営会議に出るようになって感じた、メーカーとの違いを正直に書いてみようと思います。
■資料の分厚さがまるで違った
メーカー時代の会議は、事前に配布される資料が数十ページに及ぶこともざらだった。売上予測、原価率、競合比較、前年同月比……あらゆる数字にグラフと根拠がついていて、会議はその資料をベースに進んでいく。資料を作る側にいた時期も長く、一晩かけて数字を整えたことも一度や二度ではない。
初めてクリニックの経営会議に出たとき、渡された資料はA4一枚だった。前月の来院数と売上の推移だけが書かれていて、正直「これで大丈夫なのか」と戸惑ったのを覚えている。事前に目を通す資料もなく、会議の位置づけそのものがメーカーとは違うのだと、後になって分かった。
議題も事前共有されておらず、その場で院長が「最近スタッフの動きどう?」と切り出すところから始まった。資料より先に、人の話から始まる会議に慣れるまでには、正直かなり時間がかかった。
■数字より「現場の肌感覚」が優先される
メーカーでは、感覚的な意見を言うと「データで示してほしい」と返されることが多かった。だからクリニックでも、来院数の推移や曜日ごとの傾向をグラフにして持ち込んだことがある。自分なりに気合を入れて作った資料だった。
反応は薄かった。院長や看護師長が重視していたのは、数字よりも「最近、常連さんの顔ぶれが変わった気がする」「午前の混み方が去年と違う」といった現場の肌感覚だった。せっかく作ったグラフより、看護師長の一言のほうが会議の空気を動かしていた。
最初は非効率に見えたが、実際に話を聞いていくと、その肌感覚は数字にまだ表れていない兆しを捉えていることが多いと気づいた。数字は後から現場の感覚を裏付ける、という順番が意外と普通にある。メーカー時代の「データが先、感覚は後」という順番とは、そこがまるで逆だった。
■自分の役割は「両方の言葉を翻訳すること」だと気づいた
何度か会議を重ねるうちに、自分の立ち位置が見えてきた。現場の肌感覚を数字に落とし込んで見える化する一方で、数字だけで押し切らずに現場の実感を拾い上げる。その両方を行き来する役割が、自分には合っていると感じるようになった。
今は会議の前に、A4一枚の資料に加えて「気になる兆し」を院長や看護師長に一言だけ聞くようにしている。数字と肌感覚、両方を持ち寄ることで、会議の話がかみ合うようになったと感じている。以前のように、資料を見せて終わりということもなくなった。
■まとめ:正解のフォーマットはどちらにもない
メーカーの会議もクリニックの会議も、それぞれのやり方に理由があった。分厚い資料が正解でも、A4一枚が手抜きなわけでもない。大事なのは、その場に集まった人たちが普段どんな情報をもとに判断しているかを理解することだったと、今なら思う。
異業種から来た自分にとって、最初のうちは「どちらが正しいか」を無意識に比べていた気がする。でも比べるものではなく、それぞれの現場で積み上げられてきたやり方だと分かってからは、会議に出るのが少し楽になった。
前回はスタッフの相談で大切にしていることを書きました。今回はクリニックの経営会議で感じたメーカーとの違いについて振り返りました。次回は、スタッフの評価をどうつけているかについて、正直に書いてみようと思います。
