シナリオ 「名付け旅〜ネーミングロードムービー」
名前とは世界で一番短いラブレターである。
○太朗のマンション・リビング
太朗「名前これにしよう」
太朗、紙に書いた名前を桜子に見せる。
櫻子「・・いやだ!」
太朗「えっ?」
○葬式場・中
太朗の父、真男の遺影と名前を見ている、太朗と次朗と三朗。
太朗「孫が生まれるっていうのに」
次朗「真男ってほんとあの人にぴったりな名前だな。酒タバコギャンブル。
まさに男」
三朗「真の男だね。シン・オトコ」
太朗「なんか映画できそう」
次朗「そういえば兄貴、子供の名前決めた?」
太朗「うん?まだ」
三人、沈黙する。
次朗と三朗「名前だけはちゃんとしなよ!」
太朗「やっぱり?」
次朗「あの男、テキトーに俺たちの名前決めやがって」
三朗「あの男とか言わないの。さっきまで真の男って言ってたじゃん」
太朗「いや、ちゃんと考えてるんぞ」
太朗、第一候補を二人に告げる。
次朗「ダメでしょ」
三朗「よくないね。何か肩に力入ってるよ」
太朗「寿限無状態?どうすればいいんだろう」
太朗の母、あやこが後ろから、
あやこ「じゃあ、おばあちゃんの家に行ったら?アドバイスもらってきたら
いいじゃん」
太朗「うん?」
あやこ「父ちゃんもそうしたんだから、あんたもそうすれば?」
太朗「この名前でアドバイスもらったのか?」
あやこ「父ちゃんは太朗にも次朗にも三朗にもこだわっとったみたいだよ」
太朗「え?」
あやこ「絶対これにするって。太朗のろうも朗らかって文字にしないとダメ
だって」
太朗「何でこの朗なんだとは思ってたけど」
あやこ「朗らかに生きろ的な」
三兄弟「うーん」
三朗「ばあちゃん今日来てないのかー」
あやこ「あとね、電話してきたとき、父ちゃん、なんか手合わせとったらし
いよ」
太朗「(驚きながら)父ちゃんが?」
次朗「名前に手合わせるってどういうこと?」
三朗「何か願い込めてたのかな?」
太朗、沈黙。
太朗「俺、ばあちゃんの家に行くよ!お前らも来い!」
次朗と三朗「え?」
太朗「俺たちの名前の意味がわかるかもしれないぞ。アドバイスもらってち
ゃんとした名前つけてやりたい」
○ばあちゃんの家・リビング
服を作っている、太朗の祖母、ミツキの前に、3人が座っている。
太朗と二朗と三朗「はぁ(深いため息)」
ミツキ「あんたたち疲れすぎじゃないかい?何してきたの?」
太朗「いや、色々」
三朗「自分探しの旅」
次朗「いや、命名するための旅」
○占い師の館・中
占い師の西川と太朗が向かい合って座っている。次朗と三朗は後ろに
立つ。
占い師「うん。最悪ですね」
太朗「最悪?最悪とかあるんだ」
占い師「下の名前だけでも、最悪な画数だね」
太朗「・・・」
三朗「てかさ兄ちゃんの名前占って貰えば?」
太朗「え、何で?」
三朗「占ってもらってさ、これでいい結果だったらさ、父ちゃんは画数で決
めた可能性出てくるでしょ」
次朗「あー確かにな」
太朗「なるほど・・。じゃあいいですか?」
占い師「いいですよ」
占い師、急に目を見開き、紙とペンと水がはいった壺を机に出し準備
する。
占い師「それでは名前を教えてください」
太朗「東太朗です」
占い師「あずまは吾妻橋のあずまですか?」
太朗「いや、東西南北の東です」
占い師、名前を紙に書く。
占い師「はいはい、見ていきますね」
占い師、水の入れ物に左手を入れ、右手を名前にかざして占いを始め
る。
三朗「なんか雰囲気あるねー」
次朗「静かに」
占い師「・・・よくないですね。私の占いでは21画よくないですね」
太朗「あー、そうですか・・」
占い師「まあ、名前はね画数のよしあしではなく、どのような思いが込めら
れたているかが大事ですから。どう生きるかですよ」
