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短編小説「エモーショナル怪人 エモ山」(37) バカAIはバカなのかほんとうにバカかどこがバカなのか

ここまでのエモ山。

「バカAI…」
俺はつぶやいた。

「ええ、バカAI」
沼田がうなずいてこたえた。

ていうか俺は思ったんだけど、
バカってさ、
いろいろあるよね。

いろいろいるよね。

ていうか俺は思ったんだけど、
バカってさ、
俺はまあなんとなく、思うのだがバカとは、
その人そのものを指す言葉ではない。
バカとは「機能」だと俺は思う。

自分をバカじゃないと思ってるやつはたいていバカだし、
バカだと思い込みすぎるのもバカだし、
他人をバカ呼ばわりするバカというものもいるし、
「バカなんて言ってことばが悪い!」って怒るのも話聞けよバカってなるし、
でも、無知のすべてがバカとは言えない。

俺は「ルパン三世」のゴエモンが持っていた、「斬鉄剣」を思い出す。
斬鉄剣はなんでも斬れる刀なんだけど唯一、こんにゃくだけは斬れない。

つまり斬鉄剣はバカじゃないってこと。
斬れないものがあるってことがバカじゃない証拠。
斬らないものがあるってことがバカじゃない証拠。
バカっていうのは自分がなんでも斬れると思っているなまくら刀のこと。

じゃないのかなー。

なーんて俺は思ったので、
さっそく沼田ミソギから、その「バカAI」をかりうけ、この機能をアパートで使ってみることにした。

コンビニで買った肉じゃがを食べ終えた俺の胸は高鳴っていた。
バカを味わいたいという、残酷な欲望にたぎっていた。
下半身も熱い。

バカとはふるさと。
遠くにありて思うもの。
俺はふるさとに向け吠えるオオカミ。
俺の遠吠えはきっとO井町に響き渡り気の小さいやつをビクッとさせ
「今の何?」
ってさせただろう。

「まだベータ版だから」
と、スマホをしぱしぱやりながら、沼田は言った。
利害関係調査委員会ゴミ収集所で。
「ちょっと使ってみて。感想が欲しいの」
沼田は言い俺に自分のスマホを出させた。

「『バカAI』というのは、」
沼田は言った。
「バカをするAIよ」
「はあ」
「あらゆるバカをする」
「あらゆる」
「逆走アルゴリズム。確率の、低いほう、低いほうへと進んでゆく」

そして沼田は、俺の差し出したスマホに目を向けてこう言うのも忘れなかった。
「やだわ」
沼田は小首を傾げた。
「あなたのスマホ、きったない。指紋だらけじゃないの」
俺たちは、だはははははと笑った。

意味無く笑う俺たちを、あまね君は、黙って見ていた。
ダウンロードが済むまでの数秒間、俺が見たその顔に浮かんでいた表情は、
やけに冷ややかだった。

そしてあまね君は、そんな俺からの視線を、気づいていながらも無視していた。
沼田から「バカAI」をダウンロードする自分はもう、もしかするとあまね君の視界には、金輪際入らないかもしれないと俺は思った。

俺はサピックス時代の、天才少年同士だった俺とあまね君の間にあった、なにかをちょっと壊したような気がしなくもなかった。
俺はもしかするとあまね君のロンリネスをこれまで以上に強くしたかもしれなかった。

それはもしかすると非情なことかもしれなかった。
とりかえしのつかないことをしたかもしれなかった。

しかし。

そう思ったときにはもう俺のドライブには「バカAI」が入ってしまっていた。
バカという機能が入ってしまった。
俺はバカを装備し、
「バカAI」というバカを消費する。
「バカAI」のやつ、どんなバカをしでかすであろうか。

