デザインがもたらすもの──『サービスデザインの教科書』読書感想文
書籍データ
内容はまさにタイトル通り。
産業の成長の歴史という背景込みでサービスデザインという分野の成り立った経緯、デザインの意味拡張、スタンダードなケーススタディ、今後の展望などが書かれています。
実践的ではなく、文字通り”教科書”。その分、アカデミックで俯瞰した視点の情報が得られます。私のような、そもそも「サービスデザインとは何か」を知りたい人にはぴったり。
サービスデザインそのものについては、「サービスデザインとは」と検索すればたくさん情報が出てくると思うので、この記事では、この本を読んで私の考えが少ーーーし整理できた下記の2点について主に書きたいと思います。
デザインという言葉の示す範囲広すぎな件
デザインがこの世の中に求められる理由
(本当に求められているのかという点も含め)
デザインという言葉の示す範囲広すぎな件
デザインという行為が社会へ寄与する範囲が広がっていることはわかるのですが「ビジネス文脈でのデザインって今どういう意味を持つ言葉なんだっけ?」って改めて自分に問うた時、ちゃんと答えられないなあって思うんです。
今の、ビジネスにおける、デザインという言葉の定義って、なんでしょう?
デザインが広義化する前提──サービスの変容
他のさまざまな言葉同様、時代を追って変化している言葉の一つ「サービス」。
(経済学では)人間の欲求を満たし、効用をもたらすものを財と呼ぶ。財には、有形のものと無形のものがあり、特にその違いを区別して後者はサービスと呼ばれている。
経済が発展しモノが世の中に行き渡るにつれて。また、ITの台頭を背景に、既存のサービスに取って代わる破壊的なイノベーションが登場するにつれてユーザーのサービスへの期待は大きく変化し、それに伴ってビジネスにおけるサービスの捉え方もまた変化をせざるを得なくなったと著者は述べます。
「企業が価値を生み、それを消費者に与える」という従来のモデルではなく、「消費者が財を使用することによって生み出される価値」の方に焦点を当てるという考え方にシフトチェンジを余儀なくされていると。
「サービス」は価値の(一方的な)提供から価値の(人や組織や環境や道具の相互の関係による)共創へと、その示すところを変化させている。
「デザイン」とは何か
「デザイン」もまた、時代を追って変化している言葉です。
少し前までの一般的な認知といえば、デザインとはすなわち外見を美しく整える「意匠」のことが主だったと思います。
では、今はどうか。
リチャード・ブキャナンの「デザインが成果を挙げている4つの領域」が、現在のデザインの多様性を良く示しているとして本書で挙げられています。
シンボルのデザイン:グラフィックからコミュニケーションのデザインへ
モノのデザイン:プロダクトデザインはエンジニアリングやマーケティングと共に企業における製品開発において重要な役割を担う
行為のデザイン:初期のインターフェースを介した機械と人間のインタラクションデザインから、体験のデザインへ進化
システムのデザイン:情報やモノと、人間の諸活動における行為が組み合わさった社会的システム(組織や制度、ビジネス、政策)の構築に寄与するデザイン
これらの4領域は独立したものではなく、「状況に応じて最適なアプローチを変化させながら、デザインが「社会をより良くするため」に担う範囲は拡張し続けており、その活躍機会は広がっている」と著者は述べます。
ブキャナンの説明は、時代に合わせてデザインの意味が拡張していることを私にわかりやすく示してくれました。全部をまとめるのはちょっと乱暴だけど、私の現時点の「デザイン」という言葉の理解はこうかな↓↓
情報を、人間が(そこそこ普遍的に)認知できる形に具現化して、意味を率先して与えること。
デザインがこの世の中で重用される理由
人の「めんどくさい」を引き受ける
ひとまず”厄介な問題”と検索してみてください。10項目あるのですが、「うわ、ほんとにイヤ」ってなることが間違いない内容です。
本書ではデザインの扱う問題解決の本質的特性を示すものとして、下記の「デザイン・アブダクション」という推論の形式が挙げられています。
???(対象が不明)+???(動作原理が未確定) → 期待する結果
期待する結果をもたらす対象と、そこに適応する行動原理の二つを並行して導き出すことが必要な状況。デザイナーたちは自らのデザインスキルによってそのような厄介な問題にいつも立ち向かっているらしいです。
厄介な問題を解決するそのスキル──専門家の脳内に秘められたノウハウを、比較的誰もが使えるようにフレーム化したのが「デザイン思考」なのだと私は捉えています。
デザインが今の社会に成す役割と、その後
今の社会に対し、デザインができることは何か。
デザイン思考のプロセスを用いて、ユーザー中心のアイディエーションと試行錯誤を行う。
”サービスデザインの6原則”を意識しながら事業やビジネスをまるごと問題解決に向かえるようにする。
社会の変化や価値観の変化による、ビジネスのセオリーの崩壊。既存の事業の危機。そんな世の中にあってもなお成長を求められる企業にとって、「変わらなきゃ」は共通した課題。
問題が複雑に絡み合っていて、正解を判じにくいこの時代にフィットした、最適解を求めるための技術があるらしい。それって「デザイン」っていうらしい。
それが今、社会がデザインを求める理由なのかなと思いました。
問題解決方法として今の時代に非常に親和性が高いからなのだと。
(Apple Inc.のようなわかりやすい例がありますし)
しかし、プロセスの各段階で利用されるフレームワークはあくまでツールでしかないので、プロセスを教育するというよりは、いわゆるマインドセットの変革の方に重きを置いた方が「サービスデザイン」の効果はより発揮されそうだなとも思いました。
本書内でコ・デザインという考え方が取り上げられていましたが、
一人一人が自分で考え、他者と連携し、意見をすり合わせ、協調しながら、変化に応じた最適を探っていく。アプローチやツールはおそらくその"デザイン的”マインドセットがあれば自ずと見出されていくものなのかなと。
で、その旗振り役としてデザイナーが求められているということなのではないでしょうか。
逆に「デザイン」「デザイナー」という呼称を利用しているから混乱するのかもしれません。
今の社会に求められているのは、「新たな視点や切り口を提供して人や組織にマインドセット変革を促す者」──要するに「組織に問題解決する能力を授ける者」なのではないかと思います。
