少子化を加速させる日本の「都道府県別」最低賃金。安心して子育てができるオーストラリアの「産業別」最低賃金との違い
今年度の最低賃金が決まった。
最低賃金、平均1121円 6,3%上げ 全都道府県1000円超す
2025年度の最低賃金(時給)は5日、全都道府県で金額が決定した。厚生労働省のまとめによると、全国加重平均は過去最高となる66円 (6.3%)の引き上げで、1,121円になった。
現行の最低賃金で、深刻な少子化問題を解決できるのか。オーストラリアの最低賃金と比較してみた。
日本の最低賃金と少子化問題
都道府県別最低賃金
各都道府県ごとに毎年設定され、全ての産業・事業所の労働者に適用される時給。同一都道府県内あれば、産業や職種を問わず一律。
低水準と生活との乖離
最低賃金の時給で、年2000時間フルタイムで働いても、年収は最大200万円程度。正社員の年収中央値420万円 (2024年,男性) と比較してかなり低い [1]。 非正規雇用が増加する中、かつては、主婦や学生などの家計の補助的な役割だった最低賃金が、一家の生計を支える賃金となるケースも増え、最低賃金では生活の安定には不十分だ。
非正規雇用の時給は、正社員の半分以下
正社員の平均年間労働日数は、235日。これは、1年365日から、土日、祝日、年末年始休暇、夏季休暇・有給休暇 (平均消化日数7) の休日計130日を引いた数字だ。1日8時間とすると年間1,880時間の労働時間となる。上述の通り、男性正社員の年収中央値は420万円なので、残業を考慮せず計算すると時給2,234円。(420万円➗1,880時間)。最低賃金で働く人の時給は、全国平均1,121円だから、正社員の半分以下でしかない。
OECDも、日本の最低賃金でフルタイムで働く人の賃金は、正社員の賃金の中央値の46.8%にとどまり、フランス(62.5%)やイギリス(61.1%)などに比べて低いと報告している (2023年調査) [2]
少子化との関連
最低賃金による低賃金が、結婚や子育てを困難にし、深刻な少子化に繋がっているという見方は、社会問題として広く認識されている。現行の最低賃金は生活保障としての役割を十分に果たせていない。特に若年層の経済的な不安定さを増幅させ、将来設計に影響を与えている。
実効性ない「特定産業別最低賃金」
都道府県別最低賃金の他に、都道府県別の特定の産業ごとに、「特定産業別最低賃金」が設定されている。しかし、この「最低賃金」の中には、残念ながら「地域別最低賃金」の水準を下回り、効力を失っているものも多い。[3-1,3-2]
オーストラリアの「産業別・職種別」最低賃金
オーストラリアの雇用形態 [4]
オーストラリアの雇用形態は、フルタイム、パートタイム、カジュアルの3つに分けられる。契約形態としては、日本の正社員にあたる無期限契約 (Parmanent Contract) と有期限契約 (Fixed-Term Contract) がある。
<フルタイムワーク>
日本の正社員に最も近い雇用形態。週38時間以上の勤務が一般的。雇用の安定性が高く、長期的な勤務が前提となる。雇用には、無期限契約と有期限契約がある。
<パートタイムワーク>
日本の「パート」に似ているが、福利厚生面で違いがある。週38時間未満の勤務で、勤務時間が固定されている。1日の最低勤務時間は3時間。勤務時間や曜日は事前に契約する。有給休暇や病気休暇が付与されるなど、フルタイムと同様の権利を持ち、日本の「パート」とは異なり、安定した働き方ができる。特筆すべきは、パートタイムでも、日本の正社員に当たる無期限契約も可能なことだ。
<カジュアルワーク>
日本でいう「アルバイト」に最も近い雇用形態。飲食店などシフト制で働く場合が対象。勤務時間の保証がなく、また、有給休暇、病気休暇といった福利厚生はない。その代わりに、フルタイムやパートタイムの従業員よりも高い時給が設定されている。勤務時間の保証や福利厚生がない分、通常、賃金は25%増で支払われる。
最低賃金は産業別+職種別賃金
オーストラリア政府は、「アワード」という、産業や職種別にに詳細な労働条件(最低賃金、時間外手当、休暇、手当など)を定め、ほぼすべての労働者がアワードの対象になっている。
アワードは「産業」を大枠とし、その中でさらに「職種」や「役職」に応じて具体的な賃金や労働条件が細かく設定されている。たとえば、「小売業界アワード」は小売業全体に適用されるが、その中で「販売員」「マネージャー」など、職種や役職によって賃金レベルが異なる。これにより、同じ産業内でも、職務内容や責任に応じて公平な賃金が保証される仕組みになっている。
最低賃金の決定方法
[STEP1]
政府は、先ず、アワードの元になる「国民最低賃金」 (National Minimum Wages) を決定する。現行(2025年)の「国民最低賃金」は、時給24.95オーストラリア・ドル(2,345円、1豪ドル=94円換算)[5]。
この「国民最低賃金」は、日本よりかなり高いが、政府が「全国民が社会の一員として生活できる最低限の賃金」と定めたものだ。いわば、セーフティーネットと言える。
[STEP2]
「国民最低賃金」が決定されたら、次に、産業別、職種別の上積み賃金が決定される (アワード賃金)。決定されたアワード賃金が「国民最低賃金」を下回ることはない。
このように、オーストラリアでは、最低限の生活が可能な「国民最低賃金」を先ず定め、さらにアワードで産業別・職種別の上積み賃金を決定している。
同一労働・同一賃金が基本
また、重要なことは、オーストラリアの賃金が、雇用形態、契約形態に関わらず、基本的に同一賃金ということだ。日本と異なり、正社員も、非正規雇用も同一賃金。雇用が不安定なカジュアルワークには、割り増しの賃金が支払われる。このオーストラリア政府の労働者に寄り添った賃金制度により、国民は、家族環境、ライフワークに合わせた働き方ができる。特に若い世帯は、出産や育児でフルタイムからパートタイムへ変更しても、時給は変わらないので、安心して子育てすることが可能だ。
まとめ
現在、日本では非正規雇用やパートに適用される、現行の都道府県別最低賃金(時給)は、正社員の半分以下と低く、深刻な社会格差を産んでいる
オーストラリアは、雇用形態、契約形態に関わらず、同一労働・同一賃金
日本は、欧米やオーストラリアなどを参考に、国が定める最低賃金のあるべき姿についての改革が急務
出典
1. 正社員の年収中央値は?男女別・年齢別・都道府県別にも解説
2. 加盟国最低賃金の正社員賃金中央値に対する割合 (OECD) 英語
3-1. 特定 (産業別) 最低賃金とは?(連合)
3-2. 令和6年度特定最低賃金 (厚生労働省)
4. Fair Work Ombudsman (オーストラリア政府)
5. 最低賃金を7月から3.5%引き上げ (Jetro)
管轄行政府: 厚生労働省、こども家庭庁