三朗「うわー、めっちゃフォローされてる」
次朗「画数よくない人に対する常套句なんだ」
太朗「思い・・?」
占い師、名前と占いの結果を書いた紙を太朗に渡す。
占い師「詳しい結果が書いてありますから」
太朗、結果も読まず、すぐに折りたたみ、ポケットに入れる。
太朗、立ち上がる。
太朗「ありがとうございました、おい次、名付け師のとこ行くぞ」
次朗「はい?名付け師?」
三朗「士業の方?国家資格?」
○名付け師の館・中
壁一面に紙に書かれた名前が並ぶ。
白衣を着た男が立っている。
太朗「あのー、名付け師の方ですか?」
名付け師「いかにも、名付け師の大河内学だ」
三朗「おー、おおこうちがく!」
次朗「いやいや、いかにもって言ってますけど、名付け師って何すか?」
名付け師「名前をつける師だ。これまであらゆるものに名前をつけてきた」
三朗「まじですか?」
太朗、壁に貼ってある「子の理論」という文字を指差す。
太朗「あの、子の理論ってなんですか?」
名付け師「ふん、子の理論とはな、子って字がつく名前多いだろ、特に女性
に」
太朗「確かに、自分の奥さんも子つきますね」
名付け師「あれには実は深い意味があるんだ」
次朗「なんとかな子に育って欲しい的な」
名付け師「それもあるが、この子という文字はな、一と終了の了を組み合わ
せたものなんだ。つまり、初めから終わりまでという意味が込められとる
んだよ」
太朗「なるほど、奥さん櫻子って言うんですけど、桜のような美しい人生を
ってこと」
名付け師「そういうことになるな」
三朗「なんか、子って古くてちょっとなって思ってたけどさ、めっちゃいい
名前だね」
太朗「名付け師やってきて、名前つけるときのルールとかってあるんです
か?」
名付け師「自由だよ。キラキラネームでもなんでもいい。ただな、ルールの
ない自由は虚しすぎる。自由だがルールは必要だ」
太朗「何なんですかルール?」
名付け師「名前をつけるものに対して思いを込めるということだな。名前を
つけることで愛着がわく。名づけるという行為はそういう意味もあるんだ
よ」
太朗「あの、大河内さんのお子さん?名前とかめっちゃ気になるんですけ
ど」
三朗「たしかに。名付け師の子供」
名付け師「息子が二人だ。長男は青と書いて、じょうだ」
三朗「大河内青。かっこいい」
次朗「あれ、名前の意味が気になってきた」
太朗「なんか理由あります?」
名付け師「長男は辞書をテキトーに開いて指差して決めたんだ。群青色が当
たってな」
三人「えー雑!」
三朗「名付け師ー!なんかショック」
太朗「なんでそんなつけ方したんですすか?」
名付け師「いやな。私が思いを込める名前にはパワーが宿る。それに頼って
欲しくなかったんだ。だから自然に任せて決めたんだ」
次朗「うわー、なるほど」
三朗「名付け師の性」
太朗「じゃあ下の子の名前もそうですか?」
名付け師「いや、下の子には思いを込めた」
三朗「え、え?気になるよ」
名付け師「大河内たつだ」
次朗「お、かっこいい」
太朗「漢字はどっちですか?難しい龍かな?」
名付け師「いや、立だ。スタンドアップの立」
三人「え!?」
名付け師「いやー、上の子の青が赤ちゃんの時なかなか立たなくてな、心配
で」
次朗「あっ、そういうこと?」
名付け師「立はすぐ立ったぞー」
三朗「恐るべしだな、名付け師のパワー」
名付け師「あ、そうだ、君たちにちょっとお願いがあるんだが」
太朗「何ですか?」
名付け師「三人目の名前を決めて欲しんだ」
三朗「え、三人目?すごいですね」
名付け師「男の子なんだがな、もう今回は人につけてもらおうと思ってな」
太朗「いいんですか?」
次朗「あ、いいこと思いついた。これさ1回太朗って当ててみようぜ。反応
