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お前のダメなところはな。― 19歳の教育係が、所長の一言で変わった日 ―


こんにちは!
せいタロー🚌です!

前回は、18歳の頃に出会った所長との話を書きました。

今回は、その一年後。

僕が19歳だった頃の話です。

これは、
僕が初めて「人に教える難しさ」を知った話です。

そして同時に、

僕自身も所長に育てられていたんだと、
あとから気付いた話でもあります。

---

第一章 📕今日から教育係な。


営業所にも慣れてきて、
毎日の仕事にも少し余裕が出てきた頃でした。

ある日。

所長に呼ばれました。

「セイタローちゃん♩」

「はい?」

「今日から教育係な。」

……

「え゛?」


思わず聞き返しました。

「僕ですか?」

「いや、まだ19歳ですよ?」

「人に教えられるような人間じゃないです。」


すると所長は笑いながら、

「だってもう入社2年目でしょ?」

「そろそろ色々分かってきた頃だろうから、よろしく〜。」


「……はぁ。」

いやいや。

「はぁ。」じゃないんですよ(笑)

教育係なんてやったことありません。

自分の仕事を覚えるので精一杯だった僕に、
まさか人を教える日が来るなんて思ってもいませんでした。

すると営業所のドアが開きます。

「ちわーっす!!」


営業所中に響くくらい大きな声でした。

「小松っす!」

「なんも分かんないんで、優しく教えてくださーい!」

「おねしゃーす!」

……

これ。

初対面ですよ(笑)

正直な第一印象は、

「うわぁ……。」

「めんどくせぇの来たな。」

でした。

完全に偏見です(笑)

でも本当にそう思ってしまいました。

身だしなみはちゃんとしてるんです。

スーツも綺麗。

シャツも綺麗。

バッグも綺麗。

でも、
髪型と雰囲気だけで全部持っていく(笑)

ナチュラルパーマのセンター分け。

少しつり目。

金髪にしたら、
もうそのままに見える。

でも不良というより、

イキりまくってる18歳。

一言で言うなら、

「イキリデビュー大学生」

そんな感じでした。

所長はそんな小松を見ながら、

「じゃ、セイタローちゃんよろしく〜♬」

……

軽っ。

こうして僕は、
19歳で教育係になりました。

この時の僕は、
教育係の大変さなんて、
まだ何も分かっていませんでした。

---

😵‍💫第二章 教育係って、こんなに難しいのか。


翌日から、

僕と小松の教育が始まりました。

仕事内容。

電話対応。

書類の整理。

点呼の流れ。

僕が知っていることを、

一つずつ教えていきます。

でも。

僕もまだ入社2年目。

教え方なんて分かりません。

会社で教わったことを、
そのまま伝えるだけでした。

「ここはこう。」

「これはこうする。」

「分からなかったら聞いて。」

そんな教え方です。

すると、

開始10分で気付きました。

……

メモを取らない。

「小松くん。」

「メモ取らなくていいの?」

すると小松は、

「余裕っす。」

「俺、記憶力パないんで。」


「……そう。」

「じゃあ続けるね。」

その時は、

本当に記憶力がいいのかな。

それくらいにしか思っていませんでした。

でも。

午後には、

午前中教えたことを忘れていました。

「あれ?」

「さっき説明したよね?」

「あ、そうでしたっけ(笑)」

教えて。

忘れて。

また教えて。

また忘れる。

最初は、

「まだ新人だから。」

そう思っていました。

でも、

ある日。

営業所の電話が鳴りました。

「プルルルル……」

僕は近くにいた小松へ言います。

「小松くん。」

「電話お願い。」

すると、

「いやー。」

「俺、今忙しいんで。」

「さーせん。」

そう言いながら、

ポケットからスマホを取り出しました。

……

「え?」

忙しい?

今?

