ドラマティック・バレエへのいざない
バレエと聞いて、思い浮かぶ演目は何ですか?
やっぱり王道の「白鳥の湖」、それともクリスマスシーズンにぴったりな「くるみ割り人形」、それともディズニー映画でも有名な「眠れる森の美女」?これらは3大バレエとして有名で、1800年代後半にロシアでチャイコフスキーと振付家のプティパの奇跡的相性によって制作されました。
今回ご紹介したいのは、それより後の1900年代後半に制作された、演劇性の強いバレエ=ドラマティック・バレエの作品です。形式がカチっとしている古典作品と比べて、物語の流れとダンスが自然に絡み合う構成となっており、人間の生身の感情が観るものの心にダイレクトに響きます。また、おとぎ話がベースの古典作品と比べて、史実や文学作品がベースになっていることが多い点もポイントです。
ドイツと歴史が好きな友人Aにちなんでおすすめを3作品ピックアップしました!ちょっと見てみたいかも…って思っていただけると幸いです。
(ロミジュリとかマノンもいいぞ~今度観に行こ!)
幻想~「白鳥の湖」のように~ バイエルンの狂王
オネーギン 乙女の初恋をもてあそぶクソ男(同情の余地あり?)
マイヤリング(うたかたの恋) 出会いが導く破滅の恋
幻想~「白鳥の湖」のように~
”チャイコフスキーの世界的に有名な音楽をそのまま使い、プティパによる白鳥の踊りも一部をそのまま取り込みつつ、19世紀ドイツの「バイエルン王」、政治をそっちのけにして芸術に入れ込んだことから「狂王」とも呼ばれたルートヴィヒ2世を主人公の「王子」として設定し、新解釈を施している”
原題:Illusions like "SWAN LAKE"
振付:ジョン・ノイマイヤー (ハンブルク・バレエ団)
初演:1976年

ノイシュバンシュタイン城に行ったことありますか?そう、ディズニーのシンデレラ城のモデルになったドイツのお城です。この城を立てたのがバイエルンのルートヴィヒ2世で、1幕はその城の棟上げから始まります。
何よりも面白いポイントは、原典であるプティパ版『白鳥の湖』とあらすじは違えど幕構成・曲がほとんど同じことです。例えばこんな感じ↓
■1幕
プティパ版→王子の誕生日、みんなで楽しく祝う(基本屋外のことが多い)
ノイマイヤー版→ノイシュバンシュタイン城の棟上げ、庶民も交じってどんちゃん騒ぎ
■2幕
プティパ版→湖の畔で白鳥に出会い、恋に落ちる
ノイマイヤー版→バレエ『白鳥の湖』2幕の鑑賞中、ルートヴィヒは現実との区別がつかなくなり、舞台に入り込んで劇中の王子ととってかわってしまう
■3幕
プティパ版→夜の舞踏会、婚約者を決めなければならないが、突然現れた黒鳥を湖で出会った白鳥と勘違いし、愛を誓ってしまう
ノイマイヤー版→仮面舞踏会で、婚約者(多分)がルートヴィヒの気を引こうと、バレエ『白鳥の湖』に出てくる白鳥に扮して踊る。ルートヴィヒも最初は設定に入り込んで楽しく踊っていたが、気づいてしまう
■4幕
…(割愛)
そのため、もともとのスタンダードな『白鳥の湖』を知っている人は、もとのストーリーとルートヴィヒの人生とをうまく重ね合わせた構成に唸ること間違いなし!ぜひどちらも鑑賞してみてください。
もう一つこの作品の特徴は、悪魔ロットバルトの代わりに、影”shadow”の役柄が存在することです。書いている私も理解しきっているわけではありませんが、ルートヴィヒの影としてちらり、ちらりと舞台上に登場してはパッといなくなる。ロットバルトとは違いルートヴィヒの中に存在するだけに逃げられず、最後は捕まってしまいます。普段あまりない男同士の踊りは迫力がすごい。
バイエルンの狂王ルートヴィヒ2世の人生を描いた、巨匠ジョン・ノイマイヤーの”白鳥の湖”、ぜひご覧ください!(探すとYoutubeに全幕版があります、、)
オネーギン
”1820年代のロシア。素朴な人々が暮らす田舎と華やかな帝都ペテルブルクを舞台に、ロシアの理想の女性と称えられる誠実なタチヤーナと憂鬱の貴公子オネーギンの悲劇的な恋の行方がチャイコフスキーの同名オペラとは別の叙情豊かな音楽にのせて描かれます……
田舎の地主の娘タチヤーナは、帝都育ちの洗練された青年オネーギンに憧れ、恋文をしたためる。いっぽう若くして人生に飽いたオネーギンは一途なタチヤーナの愛を疎んじ、友人レンスキーをつまらぬ諍いから決闘で殺して失意のうちに去る。
数年後、将軍の妻となったタチヤーナとオネーギンが再会。オネーギンはタチヤーナの気高い美しさに心を打たれ、熱烈に求愛。しかし胸に恋心を残しながらも人妻としての矜持を失わないタチヤーナは、これを拒絶する”
原題:Onegin
振付:ジョン・クランコ (シュツットガルト・バレエ団)
初演:1965年

