まろやかに生きる
方言のやさしさ
福井県丸岡町の企画で、「一筆啓上賞1日本一短い母への手紙」というコンクールが行われた。三十五文字以内で、母への手紙を書く、というものだ。
入選作のなかに、こういうのがあった。
「おかあさんのおならをした後の『どうもあらへん』という言葉が私の今の支えです」
おかあさん おなら 今の 支え
これだけなら意味不明やけど笑
「どうもあらへん」が緩みと和みと深みをくれる
「どうもしてないよ」だと「いやいやいや!」と
ツッコミをいれたくなる。
「どうもあらへん」はツッコミのスキマを
与えない。
どうもあらへんーいい響きだなあと思う。おおらかで、素木な人柄の母親像が、この短い言葉から浮かんでくる。
小さいことにいちいち気をつかってたって、疲れるだけやよ。そんなこと、どうもあらへん、どうもあらへん。
日常のなかで、ふとしたことに行き詰まる。そんなとき、母親の口ぐせのようだった「どうもあらへん」が、作者の耳に聞こえてくるのだろう。そして、おまじないのように口ずさむ。「どうもあらへん、どうもあらへん・・・・・・」
短い言葉から浮かぶ人物像。
方言は、一気に浮かばせられる。
方言は日常。
ふとしたときも、日常。
日常だから、ふだんは気づかないけれど、
「ふと」したときに浮かんでくる。
大阪に生まれ育ったからというのもあるけれど
大阪を感じる瞬間でもあり、
アイデンティティを寄せてくれる。
「あらへん」という方言が、言葉のぬくもりを、いっそう深めている。大阪生まれの大阪育ちである私は、大阪弁の響きには、独特の懐かしさと優しさを感じてしまう。
「ない」という意味の「へん」も、その一つだ。意味は同じでも、「「へん」を使うと、否定の言葉が、それほどきつく感じられないから不思議だ。
「私は行かない」「私は行けへん」「そんなこと、とても言うことはできない」「そんなこと、よう言えへん」「こんなもの食べられないよ」「こんなもん食べられへんわ」
否定の意味を、響きのまろやかさで、そっとくるんで提出するような効果が、「へん」にはある。
「へん」をそこまでそういうふうに
思ったことはないけれど、便利。
俵万智さんの「まろやか」がいい。
仕事で「できまへん」と文字で書けないけど、
「できません」とはっきり言われたら凹む。
「できまへんねん」とまで文字で書けないけど、
そこには愛嬌のようなものがふくまれて、
「しゃあないなあ」となってまう空気さえ作る
なら、標準語ならできないかといえば
そうではなくて、
口頭なら表情や仕草で。
文字や文章なら、
(カジュアルな場面が前提だけど)
できない「の」
できない「のよね」
できない「んです」。
だけでもちがう。
方言ではないけれど、次のような入選作もあった。やはり言葉は意味だけでなく、響きが大切なのだ、と思う。
「弘君のまねして『お母さん』と呼んでみた。やっぱりダメだ。かあちゃんが遠くなる」
言葉は意味と響きからできている。
「ちゃん」の効能。
「遠い」ではなく「遠くなる」としたところに、
悲哀、切なささえあらわれる。
一字が万事。
屋上から見えるもの
先日「オール物」恒例の「新涼大句会」に、ゲストとして参加させていただいた。
「とりあえず短歌を作って、七七を取ればいいんじゃない?」なんておっしゃるかたもいたけれど、そう簡単にはいかないものだ。
短歌は一人称の文学。自分というものをどうコントロールして走ってゆくかが、一つのポイントになる。それをマラソンにたとえるなら、俳句は短距離走だ。瞬発力と集中力、そして一気に駆けぬける勢いみたいなものが、大事なような気がする。つまり、短歌と俳句とでは、使う筋肉がずいぶん違う、という感想を持った。
小説はたとえるならなんだろう。
駅伝かな。
登場人物たちと、筆者である自分とが
長い長いロードのたすきをつなぐ。
エッセイはなんだろう。
散歩かな。
スピードではない感じがする。
火事見むと上る屋上流れ星
これは、当日自分が出した五旬の中では、一番の自作だったのだが、ほとんど点は入らなかった。悔しいなあ。が、それもそのはず。披講のあと、正面に座っておられた江國滋さんが、そっと教えてくださった。
コレ、発想はおもしろいんだけど、火事っていうのは、かなり重要な冬の季語なんですよ」
火事と流れ星。
そこに刹那がある。
風見むと上る屋上流れ星
「かじ」がダメなら「かぜ」ならどうだ、というわけだが、ちょっとロマンチックすぎるような気もする。流れ星というのが、そもそもムードのある語なので、それと響きあいすぎるようだ。
風って見えないのに、というのと。
「ロマンチックが響きあいすぎる」のは
ダメなのかあ、とびっくり。
都庁見むと上る屋上流れ星
屋上から見えるもの、見たいもの、をあれこれ考えて、思いついたのがコレ。こうなると流れ星が、何だか皮肉っぽい言葉に見えてくるから不思議である。
たった2文字で皮肉、にもなるのだからもう
すごい。
船見むと上る屋上流れ星
場所はいっきに港の近くへ。なんとなく物語が感じられるし、空に海が加わって視界に広がりもでる。
時間軸から、空間へ。こらまたすごい。
ただ、いずれにせよ、「火事見むと」が持っていた、ダーッと勢いよく駆け上ってゆく感じというのが、右の三つでは失われてしまう。ダーッと上った屋上に、流れ星があってほしいのだが、どうしても、うまくいかない。
というわけで、いまだに「火事」に代わるものはないかと考えつづけている。どなたか、妙案はないでしょうか?
勢いよく駆け上がるー。
花火? うーん、ありきたりか。
うーん、うまいことできまへん。
君見むと上る屋上流れ星。
もうちょっと考えよ。
今日もお付き合いくださり
ありがとうございます。
きょうよかったこと3つ
・自分から挨拶した
・嫌だなあと思うことがあり
怖い顔をしていた。
うん、決してそれは悪いことではないと
思えた。
・黄色信号は、とまれだ。
