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生者が語れないものを代弁する死者──『少年が来る』読書感想文

書籍データ

K-POP好きの友人と話していて「絶対好きだと思う、この人の本は読むべき!」とおすすめされたハンガンさん。しばらく忘れていたのですが、ふと思い出して図書館に蔵書があったので予約したのが、この『少年が来る』です。

作者がどのような人なのか、どのような話なのか、前知識なしに読み始めたのですが……

おすすめされた理由がすぐにわかりました。
多分その時「山崎豊子さんが好きだ」という会話をしたからだということも。

感想

※どうしても感想に絡めたい箇所があり、ちょっぴりネタバレありです。すみません。


本書は1980年に韓国の全羅南道で起こった光州事件をテーマにしています。
市民デモへの韓国軍の発砲により、この世を去った少年、チョンデ。
事件が起こって以降、終始行方不明になったままの姉、チョンミ。
最終的に軍の制圧対象となった道庁に立て篭もった主格メンバー、軍の鎮圧作戦直前になんとか逃れた女性たち。そして、その道庁に自らの意思で残ったこの物語の主要人物━━もう一人の少年、トンホ。

生き残ったもの、この世を去った者、難を逃れたもの、残された家族。それぞれの心に深くこびりついて、後の時代にも長らく深く影を落とすその"事件"に複数の市民の目線から迫る社会派小説でした。

「1人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない」
ナチスの官僚であったアイヒマンが語ったとされる言葉ですが、数字として片付けられ、そればかりか隠されて流されて忘れ去られようとしている多数死の中の一点に焦点を当てることで、そっと葬られようとしている事実にスポットライトを当てる──そのような意味を含んだ小説なのかなと感じました。

本来国民を守るために存在する国軍が、同胞に銃を向けたこと。
公式発表の裏に葬られ隠された不都合な事実。
加担した(と思しき)ものに容赦無く与えられる社会的な制裁。

韓国人として目を背けたいであろう事実に、登場人物たちの一人称での語りを中心にぐいぐいと迫っていく展開。
感情をぎゅうぎゅうに押し殺しているのか、もはやすべてを放り投げたくなるほどの残酷な事実に対する諦念や無気力なのか、描写が非常に淡々としており、それが余計に現実の非情さを浮き彫りにしているような感覚を受けました。

事件までは、ありふれた普通の生活を送っていた満14歳のチョンデとトンホ。
ふざけ合いながら遊び、学校に通い、家族の目を盗んで働き……多少生活の苦労はあっても周囲となんら変わらない年齢相応の生活を送っていただけなのに、たまたまその土地に住んでいただけなのに。その日を境に一気に非日常に巻き込まれて社会の流れにその生を翻弄された少年たち。

関係者への聞き取りなど緻密な取材を元に構成されており、全体的にはリアリティを追求した書き方がされている本書の中で、デモへの無差別発砲の流れ弾で命を落として軍に郊外へ運び出されて非公式に葬られたチョンデの「亡骸」が語る章段は異色さを放っています。

現実世界には絶対に聞こえない声。
彼の声は、犠牲者たちの真実にほど近い本音をそっと代弁し、教えてくれるようです。

公式の発表や記録に残らない死、そんな死を無差別に容赦なく与えたものに対する行き場のない憤り、突然生を奪われた悲しみ。全体にそこはかとなくまとわりつくように匂う韓国人の思想、死生観。
そんなものがギュッと凝縮されていて、「死者の独白」という形で小説という舞台にぴたりとハマっているスパイス的な部分。

巧みな作者の筆に誘われて、ぐいぐい引き込まれて一気読みしてしまいました。
たくさんの思惑が錯綜し、たくさんのものが失われたその日を垣間見ることができましたが、テーマがテーマだけに本当に……苦しかった。。。


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