香りマイスター
23歳の時香水店で働いていた。
スタッフは店長、副店長、私の3人。
黒を基調としたシックな店内に
150種類程の香水が置かれている。
まずはその香水達の
ブランド名、名前、香りを
覚えなければならない。
最初はこんなにたくさんの
香りを覚えるなんて無理だ!
と思っていたが
毎日嗅いでいれば
自然と脳が記憶するらしく
私は徐々にそれらの香りを
嗅ぎ分けられる様になった。
そしてここからが私の仕事。
お客さんの求めている香りを
この中から見つけ出さねばならない。
ムエットと呼ばれる紙に
テスターの香水を吹きかけ
お客さんに嗅いでもらう。
「今この香水使ってるんだけど
似た様なのない?」という人には
それと似た様な香りを、
「甘いやつ」とか「爽やかなやつ」等
ざっくりイメージを伝えてくる人には
そのイメージに合った香りを
私がいくつかピックアップして
嗅いでもらう。
いくつか嗅いでいると
途中で鼻がバカになり
香りがわからなくなる。
そんな時にはコーヒー豆を嗅ぐと
あら不思議!
嗅覚が復活する。
お客さんと一緒に香りを探しながら
最後に気にいった香りに辿り着いた時
ジグソーパズルの最後のピースが
ハマった時の様に快感だった。
私はこの仕事が好きだった。
香水は好きなのを付け放題。
黒のパンツスーツのポケットに
ムエットをさしているスタイルも
なんだかカッコいい気がして
気に入っていた。
何よりピースがハマった時の快感が
私がこの仕事を好きな1番の理由だった。
香水の香りは
トップノート→ミドルノート
→ラストノートと3段階に変化する。
最初につけた時と
時間が経った後に残る香りが違うのだ。
最後には甘い香りが残る事が多い。
香水は奥深い。
ある時副店長が辞め
それに続く様に店長も辞めた。
エスカレーター式に
私が店長になる事になった。
人の上に立つ様な器でもなかったし
そんな責任の重い
ポジションにつくなんて気が重かったが
この仕事が好きだったので
引き受ける事にした。
「売り上げをあげよう」とか
「良い店にしよう」などの
向上心など全くなかった。
ただ香水が好きで
この仕事を辞めたくなかっただけだ。
その頃TV出演などもした。(不本意)
夕方の情報番組に私の店が紹介され
私はインタビューに答える
という役割を命じられた。
祖母は私がTVに出たのが嬉しかったのか
名前のテロップと共に
私がTVに映った瞬間を
カメラでパシャリ!と撮影した。
ばあちゃん、ナイスショット!
面白かったのはバイトを雇う際の面接。
私が面接官だ。
バイトの面接を落ちるのが得意技だった
23歳の小娘が選別しているのだから
笑ってしまう。
お前、何様だよ!
採用を決めた子に翌日連絡をしたら
「親の体調が悪く実家に帰る事に
なったので辞退します」との事だった。
見え見えの嘘!!
面接受けに行ったけど
やっぱり嫌になったパターン!
私もそういう時もあったなぁ…などと
しみじみ思ったりした。
至らない店長ではあったが
色んな経験ができたし
色々な人と関わり合えたので
店長をやってみて良かったと思う。
「香り」と「記憶」には
深い繋がりがある。
ふとした時に香る香りを嗅ぐと
昔の記憶が蘇る。
あの時の香水の香りを感じる度
「あ!あの香水だ!」と
私は心の中で訊き香水をする。
※今は香りが苦手になりました(泣)