思わず固まりました。

営業所の空気も、

一瞬だけ止まります。

誰も何も言いません。

ただ、

近くにいた先輩が小さくため息をついて、

無言で電話を取りました。

その姿を見ながら、

僕も何も言えませんでした。

その日を境に、

営業所で

「小松、電話お願い。」

そう声を掛ける人はいなくなりました。

仕事ができない。

それなら教えればいい。

でも。

やらない。

それは、
全然別の話でした。

昼休み。

共有の休憩室で、

僕は一人、

頭を抱えていました。

「小松……。」

「どうすればいいんだ……。」

---

🍜第三章 ラーメン、行くか。


昼休み。

共有の休憩室で、

僕は一人、頭を抱えていました。

「小松……。」

「どうすればいいんだ。」

教育係になって三週間。

所長から言われた期間は二週間。

とっくに過ぎていました。

このままだと、
自分の仕事も終わらない。

周りにも迷惑を掛ける。

焦る気持ちだけが大きくなっていました。

その時です。

休憩室のドアが開きました。

「セイタローちゃ〜ん♩」

所長です。

「どうよ。」

「コマッティーの調子は?」


「……コマッティー?」

「あぁ、小松。」

所長だけは、
小松のことをそう呼んでいました。

僕は思わず愚痴がこぼれます。

「何回言っても変わらないんですよ。」

「仕事する気があるのかも分からないし。」

「この前なんか……。」

『いや、それ所長やってないじゃないっすか(笑)』

『なんかないんすか?俺にしかできない仕事。』


そこまで話した時でした。

一瞬だけ。

本当に一瞬だけ。

所長の表情が曇った気がしました。

でも次の瞬間には、
いつもの所長です。

「セイタローちゃんが〜。」

「コマッティーに困ってぃー。」


「所長。」

「全然面白くないです。」

「そうや(笑)」

そう言うと所長は、

「渡る〜世間は〜鬼ばかり〜♪」

鼻歌を歌いながらタバコを咥え、
灰皿の方へ歩いていきました。

その後ろ姿を見ながら、
僕は聞こえるか聞こえないかくらいの声で、

「……古いよ。」

そうボソッと呟きました。

もうこの頃には、
僕と所長はだいぶ打ち解けていました。

でも。

この時ばかりは、

所長のしょうもないシャレに笑っている余裕はありませんでした。

本気で悩んでいたんです。

それから数日。

状況は何も変わりません。

僕は焦るばかりでした。

ーーーー

昼12時。

ピロピロピロピロ♪

所長の携帯が鳴ります。

「よし!」

「昼飯!」


そう言って立ち上がった所長が、

僕を見ました。

「せいタローちゃん♩」

「ラーメン行くか!」


「え?」

「いや、俺の休憩一時間後なんですけど……。」

「いいからいいから。」

「ラーメン食い行こ!」


すると後ろから、

「あ、俺も行くっす!」

小松でした。

所長は笑いながら、

「すまん、コマッティー。」

「今日はセイタローちゃんと話あるから。」

「また今度な。」


「ウッス。」

小松はそう言って、

営業所へ戻っていきました。

僕は所長の車に乗り込みました。

車の中は静かでした。

会話はありません。

しばらく走って、
所長が一言。

「ラーメンでよかや?」

「……はい。」

車の中の会話は、

それだけでした。

---

🥢第四章 お前のダメなところ


ラーメン屋へ入ります。

所長は元気よく、

「こんにちはー!」


すると店の奥から、

「おぉ!所長さん!」

「いらっしゃい!」

どうやら常連のお店みたいです。

席に座ると、

店員さんがお冷を持ってきました。

「ご注文お決まりですか?」

所長は迷わず、

「いつもの!」

「はいよ!」

店員さんは笑いながら厨房へ。

そして僕を見ます。

「そちらは?」

「……カツカレーで。」

すると所長が、

「お前、ラーメン屋来てカツカレーかい(笑)」

「そもそもラーメン屋にカツカレーなんて……」


メニューを見ながら、

「……いや、あるんかい!」


一人でツッコんで、

僕の方を見ました。

……

僕は無反応。

すると所長は、

肩を使って、

「はぁ〜。」

と大きくため息をつきました。