見よう」
太朗「お前なんか楽しんでないか?」
三朗「そうしよう。大河内学の見解を聞こう」
太朗「わかった。あのー、名前いいですか?」
名付け師「もう決まったのか?聞かせてくれ」
太朗「あのー、太朗とかどうでしょう?」
名付け師「・・・ダメだ!」
太朗「ダメ!?」
次朗「あら、これはひどいな」
太朗「ダメってひどくないですか?」
名付け師「いや、太朗は私の本名なんだ」
三人「え!?」
名付け師「学に改名したんだ!」
三人「え!?」
名付け師「理由はな・・」
太朗「いや、理由はいいです!」
三朗「でもこれ運命だね」
次朗、太朗の肩に手をやり、
次朗「これは、名前つけてもらったら?」
太朗「・・お願いしようかな」
名付け師「いやいや、君の顔を見てれば分かる。良い名前を決めようと悩ん
でいる、考えるとは愛するということだ」
太朗「はい・・」
○大きい鳥居・前
三人、大きな鳥居を見上げている。
次朗「次は神頼みか?」
太朗「いいんだ、名名宮だぞ、パワーあるだろ?行くぞ」
石段を歩くと、また鳥居が見えてくる。
看板「賽之目神社」
三朗「あれ、ここ名名宮じゃないじゃん」
三人、賽之目神社の境内に入る。
太朗「ここじゃないのかな?」
三朗、詳細が書かれた札を見にいく。
札:ここには3つの神社が建立されている。賽之目神社、川之水神
社、名名宮の3つ。その昔、ある男がこの世で自分の思い通りになら
ないもの、賽の目、川の水、名前を、思い通りにするために、これら
の神様を祀ったのが起源である。ここは賽之目神社。
三朗「ここ名名宮じゃない!」
太朗「え、まじ?」
三朗「ここ賽の目神社」
次朗、神社の職員に話を聞きに行く。
次朗「名名宮、下にあるって」
賽之目神社までの石段。左右に分かれており、名名宮と川之水神社が
ある。
○名名宮・鳥居の前
名名宮の鳥居は小さな感じ。
鳥居の前で、並んでいる三人。
三朗「ここなの・・・?」
次朗「なんか、こぢんまりとしてんな」
太朗「言うな」
三朗「ご利益あるのかな」
次朗「これ人来んのか」
太朗「言うな」
3人、振り返り、カップルを発見する
太朗「あれ参拝客じゃない」
三朗「来たよ」
次朗「来たぜ」
三人、鳥居をくぐり、奥に入ると、たくさんの絵馬が奉納されいる。
絵馬には名前と願いが書かれている。
次朗「こんなにここに人来てんだー」
三朗「すごい、いろんな名前と願いがあるよ」
次朗「なるほど!ほんとこんなにもみんな名前に願い込めてんだなーって思
うわ」
三朗「あれ?今、太朗って名前あった」
次朗「嘘!?」
太朗「マジか!?」
三朗、絵馬を漁るように見る。
三朗「あれ?どっかいった!」
次朗「おい、探せ!」
三朗「くそ!」
神主の声「おい!何やってんだ!」
神主の声の方を振り返る三人。
三朗「やばい!」
三朗、さらに探すが見つからない。
神主の声「こらー!」
三朗「くそ!ない!」
太朗「おい、もう諦めろ!いくぞ!」
次朗「三朗!」
三人、走り出し逃げる。石段をかけ降りる。川之水神社の方に逃げ
る。
次朗「いや、びびった!」
太朗「危ないとこだったな・・」
三朗「はい、これ」
太朗「え、太朗の絵馬持ってきたの?」
三朗「うん」
太朗「なんて書いてあんだ?」
次朗「願い?」
太朗「三朗・・?」
三朗「・・日本男児って書いてある」
次朗「はっ?」
太朗「どういうこと?」
三朗「ごめん。フォローできないよ」
太朗「もう、俺返してくるわ」
太朗、名名宮まで戻り、絵馬を返すと、先ほどのカップルがやってく
る。
太朗「あっ」
手を合わせてお祈りをするカップル。
男性「男の子だったら、光にします。光り輝く人生になりますように」
女性「女の子でも、光にします。光り輝く人生になりますように」
