人間って、何?──『不思議な少年』マンガ感想文
本を読むのも好きですが、マンガを読むのも大好きな私。最近はあまり読んでないですが、中高生の頃は相当読んでいました。
山下和美さんは『天才柳沢教授の生活』に出会ってはまった、大好きな作家さんの一人なのですが、中でも特に好きなのは『不思議な少年』です。
珍しく全巻"紙の本"で揃えてしまうほど、大好きです。
人間とは隔絶した世界線にある存在「不思議な少年」と、さまざま時代のさまざまな国のさまざまな立場に生きる人間との交流を描いたストーリー。
倫理観や物事への価値観において人間と異なった考え方を持つ少年の目線が、より一層他の登場人物たちの人間らしさを引き立たせてくれる仕掛け。そしてそれを表現する作者の力がすばらしなと思う作品です。
書籍データ
私の好きな話
このシリーズの話は余すところなく全部良いのですが、特に印象に残っている話を3話ピックアップします。
ネタバレはしないように書いている……つもりです。
第6話「タマラとドミトリ」
[私的あらすじ]
他者と隔絶した北の森に住む絶滅寸前のララ族に嫁いだ14歳のタマラ。その花婿は一族"最も若い"36歳のドミトリ。
人気のない広大な森林を渡り飛行機で荷を運ぶララ族の飛行士を精神的に支える「森の灯台守」としての役割を果たすため・その後継を途絶えさせないために、自分の意思とは関係なく妻合されたタマラは、行動が粗雑で無口なドミトリを毛嫌いし「早くここを出たい」と常に願う。
結婚して10年、「君が本当に願うなら」この森から出してあげようと告げた不思議な少年とタマラは森を出ようとするが……
人が人を愛するということは、どういうことだろう。燃え上がるではない静かに燻り続けるような愛情。時間の経過と共に、確かに失われるものと確かに積み重なるもの。
年老いたタマラは自分の人生を振り返り、最後にこう言う。
「それで十分」
第9話「リチャード・ウィルソン卿とグラハム・ベッカー」
[私的あらすじ]
南極点を目指す途中、部下と犬、帰国するための船も失った英国貴族で冒険家のリチャード。絶体絶命の彼を救ったのは、浮浪者の息子として育った密航者グラハムだった。
実はリチャードとグラハムの間には、幼い日の出来事に由来する深い因縁があった。朧げながらもその記憶を思い出し、加害者である自分に復讐するのではないかとグラハムの行動を警戒するリチャード。
しかしグラハムは時折見せる"卑しげ"な行動に反し、一貫してリチャードの生命の危機を救い、親身な行動をとった。命をかけた旅路の中で芽生える二人の堅い絆。
長い極地放浪を経て帰国船を見つけた時に、二人のとった行動とは?
この物語がくれる感情は不思議な少年の下記のモノローグに尽きる。
人間の心の奥底の想いは……
こんなにも……
長い……長い時を経て
静かに
深く……深く……
しかし、ときに光を放ちながら生き続けるものなのか
不思議な少年は常に傍観者だ。傍観者だからこそ、その視点を通じて当事者の深く深い情念が静かに色濃く描き出される。
第14話「フランツ・カウフマン博士」
[私的あらすじ]
齢90歳を数える民俗学研究者カウフマン博士は、今もなお世界各地の民族伝承に登場する「不思議な少年」に心を惹かれ、研究の対象として数々の文献に当たっている。
彼はその実、ある種の人々が不思議な少年に"触れた痕跡"を手にしており、少年の実在を信じている。そしてその存在が明るみに出ないのは、記憶操作によるものだというところまで密かに推論するまでになっていた。
「どうしても会いたい」その思いを日々募らせる博士の元に、不意に不思議な少年が訪れる。
少年に会ってしまったら、自分はどうなるのか?
不安を抱きながらも博士は好奇心を抑えられず、その出会いを迎え入れ……
強い想いを達成することの喜び。それは何にも勝る。
ああなんて幸せなのだと、最後のコマの博士の表情が語っている。
自分のお気に入りの話をこうやってあらためて並べてみると、私は「自分がより満ち足りた状態でこの世を去ること」を目指して生きているのではないかということに気づきました笑
おわりに
共感できることできないこと、すべて含めて、この作品は「人間として生きるとはどういうことか」を問いかけ、あらゆる方向の感情を揺さぶってきます。
今回読み返して、またまた随所で泣いてしまいました。
この記事のはじめに「不思議な少年は人間とは隔絶した世界線にある存在」と書きましたが、山下さんの描く不思議な少年はどこか人間以上に人間味を感じさせる(人間に対する好奇心の強さ? 時折強く表出する感情のありさま?)ところがまた格別に良いのです。
マーク・トウェイン作(一部編集者追記)の同名の小説に登場する不思議な少年は、もっと人間味がないというかもう少しいっちゃってる感があって、それはそれでそんな感覚を持つ人物の描写ができるのはすごいなあと思いましたけど。
不思議な少年は呟きます。
「人間って、なんなんだ」
だよねー。。。