プーシキン原作の”オネーギン”、主人公はバレエ界一二を争うクズ男です(当社比)。タチヤナのラブレターを目の前で破りすて、仲のいいカップルだったタチヤナの妹オリガとレンスキーの間を邪魔しては最終的に破滅させ、2幕では立派な貴婦人になったタチヤナに言い寄り…。ただ、プーシキン原作のオネーギンはその時代の「余計者」として描かれており、時代の流れとしてしょうがないところがあったのやも、と考えられます(バレエ版は展開がおいしくなるように手が加えられているともいえる)
この作品の白眉は何といっても1幕ラストの鏡のパ・ド・ドゥと、3幕ラストの手紙のパ・ド・ドゥです。
鏡のパ・ド・ドゥは、タチヤナがオネーギンに恋をした日の夜、寝室でラブレター執筆中にうとうとしていると、鏡の中からオネーギンが!!もちろんタチヤナの夢なのですが、夢の中のオネーギンはとても素敵なジェントルマンで、タチヤナの心は舞い上がります。初恋の人の理想像を夢の中で組み立てその像にほれ込む様子は、見ている側も初恋が思い出されてむずがゆくなるほどです。それくらいこの場面のオネーギンは超イケメンで、白馬に乗った王子さまっぷりが輝きます。
対して3幕の手紙のパ・ド・ドゥは、貴婦人となったタチヤナとオネーギンが再開したのち、オネーギンがタチヤナに言い寄る場面です。タチヤナが必至でオネーギンを拒否しようとして、でも昔好きだった人のこと忘れられなくて悩みもがく姿が、複雑なパの連続を通して胸に迫ります。オネーギンを完全に拒絶したのち一人で後悔するところで終幕、客席の明かりがついた後はやや呆然としてしまい現実に戻ることが難しいです。
オネーギンの世を倦んだ姿の表現も素晴らしいですが、タチヤナの少女から貴婦人への成長、最後の拒絶しつつ後悔するアンビバレントな心のうちなどタチヤナにも焦点が合った作品なのかなと思います(さらにはタチヤナが主人公になったバレエ作品もある)
3幕構成のそこまで長くない作品で、農奴の踊りとか楽しいシーンもあり、気軽にサクッと見れます、中身は結構ドロドロですが。バレエ初心者にぴったり!是非観てください(こちらも探せばYoutubeに全幕あります、、)
マイヤリング(うたかたの恋)
”1889年1月に発生したオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフと男爵令嬢マリー・ヴェッツェラの心中事件(マイヤーリンク事件)を題材にとり、19世紀末の宮廷社会の中で抑圧されたルドルフの不幸な境遇とその人物像、及び死に至るまでの退廃的な生活を描き出している”
原題:Mayerling
振付:ケネス・マクミラン(ロイヤル・バレエ団)
初演:1978年

あらすじはまあまあ複雑なので、上記リンクよりWikiをご覧ください。かの有名なエリーザベト皇后の息子、皇太子ルドルフ。その苦悩の日々を描きます。
何といってもルドルフがいろんな女性と超絶技巧のパ・ド・ドゥを踊るところが最大の見せ場です。
1幕ではステファニー皇太子妃とのシーンですが、ひたすら激しく新婚らしいところは全くありません。ステファニー皇太子妃の戸惑い、ともすれば恐怖を感じます。この作品はレイティングがR12以上かと思われます……中学生、せめて高校生以上じゃないと理解が難しいし、傷つけることになるかもしれないのでお気を付けください。
2幕では男爵令嬢マリーとのシーンは、若くてフレッシュなマリーがそのフレッシュさのまま死に突っ走っていき、ルドルフを誘惑します。二人して骸骨、拳銃に魅入られる様はこちらも引きずり込まれそうです。
3幕の最後ではいよいよマリーと心中を遂げます。
パ・ド・ドゥ以外にも、1幕には”昔の愛人”のラリッシュ伯爵夫人との怪しげなダンス、運命の人マリーとの初対面シーンが、2幕では娼館での高級娼婦ミッツィ・カスパールとの絡みなど、ルドルフのそれぞれ異なるアプローチ方法が興味深いです。
そして母である皇后エリーザベトとうまく意思疎通できない様子も表現され、ここまで放蕩な生活を繰り返す原因が見え隠れします。
ルドルフの皇太子の身分に近寄る怪しい男性陣もあり、オーストリア=ハンガリー帝国の重みに押しつぶされる様子はこちらも胸が痛くなるほどです。バレエでは珍しい男性がメインの超大作で、3幕ありますが見始めるとあっという間、ぜひ!ご覧ください。刺激が強い作品のためくれぐれもご注意を(これも探せばYoutubeに全幕ある、、)
ここまでお読みになった皆さんは気づいていらっしゃるかもしれませんが、ドラマティック・バレエはハッピーエンドというよりビターエンド、バッドエンドの作品が多くなっております。ですがこれもドラマティック・バレエの醍醐味(?)現実とは全く違う世界にどっぷりつかり、その世界の登場人物になって心揺さぶられる体験は何にも代えがたいです。
また、ドラマティック・バレエでは以上3作品のように男性主人公のものも多いです。普段女性のサポートが多い男性ダンサーの演技力が爆発します。マイヤリングでルドルフを演じたロイヤル・バレエ団の平野亮一さんのインタビュー記事では、演技アプローチ方法など詳しく教えてくださっています。
気が付くとかなり長いエントリになっていましたが、最後まで読んでくださった皆さんありがとうございました。
あなたの人生の選択肢に、ぜひ”ドラマティック・バレエ”を!
p.s. 次はマクミラン3作品のうち、残りのマノン、ロミジュリを書こうかなと思います。これらもそれぞれ素晴らしいドラマティック・バレエ!!