そして、

少しだけ間を置いてから、

静かに聞いてきます。

「お前。」

「国はどこだっけ?」


「……え?」

「どこの高校出たかって聞いてんだよっ。」

「あ……〇〇工業です。」

「あー。」

「あそこ野球と剣道強かったな。」


「何部だった?」

「ハンドボールです。」

そこからでした。

学生時代のこと。

家族のこと。


もう色々

終いには、

この会社を受けた志望理由まで。

思わず僕は、

「……。」

「面接みたいっすね。」

真顔でそう言いました。

すると所長は、

「そうかぁ?」

そのタイミングで、

「はい、お待たせしましたー!」

料理が運ばれてきました。

僕はカツカレー。

所長は、

大盛りラーメン。

チャーハン。

餃子。

「おぉ〜!」

「きたきた!」

「いっただきまーす!」


所長は嬉しそうにラーメンをすすります。

僕もカレーを一口。

でも、

正直それどころではありませんでした。

僕はスプーンを置いて、

所長を見ました。

「所長。」

「俺……。」

「どうすればいいんですかね。」
「小松のこと。」

所長は、

ラーメンをすすっていた箸を持ったまま、

テーブルに肘をつきました。

数秒。

僕の顔を見つめます。

そして、
箸で僕を指しながら言いました。

「お前。」

「自分のダメなところって何だと思う?」


「……え?」

思わず聞き返しました。

小松の相談をしたはずなのに、
返ってきたのは、
自分の話だったからです。

すると所長は言いました。

「なぁ、セイタロー。」

「俺はこの会社の中で一番、お前のことを分かってるつもりだ。」

「だから、あえて言わせてもらう。」

「お前のダメなところは。」

「詰めの甘さだ。」


「……詰めの甘さ?」

正直、

何を言われてるのか分かりませんでした。

ミスが多い訳でもない。

仕事も真面目にやってる。

自分ではそう思っていたからです。

すると所長は、
またラーメンを一口すすって言いました。

「お前は仕事を全部マニュアル通りにこなす。」

「この一年ですごく成長した。」

「ミスも少ない。」

「仕事も綺麗。」

「ただな。」

「お前のその少ないミスは目立つミスだよな?」

「分かるか?」


僕は首を横に振りました。

「それは何でか。」

「色んな角度から見てないからだ。」

「全部マニュアル。」

「全部。」

「言われた通り。」

「でもな。」

「こっちはマニュアルじゃ通らない相手を仕事にすることもある。」

「色んな角度から仕事を見ろ。」

「臨機応変に。」

そして、

所長は僕を見ながら続けました。

「今、小松を教えてるのもそうだ。」

「お前はマニュアル通り教えてる。」

「でも、それじゃダメなんだ。」

「あいつには。」

「あいつに合う教え方があるはずだ。」

「俺も。」

「テキトーにお前を教育係にした訳じゃない。」

「経験を通して。」

「気付いてもらうためだ。」

「それと。」

「仕事をこなすのと。」

「人に教えるのは。」

「全く別の技術だ。」


「教育係。」

「辞めてもいいぞ。」

「無理だと思ったら辞めとけ。」

「あいつのためにもならん。」

僕は何も言えませんでした。

すると所長は、

ラーメンを一口すすって続けます。

「いいか。」

「お前が今止まっとる理由は。」

「壁だ。」

「壁にぶち当たっとる。」

「でもな。」

「その壁は。」

「越えられんほど高くない。」

「ぶち抜けんほど厚くもない。」

「ほんの少し背伸びしたら。」

「向こうの世界が見えるくらい。」

「薄くて低い壁や。」

僕は黙って聞いていました。

「お前は今。」

「その壁を乗り越えようとも。」

「ぶち抜こうともせん。」

「壁沿いを歩いて。」

「入口ばっかり探して。」

「ただ、さまよっとるだけ。」

少しだけ間を置いて、

所長はまたラーメンをすすりました。

そして、
僕を見ながら言います。

「ぶち抜くのも。」

「乗り越えるのも。」

「お前の勝手や。」

「でもな。」

「壁の向こうに見える世界もあるんじゃないか?」


僕は何も言えませんでした。

すると所長は、
少しだけ笑って言いました。