次朗と三朗も太朗の元にやってくる。
三朗「なんかいいねー」
次朗「素敵な名前だな」
太朗は真剣な表情を浮かべ、押し黙る。
○ばあちゃんの家・リビング
ミツキ「大変な旅だったね」
太朗「父ちゃんってなんで俺たちの名前これにしたのかな?なんか聞いてな
い?」
ミツキ「うーんもう名前は決めてるみたいだったけど。ここで何かに手合わ
せてたけど」
次朗「それ俺たちの名前じゃない?この旅で名前には願いが込められてるっ
て学んだからさ、父ちゃんもきっとそうしたんだぜ」
太朗「まじか?」
一同、沈黙する。
太朗「ばあちゃん、他に父ちゃんとなんか話さなかった?」
ミツキ「うーん」
○ばあちゃんの家のリビング・27年前
ミツキ、黒色の服を作っている。
派手なアロハシャツを着ている真男は、競馬新聞を見てくつろいでい
る。
ミツキ「何であんた急にここに来たの?」
真男「神社!子供のこととかついでに」
ミツキ「あんた、またそんな派手な服ばっか着てんの?」
真男「好きなんだよこれが。でもまた母ちゃんそんな地味な服作って。黒は
地味だよ」
ミツキ「昔、有名なデザイナーが言ったんだよ。黒い服はカラフルなパーソ
ナリティを持つ人にしか着こなせないって」
真男「どういうこと?」
ミツキ「そんな派手な服着てるってことは自分に自信がないのかなー。まあ
このデザイナーは自分に自信がない人に素敵な服で勇気づけたいって意味
で言ったみたいだけど」
真男「・・シンプルな服でも、自分が輝いてれば、その服も派手に見えるっ
てことか」
真男、うなずきながら笑う。
新聞に何かを書きこみ、手を合わせる。
○同・同・現在
三朗「あ!その話って名前と一緒じゃない!?キラキラネームみたいに派手
じゃなくても、その人が輝いていれば、シンプルな名前もキラキラネーム
になる的な?」
次朗「たしかに」
太朗「だから父ちゃんは、俺たちの名前をこんなシンプルにした」
太朗、突然立ち上がる。
太朗「ばあちゃん、いろいろありがと。次朗、
三朗、帰るぞ」
次郎「もういいの?」
三朗「いいんじゃん」
三人、帰ろうとする。
太朗「あ、そうだ、ばぁちゃんの名前のアドバイスも一応聞きたいな」
ミツキ「もうアドバイスいらないでしょ。太朗がここまで来て、いろんなと
こ回って、たくさん考えたなら大丈夫。考えるっていうことは愛するとい
うこと」
太朗「ありがとう、ばぁちゃん」
○同・外
三人、歩いていると、太朗のポケットから紙が落ちる。三朗、その紙
を拾う。
三朗「これ占いの結果じゃん。なんだこれ?」
太朗「どうした?」
三朗「これ見てよ。これ字間違えてんじゃん」
次朗「え?ほんとだ!太朗の朗が郎になってるわ。じゃあこの占い意味ねー
じゃん」
太朗「まじかよ!?太朗の朗はおおざとじゃなくて月なんだよ!」
三朗「じゃあ、画数良いかもしれないじゃん」
太朗「あいつ!いいに決まってるだろ。俺たちの名前にはツキがあるんだか
らな」
三人、肩を組んで歩き、笑う。
太朗のN「この旅で父ちゃんの気持ちが少し分かった気がする。太朗、次
朗、三朗、名前は平凡でシンプルでも、お前たちが輝けばそんなのは関係
ない。俺たちの名前には、人生に輝きあれ的な願いが込められているのか
もしれない。俺も父ちゃんの思いのバトンを受け継いで、名前をつけるこ
とになりそうだ」
気持ちのいい風が吹き抜ける。
○ばあちゃんの家・リビング・27年前
真男が見ていた新聞が風に吹かれて、めくれ上がる。新聞の競馬欄が
見える。
競馬欄、馬の名前タロージローサブロに○がぐるぐるつけてある。横
に「俺にはツキがある!」と書かれている。
○太朗のマンション・リビング
太朗、紙に書いた名前を櫻子に見せる。
櫻子、表情が変わる。
