入社して出会った憎めない上司の話
# 第一章 👔仕事しろよ。
こんにちは!
せいタロー🚌です!
皆さんの職場にも一人くらい、いませんか?
「この人、本当に仕事してるの?」
って思う上司(笑)
今日はそんな人の話です。
……
いや。
正確には、
そんな風に思っていた僕の話です。
---
僕が18歳でバス会社に入社した頃。
営業所には、一人の所長がいました。
少しハーフっぽい顔立ち。
真顔はジャムおじさん。
でも笑うとカバオくん(笑)
体型は少しぽっちゃり。
初めて見た時は、
「優しそうな人だな。」
そんな印象でした。
でも、その印象はすぐに変わります。
電話はほとんど取らない。
気付けば休憩室。
戻ってきたと思ったら、
パチンコの話。
野球の話。
しょうもないダジャレ。
「仕事してるところ見たことないな。」
18歳だった僕は、
本気でそう思っていました。
「仕事しろよ。」
でも、不思議なことが一つだけありました。
営業所のみんなが、
この所長のことをめちゃくちゃ慕ってるんです。
先輩も。
事務員さんも。
ベテラン運転士さんも。
ある程度仲良くなると、
先輩たちは普通に所長へツッコミを入れます。
営業所中が笑う。
僕だけが笑えませんでした。
「なんで?」
「なんでこんな人が好かれてるんだろう。」
営業所は大笑い。
「仕事してるところ見たことないのに。」
その理由を、
当時の僕は知る由もありませんでした。
# 第二章 仕事してる…のか?
営業所にも少しずつ慣れてきました。
電話を取って。
点呼をして。
忘れ物の対応をして。
毎日先輩に怒られながら、
「あぁ、社会人ってこんな感じなんだな。」
そんなことを思いながら仕事してました。
でも。
やっぱり所長だけは分かりません(笑)
気付けば休憩室。
戻ってきたと思ったら、
誰かとパチンコの話。
野球の話。
奥さんに怒られた話。
……
仕事は?(笑)
本気でそう思ってました。
でも、その休憩室がまた不思議な場所だったんです。
喫煙所も一緒になっていて、
タバコを吸う人も。
吸わない人も。
気付けばみんなそこにいました。
乗務員さん。
事務員さん。
運行管理の先輩。
誰かが入れば、
誰かが話し始める。
仕事の話もあれば、
全然関係ない話もある。
ある日。
僕がパソコンをカタカタやってると、
所長が席から呼びました。
「なぁ、せいタロー。」
「はい?」
「ブスバスガイド、バスガス爆発って言える?」
……
「え?なんです?」
「ほら。」
「ブスバスガイド、バスガス……ばばばば。」
「言えねぇよ(笑)」
「……。」
「え、それがどうしたんすか?」
すると所長が真顔で一言。
「俺、ブスのバスガイドしか見たことねぇ。」
……
仕事に関係ねぇ(笑)
毎日こんなんです。
だから営業所はよく笑ってました。
ある程度慣れてくると、
所長にも普通にツッコミを入れます。
「いや所長、それ違うでしょ!」
「このエロジジイ!」
すると所長は決まって、
「誰がエロジジイやねん!」
(ベシッ。)
営業所はまた大笑い。
でも。
僕だけは思ってました。
「なんでみんなこの人についていくんだろう。」
「仕事してるところ見たことないけど。」
そんなある日でした。
営業所の電話が鳴ります。
# 第三章 ☎️一本の電話
僕が受話器を取りました。
「お電話ありがとうございます。」
すると開口一番。
「お宅のバスが!!」
怒鳴り声でした。
……
「あ、苦情だ。」
この頃には電話対応にも少し慣れてきてたので、
最初の一言で何となく分かるようになってました。
普通のお問い合わせなら、
「あのー。」
とか、
「すみませーん。」
から始まります。
でも苦情は違います。
いきなり、
「お宅のバスが!」
なんです。
相手はタクシーの運転手さんでした。
話を聞くと、
うちのバスが急な車線変更をして、
危うく事故になりそうだったそうです。
かなり興奮していました。
まずは謝ります。
「申し訳ありません。」
その上で、
「一度事実確認をしたいので、場所とお時間を教えていただけますか?」
そうお願いすると、
「そんなもん必要ねぇ!!」
「こっちが言ってんだから謝れ!!」
「社長出せ!!」
「アホか!!」
……
いやいや。
場所分からんと確認できんやん(笑)
そう思いながらも、
とにかく話を聞き続けました。
「場所だけでも……。」
「時間だけでも……。」
少しずつ話を聞いていくと、
違和感がありました。
「あれ?」
「これ……。」
どう考えても、
うちの会社じゃない。
恐る恐る、
「申し上げにくいんですが……。」
「今のお話だと、うちの会社ではないようなんです。」
そう伝えると、
「チッ……。」
「知らねぇよ!!」
「じゃあその会社の電話番号教えろ!!」
と言われました。
「申し訳ありません。」
「それは分かりかねます。」
すると、
「チッ……。」
「アホか!!」
「使えねぇな!!」
「馬鹿!!」
「何のために電話出とるんや!!」
……
正直、
この辺から何を言われたかあまり覚えてません(笑)
ただ、
「アホ。」
「馬鹿。」
何度も何度も言われました。
18歳です。
腹も立ちます。
「こっちだってちゃんと対応してる。」
「なんなんこの人。」
そんなことを思ってた気がします。
そして。
気付いたら口が動いてました。
「馬鹿なんで分かりません。」
……
ガチャ。
電話を切った瞬間、
キーボードを叩く音。
プリンターが動く音。
誰かの話し声。
そして、
所長のしょうもないダジャレ。
営業所はいつも通りです。
変わったのは、
僕だけ。
受話器を見つめながら、
心の中で一言。
「やっちまった……。」
# 第四章 🤣笑う所長
「やっちまった……。」
そう思いながら、
僕は所長の机へ向かいました。
「所長。」
「ん?」
「ちょっといいですか。」
「おう。」
僕はさっきの電話のことを全部話しました。
タクシーの運転手さんから苦情があったこと。
話を聞いたらうちの会社じゃなかったこと。
電話番号を教えろと言われたこと。
そして最後に、
「『馬鹿なんで分かりません。』って言って電話切っちゃいました。」
全部。
正直に話しました。
……
所長は数秒、
僕の顔を見てました。
そして次の瞬間。
「ぶははははは!!」
営業所中に響くくらい笑い出しました。
「お前!」
「『馬鹿なんで分かりません』って(笑)」
もう笑いが止まりません。
僕は笑えません。
「所長……。」
「俺、怒られますよね……。」
すると所長は笑いながら一言。
「いや、それカスハラやろ(笑)」
……
え?
