見出し画像

#シロクマ文芸部 夜を泳ぐ花~短編フィクション小説~

小牧幸助さんのお遊び企画「月の花」に参加です。

締切は2/4(水)23:59だそうです。よろしくお願いします。


夜を泳ぐ花

月の花は、太陽の下では咲けない。

でも、それは弱さではない。

そう気づくまでに、私はずいぶん長い時間をかけてしまった。

オフィスの窓際、同期の玲奈の声が響く。

彼女が笑うと、フロアの空気がパッと華やぐ。

企画会議でのプレゼンも見事だった。

手振りを交え、光を集めるように語る彼女は、まさに大輪のひまわりだ。

対して私は、会議室の隅で議事録を取る係。

あるいは、彼女が輝くための資料の数字を、ひたすら精査する係。

「細かいところまでありがとう、助かるわ」

玲奈の屈託のない笑顔に向けられるたび、胸の奥がチクリとした。

彼女が悪いわけではない。

ただ、私が勝手に惨めになっているだけだ。

地味で、慎重で、石橋を叩いて渡るような自分の性格が、この煌びやかな業界では「足かせ」のように思えてならなかった。

「もっと前に出なきゃ」

「もっと明るく振る舞わなきゃ」

そう思えば思うほど、言葉は喉につかえ、笑顔は引きつった。

無理をして「ひまわり」の真似事をするたび、自分の中の大切な何かが枯れていく音がした。

残業の帰り道。

いつもの公園の脇を通ると、甘い香りが鼻をくすぐった。

街灯の少ない暗がりの中に、白い花がぼんやりと浮かんでいる。

月見草だ、と思った。

昼間見たときは、ただの萎れた雑草のようだったのに。

夜の帳が下り、太陽が隠れた静寂の中でだけ、その花は驚くほど凛と咲いていた。

誰に見られるためでもなく、ただ自分の命を全うするために。


ふと、今日の上司の言葉が蘇る。

『今回のプロジェクト、成功したのは君がリスクリストを作ってくれたおかげだ。あのまま進めていたら、大きな穴に落ちていたよ』

誰も見ていない深夜、私が一人で積み上げたシミュレーション。

派手さのかけらもない、地味な作業。

でも、それは確実にチームを守っていた。

私は、ひまわりになろうとしていた。

夜に咲く花が、昼の光を浴びようとして焦げていたのだ。

私の慎重さは、臆病さではなく「守る力」。

私の静けさは、暗さではなく「深める力」。

咲く場所を間違えていただけなのだ。

私が輝くのは、眩しいスポットライトの下ではない。

誰かが安心して歩けるように足元を照らす、静かな夜の場所だ。

そう認めた瞬間、胸につかえていた黒い塊が、スッと溶けていくのを感じた。


私は、私のままでいい。

置かれた場所で無理に咲く必要なんてない。

私が美しく咲ける場所を、私が選べばいいのだ。

夜風が吹く。

白い花が揺れる。

私は深く息を吸い込み、月を見上げた。

明日からは、もっと胸を張って「日陰」を歩こうと思う。

そこには、私にしか咲かせられない花があるのだから。


  ~ 終 ~


#シロクマ文芸部

いいなと思ったら応援しよう!

伊藤ようこ| 強み×IT×AIで女性起業家をサポート| 自己受容から始まるしなやかな生き方note あなたの応援が、私の毎日の創作の原動力になっています。最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。いただいたサポートは、書籍の購入など、これからの活動に大切に使わせていただきます。みなさんのおかげで、毎日noteを書くことが楽しみになっています。

この記事が参加している募集