ツナグミライー想いを明日へー 【another story】
【ペットボトルキャップ SIDE-A】
[篠原 瑛太(しのはら えいた) 18歳 男]
キャップ袋の中にボトルキャップが一つ足りないことに気づいたのは、全くの偶然だった。
僕のキャップ袋に唯一入っていたサンガリアのボトルキャップ。
今日たまたま買ったお茶のペットボトルが、同じくサンガリアのものだった。
元々持っていたボトルキャップとは色が違ったので、触り心地や回転のかかり具合などの違いを確認しようと、袋の中にあるはずのボトルキャップを探したが、見つけられなかった。
キャップ投げの練習をしている時に落としたのだろうか?
ペットボトルキャップを使って野球に似たルールで遊ぶ『キャップ投げ』は、僕の大学ではわりとポピュラーな遊びだ。
ボトルキャップがあれば練習できるし、数人集まれば手軽に遊べるため、授業の合間に大学の芝生広場で楽しむ姿も多く見かける。
僕はというと、キャップ投げサークルに所属しており、近々開かれる大会に向けて日々練習に励んでいる身だ。
変化球に磨きをかけようと少し時間があるとどこでも練習しているので、どこかのタイミングで無くしてしまったのだろう。
キャップ投げ選手たるもの、ボトルキャップの扱いには細心の注意を払わなければならないのに、無くしてしまうとは、一生の不覚だ。
探そうにも心当たりの場所がありすぎて、とうてい見つけられる気がしない。
先輩から聞いた話だが、ボトルキャップは、しっかり回収すればリサイクルされ、プラスチック資源へと生まれ変わるらしい。
その上、そのプラスチック資源の販売から生まれる収益を、途上国の子どもたちのワクチン支援に充てるという活動も行われているということだった。
そう考えると、ボトルキャップひとつといえども、おいそれとは捨てられないという思いに駆られる。
そもそもボトルキャップに限った話ではないが、便利だからと言ってどんどん作ってどんどん消費して、その上いらなくなったらポイ捨てして地球環境を汚して、そんなことでいいわけがないではないか。
僕のサンガリアのボトルキャップ、どこに落としたんだろう・・・・・・。
見つからないだろうな、と思いつつ、心当たりのある場所を探してみることにした。
公園、大学の芝生広場、大学構内の人通りのない廊下など、あちこち回ったが結局サンガリアのボトルキャップを見つけることはできなかった。
その代わりといったら何だけど、回った場所や通った道で、別のボトルキャップをいくつも拾った。
それが故意によるものかどうかは分からないが、どうやら誰かがそこに落として行ったもののようだった。
他にも路上にはたくさんのゴミが落ちていたので、ボトルキャップとは別でビニール袋を用意し、そういうゴミも拾いながら歩いた。
今まで全く気づかなかったが、意識してみると路上にはあちらこちらにたくさんのゴミが落ちていた。
帰ってきて拾ったボトルキャップを数えたら、何と十三個もあった。
いくら大学界隈でキャップ投げが流行っているとはいえ、落ちすぎではないだろうか?
その他のゴミの方は、持っていた袋がいっぱいになって途中で拾うのを諦めてしまった。
残りはまた今度拾おうと思う。
僕は中途半端は嫌いなのだ。
拾ったボトルキャップは、きれいに洗ってから回収ボックスに持っていこう。
わずか十三個のボトルキャップだけど、これが集まることで救われる命があると思うと、決して無駄にはできない。
そうだ、学内にボトルキャップの回収ボックスをもっとたくさん設置したらどうだろう?
あれだけキャップ投げが流行っているのだから、使われているボトルキャップもたくさんあるはずだ。
回収場所を増やせばポイ捨てされるボトルキャップは減るかもしれない。
ボトルキャップがワクチン支援につながるってことを知らない人もいっぱいいるだろうから、その事も回収ボックスに書いておいてみようかな。
大学事務に確認して、オッケーがもらえたら僕があちこちに設置して管理しよう。
何だか、ワクワクしてきた。
誰かのために何かをするのは、自分の気持ちも良くしてくれる気がする。
そう考えると、誰かのためにする行動って、自分のためでもあるんだなと思った。
これまで生きてきた経験から、それが押し付けや独りよがりになることがあることも、一応僕は知っているつもりだ。
そうならないように気をつけながら、これからもっとたくさん、誰かのためになる行動をしていきたいと思った。
『ワクワクが未来を作る』
どこかで聞いたそんなフレーズが頭に浮かんだ。
うん、今の自分にはぴったりだ。
このワクワクを大切にして、ここから僕の未来を作っていこう。
【ペットボトルキャップ SIDE-B】
[水野 モモ(みずの もも) 18歳 女]
ある日気づいたら、学内のあちらこちらにボトルキャップ回収ボックスが設置されていた。
前までは大学事務室の前の自販機の脇に、申し訳程度に一つ設置してあるだけだったのに。
新たに設置された回収ボックスにはポップが貼られており、そこには、集めたボトルキャップがどのように活用されるのかということがわかりやすく丁寧に書いてあった。
そこに入れることでしっかりリサイクルされ、資源に生まれ変わるだけでなく、なんと途上国のワクチン支援にも繋がるようだ。
思わず読みたくなるようなデザイン性とメッセージ性の高さがあり、よほどセンスのある人間が描いたのではないかと推測できる。
既存のボトルキャップ回収ボックスに比べて明らかにボトルキャップの集まりが早いように感じるのは、それだけたくさんの人々の心に訴えるものがあるということだろうか。