「俺は。」

「お前ならやれると思う。」

「正直。」

「あいつは手強そうだぞ(笑)」
「でもな。」


そして所長は、

箸を持ったまま僕を指して言いました。

「でも、お前。」

「今日。」

「『辞めたい。』じゃなかったな。」

「『代わってほしい。』でもなかった。」

「『どうすればいい?』だった。」

「そこがお前のいいところだ。」

胸の奥が、

ぎゅっと締め付けられました。

「あぁ……。」

「この人は。」

「ちゃんと俺のことを見てくれてる。」

そう思いました。

すると所長が、
ラーメンをすすりながら一言。

「ほら。」

「早く食え。」

「伸びるぞ。」

……

「いや、伸びねぇよ。」

「カレーだし。」

初めて、

心の中で所長にツッコミを入れました。

でも正直。

あの日食べたカツカレーは、

どんな味だったのか覚えていません。

店を出る時、
僕は所長に言いました。

「所長。」

「もう少し頑張ってみます。」

すると所長は、

「おう。」

「頑張れよ。」

その一言だけでした。

僕たちはまた、

営業所へ戻りました。


💥第五章 なんのつもりなんだ貴様ぁぁぁ!!!


営業所へ戻ってからの一週間。

僕は教え方を変えました。

メモを取らない?

じゃあ、
僕が分かりやすく資料を書いて渡せばいい。

できない?

じゃあ、
できる仕事から任せればいい。

所長の言葉を思い出しながら、

何度も。

何度も。

教え方を変えました。

夜遅くまで残業した日もありました。

すると、
本当に少しずつですが、
小松は変わり始めました。

仕事をするようになったんです。

「よし!これならいけるかもしれない。」

そう思い始めた頃でした。

ある日、

僕は小松に言いました。

「小松くん。」

「この点検簿の数字まとめて。」

「台帳に挟んで。」

「金庫にしまっといて。」

簡単な仕事です。

計算して。

書いて。

挟んで。

金庫にしまう。

当時の小松は、
まだ運行管理者の資格を持っていませんでした。

だから、
その頃できる仕事を任せたつもりでした。

僕はそのまま班会議へ向かいました。

約一時間後。

班会議を終え、事務所へ戻りました。

時計を見ると、一時間ほど経っていました。

「終わってるかな。」

最近の小松は少しずつ変わってきていました。

分からないことは聞くようになった。

任された仕事も、最後までやろうとしてくれる。

だから今回も、

「きっと終わってる。」

そう思っていました。

……

でも。

机の上は、一時間前と何も変わっていませんでした。

点検簿。

そのまま。

台帳。

そのまま。

金庫も閉まったまま。

嫌な予感がしました。

事務所を見渡すと、小松はパソコンの前に座っています。

何かをしている様子もなく、ただ画面を眺めていました。

僕はゆっくり近づきます。

「小松くん。」

「頼んでた仕事は?」

小松は振り返り、悪びれる様子もなく笑いました。

「あぁ、セイタローさん。」

「やり方忘れちゃいました。」

「さーせん。笑」

「……。」

僕は一度深呼吸をしました。

「忘れたなら、聞きに来ればよかったじゃん。」

できるだけ落ち着いて言います。

すると小松は肩をすくめながら、

いやぁ。」

「また聞いたら怒られるかなと思って(笑)」



「…怒らないよ。」

「分からないなら何回でも聞いてって言ったじゃん。」

そう返すと、

小松は笑いながらこう続けました。

「まぁでも。」

「誰かやってくれるかなーって(笑)」

……

一瞬、頭の中が真っ白になりました。

その一言で、
この一か月が頭の中を駆け巡ります。

休憩時間を削って作った資料。

家に帰ってから考えた教え方。

夜遅くまで残って、一緒に練習した日。

所長に相談したこと。

ラーメン屋で言われた言葉。

全部が一気によみがえりました。

「俺は……。」

「何のために……。」

そんな言葉が喉まで出かかった、その時です。

小松が悪気なく笑いながら言いました。

「だって先輩、結局やってくれるじゃないっすか。

その瞬間でした。

気付いたら僕は、手に持っていた台帳を机へ叩きつけていました。

バンッ!!!


