イランカラㇷ゚テ、月を追いかけたウサギ
私はな、耳が長いウサギや。
北の大地、ピリカ・モシリ(美しい大地)の野原で、毎日ぴょんぴょん跳ねとったんよ。
ある晩のことや。
空を見上げたら、お月さんがめっちゃ綺麗に輝いとってな。
「あのお月さんのカムイ(神様)に会いに行きたいわぁ」
そう思ったら、もう足が止まらへんくなってしもたんよ。
「イヤイライケレ(ありがとう)、お月さん。今から行くよってにな」
私は一心不乱に走り出したんや。

コタン(村)を通り抜け、大きなペッ(川)を越え、キムン(山)の奥深くまで。
でもな、走っても走っても、お月さんは遠いままや。
気づいたら、見たこともない真っ暗な森の中で迷子になってしもた。
周りは静まりかえって、風の音しか聞こえへん。
「……あら、どうしましょ。帰り道もわからへんわ」
不安で耳がしおれそうになった、その時や。
森の奥から、低い声が聞こえてきたん。
「アプンノ・オカ・ヤン(無事でいなさい)、ポン(小さな)ウサギよ」
見上げたら、そこには大きなシマフクロウが止まっとった。
コタン・コロ・カムイ(村を守る神様)や。
その大きな目は、暗闇の中でも優しく光っとった。

「カムイ(村を守る神様)、私はお月さんに会いたいんです。
でも、迷うてしもて……」
そしたら、カムイ(村を守る神様)は大きな羽を静かに広げて、
こう言うたんや。
「ポン(小さな)ウサギよ、足元を見てごらん」
言われた通りにそっと下を見てみたらな、
そこには小さな水たまりがあって、
その中に、金色の綺麗なお月さんが、ゆらゆらと笑っとったんよ。
「……ほんまや。ここにおったんやねぇ」
私は、その水たまりの水を一口飲んでみた。
冷たくて、ほんまに美味しかった。

その瞬間、私の心の中にも、ポッと温かい光が灯ったような気がしたんよ。
「スイ・ウヌカラ・アン・ロー(また会いましょう)、カムイ(村を守る神様)」
私はカムイ(村を守る神様)にお礼を言うて、また走り出した。
もう、がむしゃらに追いかけるのはやめたんや。
一歩、一歩、地面の感触を楽しみながら。
草の匂いや、土の温かさを感じながら。
そしたらな、不思議なことに、
いつのまにか自分のコタン(村)が見えてきたんよ。
いつもの寝床に着いた時、私はふぅっと息をついた。
「あぁ、楽しかった。今日はええ夢が見れそうやわ」
次の日から、私はまた野原を跳ねとる。
お月さんは、相変わらず空の上で光っとる。
でもな、私はもう焦らへん。
だって、私がぴょんと跳ねるたびに、
心の中のお月さんも、一緒にぴょんと跳ねてくれるから。
私は今も、このピリカ・モシリ(美しい大地)を走っとる。
目的地なんて、どこでもええ。
ただ、今、この瞬間がめっちゃ幸せなんよ。

物語に込めたアイヌ語
イランカラㇷ゚テ:あなたの心にそっと触れさせてください(挨拶)。
ピリカ・モシリ:美しい大地。
カムイ:神様、あるいは人間以上の力を持つ存在。
イヤイライケレ:ありがとう。
ペッ / キムン:川 / 山。
コタン・コロ・カムイ:村を守る神(シマフクロウ)。
スイ・ウヌカラ・アン・ロー:またお会いしましょう。