曲がりなりにも芸術学部でデザインの勉強をしている私としては、どこの誰が作ったのかがとても気になるところだった。
気になりだしたらその思いが止められなくなり、思い立ったら吉日ということで、早速大学の事務室に話を聞きに行った。
私は、小さい頃から行動力の高さには定評があるのだ。
事務のお姉さんの答えは意外なものだった。
お姉さん曰く、ボックスを設置したのは大学側ではなく、ある一人の学生であり、管理も全てその学生が行なっているということだった。
つまり、あのポップは大学事務の誰かが書いたわけではなく、その学生が書いたということらしい。
私はその学生の名前と学部を聞き出した。
どうやら私と同じ一年生で、人文学部に所属している男子学生ということだった。
それが分かっただけではまだ足りない。
なにしろ、その人物は人文学部の学生なのに、芸術学部顔負けのデザイン力を持っているということになるのだから。
今度は実際に会ってどんな人物だか見てみたくなった。
私は、その人物がいるであろう人文学部棟に向かった。
人文学部棟に来てはみたものの、他に知っているのは名前と一年生の男子ということくらいのものだ。
私は、その辺にいる誰かに名前を出して聞いてみようと思い、人気のない廊下を歩き出した。
いつ来てみても人文学部棟の廊下は長いな、などと思いながら前方を見ると、はるか先に例の回収ボックスらしきものが見えた。
そしてそこには一人の男子学生の姿も。
もしやと思い、私はそこまで全力疾走した。
こういう時、陸上をやっていて良かったなと思う。
私の足が遅かったら、移動中に彼はどこかに行ってしまっていたかもしれないのだから。
彼の元に着いて急ブレーキをかけてから、そのままの勢いで彼に尋ねる。
「このボックスを設置したのって、あなた?」
「そう・・・・・・ですけど、何か?」
その彼はギョッとして後退りしながら答えた。
いきなり遠くから廊下を全力ダッシュしてきたかと思うと、乱れた呼吸もそのままに声をかけてくる女子学生がいたら、私でも同じ反応をするだろう。
「あ、私、モモ。
芸術学部一年の水野モモ。
このポップがあまりに可愛くてわかりやすかったから、書いた人はどんな人だろうと思って探してたの」
「あ・・・・・・そう・・・・・・なんですか。
そしたら僕ですね、それは」
彼の目からはまだ警戒の色が消えていない。
「私ね、そのポップ見て感動したの。
デザイン性もさることながら、内容がとってもいいなって。
なんか、そのリサイクル事業と繋がりがあってこういうことやってるの?」
「いえ、そういうわけではないんです。実は・・・・・・」
そこで彼は、キャップ投げサークルに入っているということ、ある日キャップを落として無くしてしまったこと、そのキャップを探しあちこち回ったが見つからなかったことなどを話してくれた。
その時に、別でたくさんのキャップやゴミを拾うこととなり、それで地球環境のために自分にできる事を少しずつでもやってみようと思ったのが始まりという事だった。
彼の話を聞いた私は、幼い頃の、無知ゆえの過ちを思い出した。
ペットボトルのキャップを小さな船に見立てて川に流して、その様子を見て大喜びしていたある夏の日。
あのキャップは結局そのまま私の手の届かないところまで流れて行ってしまった。
あの後どうなってしまったのだろう?
海まで流れ着いて今でも広い大海原を漂っているだろうか?
どこかで誰かの手によって拾われていて、海に流れて行ってしまっていないといいな、と思った。
苦い思い出を再び胸に押し込める。
気を取り直して、デザインの巧みさについても尋ねてみたが、それはもう、小さい頃に親から教わったという事以外には特に理由はないようだった。
え?要はセンスって事?
何それ、納得いかない。
納得いかないけど、多分彼は嘘を言っていない。
ポップの秘密は解明された。
しかし彼の返答により、私にはもう一つ解明したい問題ができてしまった。
そう、彼のことだ。
思い立ったら吉日。
明日やろうはバカやろうだ。
「あの、私もそれ、一緒にやってもいい?」
彼はきょとんとしながら「それって、これ?」と回収ボックスを指差しながら言った。
「そう、それ。
私にも手伝わせて」
私は彼に詰め寄る。
彼のそばで共に行動しながら、彼と言う人間について解明していこうという魂胆だ。
「あ、うん、まあ、いいけど・・・・・・」
「やった!そしたら、これからよろしくね!
何からすればいい?これ集めるの?」
彼はそんな私に、気まずそうに言った。
「あ、うん、今説明するけど・・・・・・とりあえず鏡見ておいでよ。
髪の毛、ボサボサだよ」
「え・・・・・・マジ?」
私は、すぐ目の前に見えていたトイレに駆け込んだ。
私は鏡を見てヤマンバのようにボサボサの髪を整えながら、何か楽しいことが始まりそうな予感に胸を躍らせていた。
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私、この時はまだ知らなかったのよね。
彼が後々私にとって大切なパートナーになる事を。
もちろんそうなるまでには、まだまだたくさんの紆余曲折があるわけなんだけど、それについてはまたいずれ別の機会にね。
え?パートナーってどういう意味なのかって?
それは聞くだけ野暮ってもんでしょ。
あなたのご想像にお任せするわ。
最後に一つだけ言わせて。
一度きりの人生、面白おかしく幸せに生きたいなら、これだけは肝に銘じておきなさい。
やりたいと思ったことはすぐやる。
何でもかんでも後回しにしてると、何もしないうちにお爺さんお婆さんになっちゃうからね。
いい、忘れないでよ。
合言葉はいつだって『明日やろうはバカやろう』だからね!
