よしちゃんさんの12月イベント企画に参加!!短編小説「消えたサンタの求人票」
素敵な記事見つけました~!!
よしちゃんさんが、とっても今の季節ぴったりなイベントを企画していました!
参加期限は12/25までだそうです。滑り込みで参加したいと思います!!
参加方法
◆期間
12月25日まで
1.アイコンをクリスマスに♡
2.記事はクリスマスに関連していれば何でもOK!
3.「 #ゆるく楽しいクリスマス企画 」をつけて投稿!
※記事の内容がクリスマスに関係のないものはご遠慮願います🙏

消えたサンタの求人票
転職サイトを開くのは、もう習慣になっていた。
フリーになって一年。前みたいに残業でへとへとまで働くことはなくなったけれど、その分だけ「これでいいのかな」という空白が、夜になると静かに広がってくる。
その日も、湯気の立たなくなったマグカップを横目に、惰性で求人一覧をスクロールしていた。
営業、事務、カスタマーサポート。
知っている言葉ばかりで、知っている疲れ方ばかりだ。
あくびをひとつしたとき、不意に画面の色がふっと変わった。
サンタクロース見習い募集
一行だけ、赤い帯で囲まれた求人が現れていた。
サンタクロース。
目を瞬かせて、詳細をタップする。
経験不問・学歴不問・年齢不問
勤務地:世界各地(リモート可)
条件:「誰かの笑顔をあきらめたことがある人」限定
最後の一文を読み返して、思わず声が漏れた。
「なにこれ……」
給与の欄には、こう書かれている。
給与:応相談(ただし、あなたの物語に応じて決定)
ふざけているのか、本気なのかさえわからない。
でも、どこか胸の奥がちくりとした。
「誰かの笑顔をあきらめたことがある人」。
それは、過去の自分に刺さる言葉だった。
クリックしようとした瞬間、画面が一瞬、暗くなった。
再び表示されたときには、さっきの求人は消えている。
「え?」
ページの一番上までスクロールしても、「サンタクロース見習い募集」は見当たらない。
検索窓に「サンタ」と打ち込んでも、ヒットしたのは、ケーキ屋と雑貨屋と、どこかの保育園だけだ。
見間違いだったのかもしれない。
そう思いかけたとき、スマホが一通のメール受信を告げた。
件名:ご応募ありがとうございます/サンタクロース見習い募集
背筋が冷たくなる。
開いてみると、そこには淡々とした文章が並んでいた。
このたびは当募集にご応募いただき、ありがとうございます。
一次選考は書類(=あなたのこれまでの人生)にて通過となりました。
下記の場所にて、合宿形式の面接を行います。
場所の欄には、地図アプリでも見たことのない番地が記されている。
日付は、なんと明日!クリスマスの日。
指先が、自然にスクロールしていた。
服装:自由。サンタのコスプレは不要です。
持ち物:10歳の自分に渡したかったプレゼントのイメージ。
何度読んでも意味はわからない。
でも、メールを閉じることができなかった。
十歳の、自分。
あの頃の自分に、何を渡したかっただろう。
深呼吸をひとつして、スマホをテーブルに伏せた。
行く理由なんて、特にない。
行かない理由なら、いくらでも並べられる。
でも、その夜、眠りにつくまでのあいだ、赤い帯で囲まれた「サンタクロース見習い募集」の文字が、まぶたの裏でちらちらと瞬いていた。
指定された住所に向かうと、街の地図が急に曖昧になった。
普段は歩かない路地を抜け、古い商店街を横切ると、坂の向こうに灰色の建物が見えてくる。
廃校になった小学校みたいな、古い洋館みたいな、不思議な建物だった。
門には、「関係者以外立ち入り禁止」という錆びた看板。その下に、新しい紙が一枚だけ貼られている。
本日の使用目的:特別面接会場
ぎい、と音を立てて門を押すと、冷たい空気が頬をなでた。
体育館のようなホールに入ると、丸椅子がいくつか円を描くように並べられていた。
すでに何人か座っていて、ざわざわと小さな話し声がする。
その中で、一人の女性と目が合った。
三十代半ばくらい。落ち着いた色のニットに、少し猫背の姿勢。膝の上で手をぎゅっと組んでいる。
「あの……ここ、サンタの……」
声をかけると、彼女はほっとしたように笑った。
「見習い募集の面接、ですよね? たぶん、合ってると思います」
言ってから、ふたりとも笑ってしまう。