怒らないの?
そんなことを思ってると、
営業所の電話が鳴りました。
近くにいた先輩が受話器を取ります。
「はい。」
……
「あ。」
「さっきの人です。」
営業所のみんなが、
「えぇぇ……。」
みたいな顔になりました。
もちろん僕もです。
「終わった…。」
本気でそう思いました。
すると所長が席を立ちます。
「あぁ(笑)」
「変わって、変わって(笑)」
先輩から受話器を受け取ると、
開口一番。
「いやぁー!さっきはすみませんねぇ。」
「うちの若いのが(笑)」
「えぇ。」
「そうそう。」
「あいつまだ18なんすよ。」
「えぇ。」
「そうなんですよ。」
「まだガキなんです。」
「ほんとすみません。」
「えぇ。」
「はい。」
「はい。」
「いやー、ほんとすみませんでしたねぇ。」
「じゃ、失礼しまーす。」
ガチャ。
電話を切ると、
所長は何事もなかったように席を立って、
一人で休憩室へ行きました。
営業所も、
「いやー面白かった。」
「はいはい、仕事仕事。」
そんな空気です。
ポカンとしてたのは、
僕だけでした。
数分後。
所長が休憩室から戻ってきます。
僕の顔を見るなり、
「ぶははは!」
「『馬鹿だから分かりません』って(笑)」
「揚げ足取りすぎやろ!」
営業所のみんなもまた笑います。
……
いや。
笑い事じゃないって(笑)
僕だけ最後まで笑えませんでした。
# 第五章 💡仕事しろよ。
あの日の出来事があってから、
僕の中で所長を見る目は少しだけ変わりました。
……とは言っても、
翌日から急に尊敬したわけじゃありません(笑)
相変わらず電話はあまり取らない。
気付けば休憩室。
戻ってきたと思ったら、
またパチンコの話。
またしょうもないダジャレ。
「仕事しろよ。」
そう思う日もありました(笑)
でも、
一つだけ変わったことがあります。
所長が休憩室へ行くたびに、
「あ、またタバコか。」
そう思っていたのが、
「何してるんだろう。」
に変わりました。
今思えば、
あの休憩室は、
ただタバコを吸う場所じゃなかったんだと思います。
乗務員さんが入ってきて、
今日あった出来事を話す。
事務員さんが世間話をする。
先輩たちが笑う。
時には仕事の相談もする。
気付けば、
みんなそこに集まっていました。
所長はそこで、
営業所のみんなの話を聞いて、
笑って、
空気を感じてたのかもしれません。
誰か困ってないか。
何か変わったことはないか。
新人はちゃんと馴染めているか。
そんなことを、
自然と見ていたのかもしれません。
もちろん、
これは今の僕が勝手に思っていることです。
実際に所長へ聞いたことはありません。
でも、
あの日の電話を見て、
そんな気がしました。
18歳だった僕は、
「仕事」は、
電話を取ること。
書類を作ること。
机に向かうこと。
そういう目に見えることだけだと思っていました。
でも違いました。
人と話すこと。
笑うこと。
営業所の空気をつくること。
それも立派な仕事だったんだと、
あの日初めて知りました。
だから今、
18歳だった自分に会えるなら、
こう言います。
「仕事しろよ。」
もちろん、
所長にじゃありません。
あの日の僕にです。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この話が少しでも皆さんの心に残ったなら嬉しいです。
そして実は、この所長との思い出はまだまだあります。
次回お話しするのは、
19歳で教育係を任された僕の話です。
「人に教えるって、こんなに難しいのか。」
何をやっても伝わらない後輩。
何を言っても変わらない。
「もう無理です。」
そう思っていた僕を、所長は昼休みにラーメン屋へ連れ出しました。
そこで言われた言葉は、
今でも僕の仕事の考え方を支えています。
そして、その一週間後。
僕は後輩に初めて本気で怒鳴ってしまいます。
すると所長は後輩を別室へ連れて行き、
営業所中に響き渡るほどの声で怒鳴りました。
『なんのつもりなんだ貴様ぁぁぁ!!!』
普段は笑ってばかりだった所長が、
初めて見せた"本気"の話です。
また次回、お会いしましょう🚌