バカという機能。
AIも機能。
AIというバカ。
バカというAI。

バン…ノウ……。

「なんでもできるぜひっひっひ」
エゴ山が、肩をひくつかせ笑ったような気がしたけど実際に笑ったのは俺。

俺は「バカAI」を自宅PCへと投じ、エゴ山に告げた。
「この『バカAI』を用い、最強のエモツイートを、量産したまえ」
「がってんしょうちのすけ」
エゴ山はキーボードに手を置いた。

しぱしぱしぱしぱ。

エゴ山の手が動く。
ツイートがうまれる。

俺はまあ関係ないって顔で床に寝転がった。
一刻も早くバカで笑いたいって気持ちをおさえた。
だって、それがヒエラルキー上位者の姿であるから。

「しかしだな、親分」
ところがエゴ山は、俺に言った。
俺の顔をして女の体をしたエゴ山の、キーボードに置いた手は、小指を立てたまま静止していた。

「違和感でゴンス」
エゴ山は言った。

俺はちょっとイラっと来てエゴ山に言った。
「なにがだ」

「だってさあ」
エゴ山は言った。
「エモツイートが、いつもと同じでゴンス」

「あ?」
俺は立ち上がり、PCを覗き込むと、「バカAI」のつくったエモツイートを読んだ。

バレンタインって、
真冬にそっと灯る
小さなキャンドルみたいな日。

#バレンタインエモ #emo #エモ山

Hotなチョコレート。
胸の奥でほどける気持ち。
吐息でフウッって冷まして
ちょうどいい温度にしてよね

#愛のエモ #エモポエム #生まれてくれてありがとう

Valentineってさ、
自分に愛を伝える日でもあるよね。
ヴァン・アレン帯のかなたから
どこかやさしい
わたしへの、ありがとう。

#自己肯定感 #エモバレンタイン #宇宙エモ


それは、いつもと同じエモツイ。
「バカAI」のつくるエモは、どこにでもあるエモだった。

これはどういうことなのだ。

「バカだバカ、バカを出せ!」
俺は言った。
「もっと恥ずかしいエモを!」
「もっとイっちゃってるバカを!」

俺が欲しかったのは、驚きのバカだった。
低確率を選ぶという「バカAI」なら、度肝抜くようなバカエモツイートを、作れるはずだった。

しかし俺がいくらエゴ山の肩を叩き鼓舞しても、エゴ山の指はバカをはじき出すことができなかった。

「やめろ」

俺にばしんばしんと肩を叩かれ続けたエゴ山が、ついには静かな声でそう言って俺の手首をつかむまで、
俺はエゴ山の肩を叩き続けた。

これはどういうことなのだ。

どのエモツイも、いたって普通だった。

低確率を選ぶ「バカAI」が低確率の道すじたどって見つけてくるのは、
どれも普通のことば。
俺たちはまるで、「はなさかじいさん」の悪いおじいさんのほうだった。
ここ掘れわんわんと言われ掘ったのにゴミしか出てこない、あの状況。

出すエモ出すエモ、すべてが金太郎飴、普通のエモだった。

どの道を通っても、同じ場所に行きついてしまうかに思えた。
俺たちは、同じ場所を、ぐるぐると回っているようだった。

どういうことなのだ。

「もしかして」
エゴ山がつぶやいた。
「低確率を選んでも、行く先に、バカがないのなら…」

エゴ山と俺は、顔を見合わせた。
俺の顔が俺を見て、俺の顔が俺を見た。

どこまでも俺。
どこまでも俺だった。

「俺たちもしかして」
エゴ山が、かすれ声で言った。
「出口のないところにいるんじゃないのかな」

俺は沼田の言葉を思い出す。
「ことばが多すぎる。吐き出しすぎる。吐き出して、吐き出して」

「時間の進みが、変わったんです。速すぎるんです。人間が、すぐに吐き出してしまうから。都合のいいように、AIにつくらせるから。装置になっていることに、気づかないから」

俺は息苦しくなって、深呼吸した。

進むということは、上がっていくことじゃないのか。
進むということは、前進ではないのか。

俺たちは、汗をかき、夜明けまでツイートを作り続けた。

(続く)



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