隣の席には、スーツ姿の男性が紙コップの水を落ち着きなく揺らしていた。
向かい側には、エプロンを畳んで膝に乗せている主婦らしき人。
誰も、冗談でここに来たようには見えない。
それぞれの目の下のクマや、指先のささくれや、沈黙の間合いに、疲れがにじんでいた。
まるで、かつての自分を外側から見ているみたいだ。
ふと、そんな感覚がよぎる。
扉が音を立てて開いた。
「お待たせしました」
白髪まじりの男性が入ってきた。
赤い服でも、白いひげでもない。グレーのカーディガンに、少しよれたシャツ。
ただ、その目だけが、不思議なくらい澄んでいる。
「サンタクロース養成講師の、三崎です」
男は、軽く会釈してから、円の中に入ってきた。
「まず、誤解を解いておきましょう。今日は求人の面接ではありません。人に夢を配る前に、自分の夢を取り戻す合宿に、ようこそ」
静まり返った空気に、その言葉だけが落ちた。
「では、最初のワークです」
丸椅子の真ん中に、白い画用紙と色鉛筆の箱が置かれた。
久しぶりに見る小学校の道具に、胸の奥がきゅっとする。
「題して、十歳の自分へのプレゼント」
三崎は、にこりと笑った。
「十歳の自分に、今年のクリスマスに何をプレゼントしたいか。
物でも時間でも、言葉でも構いません。
絵でも文字でもいい。五分間、自由に描いてください」
十歳の、自分。
色鉛筆を手に取ると、指に違和感が走った。
この数年、ボールペンとキーボードくらいしか触ってこなかったことに気づく。
十歳のころの自分は、何がほしかっただろう。
ブランド物のバッグでも、最新ゲームでもない。
あの頃の部屋、あの頃の空気が、ふっと蘇る。
病気がちな母の顔色を見ながら、静かに本を読んでいた自分。
テストの点よりも、がんばっているねと言ってほしかった自分。
母に授業参観に見に来てほしかった自分。
気づいたら、画用紙には小さな時計が描かれていた。
針のない、丸い時計。
その下に、「気にしなくていい時間」と書き添える。
隣では、元保育士だという女性が、大きな毛布の絵を描いていた。
スーツの男性は、鉛筆で「話を最後まで聞いてくれる大人」と、ぎこちない文字をならべている。
主婦らしき人は、ケーキの横に、にこにこした自分の絵を描いていた。
「みなさん、いいですね」
三崎は、一人ひとりの紙をのぞき込みながら言った。
「おもちゃやゲームを描く人も多いですが、今日の皆さんは違う。
空気や時間やまなざしを描いている。
つまり、みなさんは、そういうものを受け取らずに大人になった人たちだ」
その言葉は、不思議と責める響きがなかった。
「サンタの仕事は、箱を配ることではありません。
こんな世界があったらいいなというイメージを、少しだけ現実に近づけることです。
みなさんは、まずそのイメージを、十歳の自分のために描いた。
それが、最初の一歩です」
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
十歳の自分の膝に、針のない時計をそっと渡すイメージが浮かぶ。
「もう時間を気にしなくていいよ」と、いまの自分が言っている。
日が暮れるころ、ホールの明かりが落とされ、代わりに小さなキャンドルが灯された。
円の真ん中に置かれた炎が、壁に揺れる影をつくる。
「夜のセッションです」
三崎の声が、少し低くなる。
「テーマは、いちばん最近、自分の夢を手放した瞬間」
最初に口を開いたのは、スーツの男性だった。
大手の営業職だったこと。
数字だけを追いかけるうちに、いつのまにか、自分の好きだった「人の話を聞くこと」が苦痛になったこと。
やめるとき、「夢をあきらめてごめん」と、どこかに謝っている感覚があったこと。
次に、保育士の女性が話す。
子どもたちは好きだったけれど、職場の人手不足とサービス残業にすり減っていったこと。
「いい先生でいなきゃ」と思うあまり、自分の生活を切り刻んでしまったこと。
主婦の女性は、ぽつりと漏らした。
「いつか、手づくりの絵本を出したかったんです。
でも、子どもが生まれてから、いつかがどんどん遠くなって。
最近、ノートを一冊、丸ごと捨てました。そんな暇ないでしょって、自分に言って」
炎の揺らぎの中で、涙が静かに光る。
順番が回ってきた。
喉がからからに乾いているのに、言葉を出さなければならない。