営業所中に響く音。

「お、お前……!」

「俺がどれだけ……!」

言葉が詰まります。

「なんで……。」

「なんでできないんだよ!!!」


営業所に、

僕の怒鳴り声が響きました。

「どれだけお前のために時間使ったと思ってるんだ!!!」


「ふざけんな!!!」

その瞬間、

営業所の空気が止まりました。

さっきまで聞こえていた話し声も、

いつの間にか聞こえなくなっています。

でも、

その時の僕には、

そんなこと気付く余裕なんてありませんでした。

目の前にいる、

小松しか見えていなかったんです。

すると小松は、

少し引きながら笑って言いました。

「うわっ。」

「怖っ。」

「先輩。」

「パワハラっすよ(笑)」

……

その一言で、

僕の中の何かが完全に切れました。

「お前なんて――」

そう言いかけた、その時。

「小松!!!」


営業所中に響く声でした。

所長です。

「すまん。」

「小松。」

「ちょっといいかな。」


「ウッス。」

「セイタローちゃん。」

「一回落ち着いて。」

「業務戻っとって。」

そう言うと、

所長と小松は、

別室へ入っていきました。

近くにいた先輩が、

僕の背中を

ポン。

ポン。

と叩いて、

「お疲れさん。」

「よう頑張ったな。」


そう言いました。

悔しかった。

所長の期待に応えられなかった。

何もできなかった。

悔しい。

悔しい。


その気持ちだけでした。

深呼吸をして、
僕は電話業務に戻ります。


ーーーーー
確か、
定期券の金額のお問い合わせだったと思います。

「えーっとですね……。」

「この区間ですと、三万二千……」


その時でした。

別室から、

営業所中に響く声が聞こえました。

「なんのつもりなんだ
貴様ぁぁぁ!!!」


一瞬で、
営業所が静まり返りました。

僕も、
口が開いて固まったまま。

でも、
受話器の向こうからは、

「もしもーし!」

「聞こえてますかー!」


その声だけが、
右耳に聞こえてきます。

「あっ!」

「失礼しました!」

「この区間ですと……」


電話を切ると、

営業所のみんなの視線は、

会議室のドアに向いていました。

五分ほどして、
会議室のドアが開きました。

先に出てきたのは、

小松でした。

なんだろう。

少しだけ、

背が縮んでた気がします。

その後ろから、

所長が出てきます。

いつもの、
ニコニコした所長でした。

そして小松を見て、

「うん。」

「これからも頑張れよ。」


そう言いました。

小松は、
真っすぐ僕のところへ来て

「セイタローさん。」

「ほんとすみませんでした。」


それだけ言うと、

自分の席へ戻りました。

その日からでした。

小松が変わったのは。

急に仕事ができるようになった訳じゃありません。
でも、
仕事から逃げなくなりました。

分からないことは聞く。

任された仕事は最後までやる。

少しずつ。

本当に少しずつですが、
変わっていきました。

今では、

運行管理者の資格も取り、
立派に乗務員を送り出しています。

後日談ですが、
一つだけ変わったことがあります。

あれだけ怒鳴ったのに、
所長は小松への態度を何一つ変えませんでした。

相変わらず話しかけるし、
相変わらずしょうもないダジャレも言う。

営業所はまた、
いつもの空気に戻っていました。

でも、

一つだけ。

所長は、

「コマッティー♩」

とは呼ばなくなりました。

「小松。」

そう呼ぶようになったんです。

理由は、
最後まで聞けませんでした。

ある日、
僕は所長に聞きました。

「所長。」

「あの日、小松に何言ったんすか?」

すると所長は、

「ん?」

「なんも言ってねぇよ。」

「頑張れよーって言っただけ。」


そう笑っていました。

……

多分、

嘘です(笑)

でも、

その嘘も所長らしいなと思いました。

あの日、

教育係として育てられていたのは、
小松だけじゃありませんでした。

僕もまた、
所長に育てられていたんです。

……

そんなことを考えていると、

営業所の向こうから、
聞き慣れた声が聞こえてきました。

「セイタローちゃ〜ん♩」

「飯行くか!」


……

やっぱり所長は、

最後まで所長でした。




ーーーーーー


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

この出来事から、僕は一つだけ学びました。

人を育てることは、
仕事を教えることじゃない。

相手に合わせて悩み、
ぶつかり、
自分も一緒に成長していくことなんだと思います。

あの日、教育係だったのは僕でした。

でも、本当に育てられていたのは、
きっと僕の方だったんでしょうね。

せいタロー🚌

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