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ノウハウの他者伝達ハードル高すぎ問題──『情報と秩序』読書感想文

書籍データ

要旨と私的理解

ChatGPTで人工知能に興味を持ち、それらの本を読んでいると思うことがある。
「情報」と「意味」は違うものなのだろうか? と。
その疑問に一つの答えを提示してくれるのがこの本。

情報と意味の違い

情報工学の発展に際し、1900年代半ばにはすでにクロード・シャノン、ウォーレン・ウィーバーによって「情報」と「意味」を明確に切り分ける意見が下記のような形で発信されていた。

情報はあくまで(工学的視点でいえば)単純な電線や電磁波をなかを伝わるもの。意味はそこに解釈を加えたメッセージ。

クロード・シャノンはまた、工学的な観点から情報についてこう定義する。
「情報とは、特定のメッセージを一意に指定するのに必要な最小の通信量の尺度である」

著者はDNAを例にとって「情報は普遍的に存在するものであり、観察者に左右されるモノではない」と言っている。

ほとんどのDNA配列の役割はいまだに不明だ。
〜中略〜
DNAの例は、情報が存在することと人間が情報を解読できることはまったく別の話であることも物語っている。

そして、情報に意味づけ(メッセージ化)するのは、人間を含む生物の特徴的な能力なのだと。同時にその生物的特徴が、生物である私たちに「情報」と「意味」を区別させることを難しくさせている。

人間は「情報(メッセージ)」を解釈し、そこに意味を吹き込む能力を持っている。

想像を物理化するためのキーワード「知識とノウハウ」とは

実は、情報を具現化・メッセージ化するのは、人間でなくてもできる。(植物の成長なども一種の情報の具現化といえる)
では人間とほかの種の違いは何か?。
その一つの答えは「人間はみずからの想像したものを物理的な形にできること」。その物理化のキーになるなのが、知識やノウハウ。

現代社会の秩序を説明するための一例として、社会的・職業的ネットワークを形成するプロセスが挙げられる。このようなネットワークには社会規模で情報を処理する知識やノウハウの蓄積の能力が必要になる。
ノウハウは単なる知識とは異なり、行動を可能にする暗黙の計算能力を指す。これは個人と集団の両方のレベルで蓄積していく。
〜中略〜
ひとりの人間や人々のネットワークが具現化できる知識やノウハウの量には限度がある。この有限性ゆえに、知識やノウハウを蓄積して伝達するのは難しくなる。

知識とノウハウの結晶化

知識・ノウハウは通常は個が所有するものだ。
それを外部化するための一つの方法が、製品化。

(製品化は)口述では不可能な形で人間の能力を増強させる。
〜中略〜
知識、ノウハウ、想像の実用的用途を言葉で説明するのではなく、歯磨き剤として具現化するからこそ、ほかの人はその実用的用途を手に入れられる。

製品化をはじめとした情報の結晶化には、3つのメリットがある。

  • 均質化:本物の天才などいない社会を作り出す

  • 伝達:知識の実用的用途を他の人々と共有できる

  • 発展:製品のもたらす増強効果によって、人々は新しい表現形態を自由に探し、新しい能力を手に入れる

知識・ノウハウ自体の共有・伝達

結晶化のように知識・ノウハウの導き出した結果ではなく、「知識・ノウハウ自体」を共有・伝達するのはかなり難しい。

そもそも、知識・ノウハウを外部化しなければいけない理由は何かというと、特定の個(企業)、ネットワークには知識・ノウハウを蓄積する上限が存在し、収まり切らない知識はネットワーク間で分配する必要があるから。
つまり、複雑な意味を持たせたい情報であればあるほど、そのネットワークの量と相互の伝達の質を上げていく必要がある。

それを前提として、なぜその伝達の難易度が高いかというと、著者の挙げている理由は主に2つ。

  • 知識やノウハウは個の経験・社会的学習によるものだから

情報はモノ、本、ウェブページなど、製品という形で容易に移動できるが、知識やノウハウは人々の肉体やネットワークの中に閉じ込められている。
〜中略〜
ある人の神経系のなかにある知識を得るのが易しくないのは、学習が経験的でしかも社会的なものだからだ。

  • 知識やノウハウの伝達には、「情報の細分化(量子化)」が必要であり、ミクロ化された状態で他者に情報が移った際に、元の状態へ再構成する必要があるから

個人がノウハウを蓄積するだけでも難しいが、ノウハウを細分化するとなると、問題は一層複雑になる。
〜中略〜
いったん細分化した知識やノウハウを再構成できるような構造へと、個人どうしを結びつけるという問題が生まれるからだ。

ネットワークが大きければ大きいほどノウハウを容れるキャパが大きくなるかというと必ずしもそうではなく、「公共団体の例が示すように、外部とのやりとりが、膨大な数の役人、事務作業、承認手続きを必要とする長い行政プロセスによって妨げられてしまうこともある」というような、ネットワークの関係コストが課題として上がる場合も多い。

ネットワーク自体は巨大なのに、たいした知識もノウハウも生み出したり蓄えたりできなくなるのである。

感想

「情報と意味の違いは何か」の疑問がこの本を読むきっかけでしたが、そこから展開した知識・ノウハウの共有・伝達のテーマでは、仕事に還元できる示唆が得られたと思います。
本書は「情報の誕生から成長まで」広いテーマで情報というものを扱っていましたが、私にとって響いた部分を中心に今回まとめました。

私自身が専門職を相手にすることが多い仕事柄、「その人固有のスペシャリストとしてのノウハウ(スター性のある人材スキル)」と「そのノウハウの他者への波及(社内育成)」には頭を悩ませる機会が多いのですが、人間の計算能力を持って情報を意味化したノウハウを細分化することは比較的容易であることや(実際にはそれもなかなか具現化するのは難しいのだけど)、それを再び結びつけて再びノウハウへ再構築する難易度の高さが身にしみてわかります……。
↑このあたりが物理学におけるマクロ・ミクロ間の不可逆性そのもので面白いなとも思ったり。

現実的には、前者の具現化をこつこつ達成しながら、おそらく解答は出ないであろう永遠の課題である再構成のアプローチを少しでも考えられると良いなと思っています。

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