どこでも同じ治療が受けられるはずなのに。乳がんの病院選びで患者さんが傷つく理由
はじめに
先日Threadsで、標準治療の質の高さについて発信しました。
日本乳癌学会の認定施設であれば高い水準の治療が受けられるため、無理をして遠くの有名な病院を探し回る必要はないという、患者さんの負担を減らしたい思いからでした。
同業の先生からも『まさにその通りです。変わることはあまりないですね。』と力強い同意をいただきました。
しかし、患者さんやご家族から寄せられた切実なコメントを読み、ハッとさせられました。治療のベースとなるガイドラインは同じでも、患者さんが直面する現実は決して同じではないからです。
標準治療の先にある、見えない差
コメントの中には、検査方法の違いや、術後のフォロー体制の充実度について言及される方がいらっしゃいました。
『家内は5年前に都内の大病院で右全摘、ステージ3b標準治療で、今は元気にやってます。大病院は術後の再発フォローの体制がしっかりしているように思います。』
『色々聞いてると標準治療でも、病院によって検査方法が違うからちゃんと調べたほうがいいと思う。調べるだけではわからないこともたくさんあると思うし』
これらは非常に重要な視点です。同じ手術や薬の選択肢であっても、それに至るまでのプロセスや、治療後の長期的な安心感は、病院の体制によって差が出ます。
また、ご自身の辛い経験から、医師の判断力について深く問いかける声もありました。
『私は近畿で10位内に入る地元で有名で乳がん治療乳腺外科を受診し、部分切除で乳がんを取り除きました!しかしながらその1年後に脳転移。いまや要介護1です。総合病院の医師は、私なら部分切除はしないという見解でした。どこでも同じ質というところに正直疑問しかありませんが、評判のみならず判断力は必要かと思います!』
治療後に別の医師から異なる見解を告げられた時のショックや悔しさは、計り知れません。
どこでも同じ質の治療が受けられるはずという言葉に対して、強い疑問を抱かれるのは、患者さんとして当然の感情です。
標準治療というベースはありつつも、患者さんお一人お一人の状態を見極める医師の判断力こそが問われているのです。

病気を見て、人を見ない現実
さらに胸を締め付けられたのは、医師の心無い言葉や態度によって深く傷ついたという声です。
『標準治療がどこでも受けられるのであれば、患者に寄り添ってくれる先生の元で治療したいです。県内で一番腕がいいと言われてる先生ですが、患者というより乳ガンという病気を見ている気がします。田舎のほうになると先生も限られてしまいます』
『優しくて評判が良い主治医と聞いてセカンドオピニオンしたのに。私だけに暴言を受ける。なぜ?なぜ?と。いつも悩んでしまいます。主治医を見ると、結果と数値で判断しているように思いました。もっと患者の心、癌患者に寄り添うようにして欲しかったです。』
『本当は、いじめがあった病院には入院や治療したくはないです。』
これらの悲痛な声は、現在の医療現場が抱える大きな課題を浮き彫りにしています。
データやエビデンスに基づいた正しい治療を提供することに必死になるあまり、目の前にいる患者さんの心を取り残してしまう医師が存在するのは、残念ながら事実です。
いじめがあったと感じるような病院で治療を受けたくないと思うのは、人として当然の感情です。

あなたにとっての正解とは
『どこでも同じ治療が受けられるのであれば、患者に寄り添ってくれる先生の元で治療したい。』 この言葉に、すべての答えが詰まっていると感じます。
乳がんの治療は、数ヶ月から数年、時には10年以上続く長い道のりです。その長い旅を共にするパートナーとして、心から信頼でき、些細な不安も打ち明けられる医師を選ぶこと。それが、心と体を守るための最も大切な基準なのです。

おわりに
傷ついた経験をシェアしてくださった皆様、本当にありがとうございます。皆様の声は、私を含めた多くの医療者に届くべき、重く、そして尊いメッセージです。乳がんの診療に携わってきた一人の医師として、このような現場のリアルな声にしっかりと耳を傾け続けたいと思います。
今、主治医との関係で苦しい思いをしている方へお伝えしたいことがあります。 それは、転院はもっと気軽にしてよいということです。
標準治療が確立している乳がん治療だからこそ、どこで治療を受けるかよりも、誰と治療を進めるかが本当に大切になります。 相性が合わない、どうしても言葉に傷ついてしまう。そう感じたときは、ご自身の心を守るために、別の病院を探すという心の断捨離の選択肢をどうか持ってください。 逃げることでも、ワガママでもありません。それは、あなた自身の人生と治療を大切にするための、とても前向きな行動です。
紹介状を頼むのが気まずいと感じる方も多いと思いますが、私たち医師は転院の手続きには慣れています。どうぞご自身の安心を最優先になさってくださいね。
皆様の治療の道のりが、少しでも穏やかで、心休まるものになることを心から願っています。

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