「……2年前まで、会社員でした」
自分の声が、少し遠くに聞こえる。
「本当は、物語を書きたかったし、人の話を聞く仕事がしたかった。
でも、そんなの食べていけないって、自分で勝手に決めて。
気づいたら、残業と朝方のタイムカードの間を往復するだけの生活になっていて」
ある日、会社のトイレで泣きながら、鏡に向かってつぶやいた言葉を思い出す。
「もういいよねって、自分に言ったんです。
夢とか、そういうの、もういいよねって」
キャンドルの炎が、じわりと滲んだ。
三崎は、しばらく何も言わなかった。
沈黙が、逃げ場ではなく、支えのようにそこにある。
「……わたしも、同じです」
やがて彼は、穏やかに口を開いた。
「若いころ、サンタになるのが夢でした。
でも、現実には、普通の会社に入り、普通に疲れました。
夢を手放した人の気持ちは、よく知っています。
だからこそ、こうして見習いを集めている」
「どうして、夢を手放した大人を?」
誰かが尋ねた。
三崎は、キャンドルの火を見つめたまま答える。
「夢を手放したことのある人は、なくす痛みを知っています。
その痛みを知っているからこそ、誰かに無理やりプレゼントを押しつけたりしない。
必要なときに、必要なものだけをそっと差し出せる。
サンタにとって、一番大事なのは、そこなんです」
合宿の最終日、机の上に白い封筒が並べられた。
一人一人の名前が書かれている。
「では、最後に契約書をお渡しします」
三崎の声には、少しだけ茶目っ気が戻っていた。
「ここにサインした方は、今日から正式にサンタクロース見習いです」
封筒を開けると、紙が一枚入っていた。
びっしりと規約が書かれているのかと思いきや、真ん中に一文だけ。
今年のクリスマス、あなたはまず、自分自身にプレゼントを贈ること。
それだけだった。
「え……これだけですか?」
スーツの男性が、思わず声を上げる。
「はい。それだけです」
三崎は、あたりまえのようにうなずいた。
「自分が何も受け取っていないのに、人にだけ配ろうとすると、いつか必ず枯れます。
まず自分に、十歳の自分がほしがっていたものを贈ってください。
時間でも、場所でも、まなざしでも。
そのうえで、もし余裕があったら、誰かにほんの少し、おすそ分けしてあげればいい」
紙を見つめる。
今年のクリスマス、自分に贈るプレゼント。
十歳の自分が望んでいた、「気にしなくていい時間」。
あの日の時計の絵が、胸の奥でふたたび色を取り戻す。
「……やります」
気づいたら、そう口にしていた。
「今年のクリスマス、仕事の依頼は全部断って、一日、好きなだけ物語を書きます。
誰に見せるかも決めずに、とりあえず書いてみる。
それを、自分へのプレゼントにします」
三崎は、深くうなずいた。
「いいですね。それがあなたにしかできない配り方です」
保育士の女性は、「一日だけ、何もしないで昼寝をして、お気に入りの絵本を読み返します」と宣言した。
主婦の女性は、「子どもが寝たあとに、ずっとしまっていたノートを買い直して、一ページだけ絵本の下描きをします」と、少し照れながら話した。
それぞれの宣言が終わるたびに、キャンドルの炎が少しだけ高くなる気がした。
帰り道、スマホを開いてみる。
受信ボックスにも、ゴミ箱にも、「サンタクロース見習い募集」からのメールは残っていなかった。
転職サイトのアプリを開き、履歴を確認する。
あの赤い帯の求人は、どこにも見当たらない。
本当に、あれはあったのだろうか。
あの建物も、あの人たちも、三日間の合宿も。
でも、手の中には一枚の紙がある。
今年のクリスマス、自分自身にプレゼントを贈ること。
ポケットの中のボールペンで、そこに自分の名前を書き込んだ。
家に帰ると、久しぶりにノートパソコンをテーブルの真ん中に置いた。
新規ファイルを開き、タイトル欄にゆっくりと文字を打ち込む。
消えたサンタの求人票
カーソルが、規則正しく瞬いている。
薄い画面の光の向こうで、十歳の自分が、少しだけ笑った気がした。
今年のクリスマスは、誰かにプレゼントを配る前に、自分に物語を一本、贈ってみよう。
それが、見習いサンタとしての最初の仕事だ。
そう決めて、最初の一行を打ち始めた。
~終~

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