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おすそ分けのカムイ

ある日のことや。

キムン(山)の主、大きなキムンカムイ(ヒグマ)が、ペッ(川)で立派なサケを捕まえたんよ。

「よっしゃ、これをご馳走にして、今日は一人で贅沢するでぇ」

キムンカムイ(ヒグマ)は、捕まえたサケを大事そうに抱えて、お気に入りの岩場へ向かったんやな。

そこへ、ひょっこり現れたんが、チロンヌㇷ゚(キタキツネ)や。

イランカラㇷ゚テ(こんにちわ)、キムンカムイ(ヒグマ)。えらい景気がええなぁ! そのサケ、めっちゃ脂乗ってて美味そうやん」

キムンカムイ(ヒグマ)は、サケを隠すようにして鼻を鳴らした。

チロンヌㇷ゚(キタキツネ)か。これはワシが苦労して捕ったんや。
お前には一口もやらんぞ」

そしたら、チロンヌㇷ゚(キタキツネ)はニヤリと笑うてな。

「いやいや、食べたいなんて一言も言うてへんやん。ただな……そのサケ、そのまま食べたらもったいないなーと思って」

「……なんやて? どういうことや」

食いしん坊のキムンカムイ(ヒグマ)は、
つい聞き返してしもたんや。

「この先にある『黄金の泉』でサケを洗ってみ?
そしたら味が十倍
……いや、百倍は美味なるって噂やで。
まぁ、ワシは場所知ってるけど、教えんでもええわなぁ」

そう言うて、チロンヌㇷ゚(キタキツネ)はスタスタ歩き出した。
キムンカムイ(ヒグマ)は慌てて追いかけたわな。

「待て待て! ほんまか? 案内せえ、チロンヌㇷ゚(キタキツネ)!」

二匹は森の中をどんどん進んでいったんや。

でもな、
歩いても歩いても、そんな泉は見当たらへん。

キムンカムイ(ヒグマ)はだんだん疲れてきて、
お腹もグーグー鳴り出した。

「おい、チロンヌㇷ゚(キタキツネ)……まだか。
ワシ、もうしんどいわ」

「あ、ごめん! 場所間違えたわ。あっちの崖の上やったかなぁ」

しっぽを振りながらトボトボ歩くチロンヌㇷ゚(キタキツネ)を見て、
キムンカムイ(ヒグマ)はふと思ったんや。

(こいつ、ワシよりだいぶ体が小さいのに、一生懸命案内してくれとるなぁ……)

キムンカムイ(ヒグマ)は立ち止まって、
抱えてたサケをドサッと地面に置いた。

「……もうええわ。泉なんて探さんでも。
チロンヌㇷ゚(キタキツネ)、お前も腹減ってるやろ」

「え? でも黄金の泉が……」

「そんなん、どうでもええねん! 誰かと一緒に食べた方が、きっと百倍美味いに決まってるわ。
ほら、半分こや。食べよ!」

キムンカムイ(ヒグマ)は、サケをえいっと二つに割って、半分をチロンヌㇷ゚(キタキツネ)に差し出した。
チロンヌㇷ゚(キタキツネ)は目を丸くして、
それから「イヤイライケレ(ありがとう)……」って、照れくさそうに笑うたんや。

二匹で並んで食べたサケは、冷たい風の中で、
ほんまに、ほんまに美味しかった。

キムンカムイ(ヒグマ)、実はな……黄金の泉なんて、ワシの作り話やってん」

「知っとるわ、ボケ! お前のしっぽが嘘つく時にピコピコ動いとったからな」

二匹は大笑いして、お腹いっぱいになって、
そのまま星空の下で寝っ転がった。

空には、カムイ(神)たちが住む美しい天の川がキラキラ流れとったんよ。

「一人で食うより、胸がいっぱいやわ」

キムンカムイ(ヒグマ)は、幸せそうに鼻提灯を膨らませて寝息を立て始めた。
チロンヌㇷ゚(キタキツネ)も、その大きな毛皮に寄り添って、スヤスヤ眠りについたんやな。

山には静かな夜が訪れて。
(クンネチュㇷ゚)が、二匹を優しく照らしとったってさ。





物語に込めたアイヌ語。

  • キムンカムイ (Kimun-kamuy)
    「山の・神」という意味。ヒグマは山で最も力強い存在なので、敬意を込めてこう呼ばれます。

  • チロンヌㇷ゚ (Cironnup)
    キツネのこと。言葉の意味は「我々がたくさん殺すもの」ですが、皮や肉を恵んでくれる身近な存在として親しまれてきました。

  • ペッ (Pet)
    川のこと。北海道の「〜別(べつ)」という地名(登別、紋別など)の由来にもなっています。

  • イヤイライケレ (Iyairaykere)
    「ありがとう」。感謝を伝える大切な言葉として登場させました。

  • クンネチュㇷ゚ (Kunne-cup)
    「黒い(暗い)・太陽」、つまり「月」のことです。アイヌ文化では太陽と月を対のものとして捉えています。



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