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ポロ・ニ(大木)の贈り物


イランカラㇷ゚テ(こんにちは)。
ウチは、この森のポン・ペレ(小さなカエル)や。

どこへ行くにも、森の真ん中にどっしりと立つポロ・ニ(大木)カムイの足元が、ウチのいちばん好きな場所や。

「ハパパ、ハパパ……」

レラ(風)が吹くたびに、ポロ・ニの葉っぱが優しく歌う。
その音を聞きながらモンラ(眠り)に落ちるのが、ウチは大好きやったんや。

ところがあるタント(朝)のことや。
カント(空)が暗くなって、レラがうなり声をあげた。
アプ(雨)の粒が葉を叩く音が、どんどん激しくなっていって……。



「ミシッ、ミシッ……ズシーン!」


ものすごい音がして、大好きなポロ・ニカムイが、地面に横たわってしもたんよ。ウチは震えながら、泣き出した。


カムイ、どないしたん? もう立たへんの? ウチたちを守ってくれへんの?」


そしたらな、地面に近いところから、懐かしい、温かいイタク(声)が聞こえてきたんや。

「泣かんでもええよ、ポン・ペレ。ワシはな、どこにも行かへん。ただ、新しいカパラ(衣)に着替えることにしたんや」

「……カパラを、着替える?」

「せや。今までみたいにカント(空)に向かって立っとるのもええけどな、これからは寝っ転がって、みんなのケマ(足)元を温めてあげようと思たんや。ワシの体はな、これから時間をかけて、柔らかいコケの布団になるんやで」

見ると、倒れた幹の周りには、もう新しいコケが「シトシト」と芽吹いとった。

アムチッケ(虫)たちはワシの体の中に温かいお家を作る。ワシがゆっくりとモシリ(大地)に溶けていったら、そこは栄養たっぷりのお山になる。そしたらな、そこからまた、新しい木の赤ちゃんたちが、ありがとう、イヤイライケレって言いながら芽を出してくるんや」

「ワシはな、自分を森のみんなに『おすそ分け』することにしたんや。形は変わるけど、ワシのラマッ(魂)は、ずっとここにあるんよ」

しばらく、ウチは黙って倒れた幹を見つめとった。

アプ(雨)の粒が葉の端からぽとりと落ちる音だけが、静かに聞こえとった。それから、ゆっくりと言葉が出てきた。

「……ほんまやね。カムイは、いなくなったんやない。森全体の命になって、もっと大きく広がったんやね」

ウチは泣くのをやめて、新しくできたコケの布団の上で、ぴょんと跳ねた。ケマ(足)の裏から、ポロ・ニのカムイの鼓動が伝わってくる。
それだけで、もう十分やった。

これから何年もかけて、この場所はもっと豊かな「命のゆりかご」になっていく。それをずっと見守っていこう。

ポロ・ニカムイ、素敵なお土産をありがとう。今日もこの森は、ピリカ(美しい)な命で溢れとるよ。



物語に込めたアイヌ語。

ポロ・ニ (Poro-ni):「大きな・木」という意味。アイヌ文化では、長年その土地を見守ってきた大木には、村の守護神に近いほどの強力なカムイが宿ると考え、深い敬意を払ってきました。

ポン・ペレ (Pon-pere):「小さな・カエル」。カエルは春の訪れを知らせる存在であり、時には神の使いとして物語に登場します。今回は、循環する命を見守る「小さきもの」の代表として登場させました。

カント (Kanto):「空・天」のこと。関東地方の「カント」とは無関係ですが、アイヌの世界観では、地上(モシリ)に対して、神々が住む場所を「カント」と呼び、常に仰ぎ見る聖なる場所とされています。

カパラ (Kapara):「薄い衣」や「皮」を指します。アイヌの物語(神謡)では、神様が人間の世界へ来るとき、動物や植物の姿という「衣(カパラ)」を纏って現れると語られます。木が倒れて土に還ることを「衣を着替える」と表現したのは、この思想に基づいています。

ラマッ (Ramat)「魂・霊」。肉体(カパラ)は滅びても、このラマッは不滅であり、カムイの世界と人間の世界を巡り続けると考えられています。「死」という言葉を使わずに命を描くための、最も大切なキーワードです。

アムチッケ (Amucikke)「虫」のこと。小さな虫一匹一匹にもカムイが宿っていると考えます。大きな木が倒れることで、無数の小さな「アムチッケ」に新しい家が与えられる様子は、森の「贈与の循環」を象徴しています。

モシリ (Mosir)「大地・静かなる場所・世界」。私たちが住むこの世界を「アイヌ・モシリ(人間の住む静かな大地)」と呼びます。大木が土に溶けていくことは、文字通り「モシリ」と一体になることを意味します。



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